(47)カウントダウン⑤
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「そこらへんを失念しているとは、やはり君は詰めの甘い大馬鹿者と言わざるをえない」
ぐさり。
カイルは、エルネストの背後でトラウマになりつつある黒いウールヴェのイラストが飛び回っているような錯覚を覚えた。
多分エルネストもわかっていて言っているに違いない。アードゥルは直接的に叱責をするタイプだが、エルネストは穏やかに微笑みながら相手を油断させて崖から突き落とすタイプだった。
それまで黙って聞いていたセオディア・メレ・エトゥールが初めて口を開いた。
「民衆の要望が貪欲なものになるという危惧は、わからないでもない。シルビア嬢も同じ点を指摘していた」
「この大馬鹿者より、彼女の方が遙かに先見の明がありますね」
「そこで、目くらましを考えた」
「目くらましとは?」
一応、臣下としての礼を維持しているエルネストが問いかけた。
「そのエトゥールの優秀な臣民である平民老夫婦に土地と爵位を与えよう」
「「「「はい?」」」」
突拍子もないメレ・エトゥールの提案に、その場にいた一同が唖然とした。
「別におかしなことではない。将来のエトゥールを思いやっての、品種改良を施した種子の提供、王として私はとても感銘を受けた」
セオディア・メレ・エトゥールは老農夫の功績を笑顔でたたえた。無論、口実であることは明らかだった。
「………………メレ・エトゥール、また悪い癖が出ています」
クレイ兵団長がやれやれといった感じで諫める。
「準備する者の苦労を考慮してください」
「そうか?」
「はい」
「その昔、貴族の子息の誘拐未遂を行った街のならず者を兵士に推薦したほどじゃないと思うのだが」
「……………………当時の関係者の胃の痛みを思い知った気分です」
「ははは」
エトゥール王と第一兵団長の謎の会話に、カイルだけは思い当たる件があった。
カイルがちらりと視線をやると、露骨なほどクレイはその視線を避けた。
「土地と爵位の授与を打診してみよう。おそらく恐れ多いと断ってくると思うが、承諾すれば承諾したで、なおいい。メレ・アイフェスが治療を施したことなど、ささいな類になり吹き飛ぶはずだ。断った場合は、その代価としてエトゥール王に命じられた治療をメレ・アイフェスが行ったに過ぎない。不平等なのは賢者ではなく、王だ」
「時系列をいれかえるわけですか」
「そう」
「メレ・エトゥールがこの大馬鹿者の尻ぬぐいをすると?」
口が悪いのは、意外なことにエルネストの方だった。アードゥルは沈黙を守っている。
「喜んでするとも。尻ぬぐいは得意だ。例えば、突然歌姫と駆け落ちして、辺境領を放り出した辺境伯の尻ぬぐいなどで鍛えられているからな」
「……………………実績としてご協力できて何よりです」
視線をかわして微笑みあうメレ・エトゥールと元アドリー辺境伯のやり取りに、カイルの方が肝を冷やした。二人とも目は笑っていない。セオディア・メレ・エトゥールは相手が初代であっても容赦なかった。
「おい」
アードゥルが囁くようにカイルに尋ねた。
「本当にお前はこんな癖の強い王を義兄にしたのか。物好きな……」
「ファーレンシアが彼の妹だから、仕方なかったんだよ」
「称賛すべき勇気だな」
「彼は初代王であるロニオスの子孫の系譜のはずだから、彼の癖の強い性格もロニオスの遺伝子のなせる業じゃない?僕は知り合った頃に、彼に勝つことは諦めている」
その発言にアードゥルはつくづくとカイルを眺めた。
「何?」
「そうだな、ロニオスの血なら仕方がない」
「納得しちゃうんだ」
「ロニオスが曲者の総大将みたいなものだからな。周りを振り回すのは間違いなく血筋のなせる業だ」
「……貴方の元支援追跡者のことだよね?」
「そうだが?」
「表現が、悪の秘密結社の総統のように聞こえるけど?」
「ニュアンスが正しく伝わっていて、喜ばしい限りだ」
「………………」




