(44)カウントダウン②
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ブックマーク、感想、ありがとうございました!
「面白い」と言われるとニマニマと顔が緩んでしまいます。
テンション上がりました!更新頑張ります。
カイルは目の前に広がる田園風景を見つめていた。
王都から離れたこの穀倉地帯は、エトゥールの食料供給を支える要の一つとカイルは記憶していた。
その美しい光景をぶち壊すような、無粋な赤い旗が一定間隔で並べられている。大災厄の被害範囲を示す滅びの旗だ。
その旗の境界の中は避難対象区域になる。
皮肉なことに、大災厄前に隕石により居住地が壊滅した村民の方が、素直に移住に応じた。当たり前だ。彼等は生命とわずかな財産以外は全てを失ったのだから。
メレ・エトゥールの疎開条件を呑み、アドリーや国境に近い縁のある街や村に移りすんでいた。
すでに国境は封鎖され、出ることは許可されてもエトゥールに入ることは許されない。王都に向かおうとする外国籍傭兵や商人など論外だった。
皆愚かにも「本当にエトゥールの国境が封鎖されるなんて」と動揺している。
カイルは小さな吐息をついた。
セオディア・メレ・エトゥールが隣国に出した信書の通りに、空から星が降ってきて、エトゥールの予言は成就している。
エトゥールの門は閉ざされることなく、隣国の使者が次の「星降り」の先見を乞えば、偉大なるエトゥール王は惜しみなく次の予言を与えた。その救済につながる知恵の門が閉ざされたことに動揺したのは、エトゥールの民ではなく、隣国だった。
王都が大災厄に見舞われるなんて、さすがに想像できなかったに違いない。
エトゥール国内で暗躍する他国の間者は報告に迷っていることだろう。王都が滅亡することを前提に、セオディア・メレ・エトゥールがアドリーに遷都を進めているなど、そんなことが信じられるだろうか?
全てはメレ・エトゥールの思惑通りになり、防衛と疎開の貴重な時間を生み出した。
――あの人と、盤上遊戯はしたくないな。
そう、カイルは思った。
ディム・トゥーラ同様、セオディア・メレ・エトゥールに勝てる気が全くしない。
カイルは被害境界線近くに移動装置を設置しつつ、第一兵団とともに巡回していた。被害が想定される街や村に、疎開を拒んで残留しているのは、この隙に略奪をたくらむ不成者か、老人が多かった。
「カイル様」
クレイ団長が馬でやってきた。彼はこの近くの村を巡回していたはずだ。
「申し訳ありませんが……」
「説得?」
「いえ……村の残留者が、ぜひ導師とお話しがしたいと」
「わかった」
カイルはクレイの手を借りて、彼の後ろに飛び乗り、二人乗りの状態で村まで馬を走らせてもらった。
残留している者の理由は様々だった。予言を信じず、馬鹿にしている者もいれば、独り身で身体の不自由さから疎開を諦めた者もいる。
身体的理由だった場合、第一兵団が手を貸して、アドリーに新設した施療院に移動することを説得したりもした。
カイルが案内された小さな家には、寝たきりの老婦人と、床に正座をして深く叩頭している老人がいた。
「頭をあげてください」
カイルは老人の前に膝をついて、話しかけた。
「おお……おお……偉大なる導師様……」
老人は一瞬だけ顔をあげ、再び恐れ多いとばかりに伏せた。
「お許しください。メレ・エトゥールの言いつけにそむき、この地に残ることを」
「……残る理由をきいてもいいですか?」
「連れは……もう動くこともかないません……疎開をして死を迎えるのなら、せめて長年すごしたこの地で、最後を共に迎えたいと思います……」
「……」
カイルは寝台で眠る老婦人の方を見た。加齢が原因の衰弱状態であることは、すぐにわかった。
老人の見立ては、正しい、とカイルは思った。この老女は過酷な避難生活に耐えられないだろう。
「一時的に容態を保たせることはできますが……」
カイルの申し出に老人は首を振った。
「わしらは、メレ・エトゥールの予言を疑っているわけではないのです。むしろ信じています。……星が落ち、王都からここまで、被害が及ぶ。そして気温が、下がる――穀物が育たなくなると。食糧が不足するなら、こんな老人達が消費するより、子供達に与えたいと思います……」
「……」
カイルは視線を落とした。




