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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
904/1015

(44)カウントダウン②

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマーク、感想、ありがとうございました!

「面白い」と言われるとニマニマと顔が緩んでしまいます。

テンション上がりました!更新頑張ります。


 カイルは目の前に広がる田園風景を見つめていた。

 王都から離れたこの穀倉地帯(こくそうちたい)は、エトゥールの食料供給を支える(かなめ)の一つとカイルは記憶していた。


 その美しい光景をぶち壊すような、無粋(ぶすい)な赤い(はた)が一定間隔で並べられている。大災厄の被害範囲を示す(ほろ)びの(はた)だ。

 その(はた)の境界の中は避難対象区域になる。


 皮肉なことに、大災厄前に隕石により居住地が壊滅(かいめつ)した村民の方が、素直に移住に応じた。当たり前だ。彼等は生命とわずかな財産以外は全てを失ったのだから。

 メレ・エトゥールの疎開条件を呑み、アドリーや国境に近い(えん)のある街や村に移りすんでいた。

 

 すでに国境は封鎖され、出ることは許可されてもエトゥールに入ることは許されない。王都に向かおうとする外国籍傭兵(ようへい)や商人など論外だった。

 皆(おろ)かにも「本当にエトゥールの国境が封鎖されるなんて」と動揺(どうよう)している。


 カイルは小さな吐息をついた。


 セオディア・メレ・エトゥールが隣国に出した信書の通りに、空から星が降ってきて、エトゥールの予言は成就(じょうじゅ)している。

 エトゥールの門は閉ざされることなく、隣国の使者が次の「星降り」の先見を乞えば、偉大なるエトゥール王は惜しみなく次の予言を与えた。その救済につながる知恵の門が閉ざされたことに動揺したのは、エトゥールの民ではなく、隣国だった。

 

 王都(エトゥール)が大災厄に見舞われるなんて、さすがに想像できなかったに違いない。

 エトゥール国内で暗躍(あんやく)する他国の間者は報告に迷っていることだろう。王都が滅亡することを前提に、セオディア・メレ・エトゥールがアドリーに遷都(せんと)を進めているなど、そんなことが信じられるだろうか?


 全てはメレ・エトゥールの思惑通りになり、防衛(ぼうえい)と疎開の貴重な時間を生み出した。


――あの人と、盤上遊戯(ばんじょうゆうぎ)はしたくないな。


 そう、カイルは思った。

 ディム・トゥーラ同様、セオディア・メレ・エトゥールに勝てる気が全くしない。




 カイルは被害境界線近くに移動装置(ポータル)を設置しつつ、第一兵団とともに巡回していた。被害が想定される街や村に、疎開を(こば)んで残留しているのは、この(すき)に略奪をたくらむ不成者(ならずもの)か、老人が多かった。

 

「カイル様」


 クレイ団長が馬でやってきた。彼はこの近くの村を巡回していたはずだ。


「申し訳ありませんが……」

「説得?」

「いえ……村の残留者が、ぜひ導師(メレ・アイフェス)とお話しがしたいと」

「わかった」


 カイルはクレイの手を借りて、彼の後ろに飛び乗り、二人乗りの状態で村まで馬を走らせてもらった。



 

 残留している者の理由は様々だった。予言を信じず、馬鹿にしている者もいれば、独り身で身体の不自由さから疎開を諦めた者もいる。

 身体的理由だった場合、第一兵団が手を貸して、アドリーに新設した施療院に移動することを説得したりもした。


 カイルが案内された小さな家には、寝たきりの老婦人と、床に正座をして深く叩頭(こうとう)している老人がいた。


「頭をあげてください」


 カイルは老人の前に膝をついて、話しかけた。


「おお……おお……偉大なる導師様(メレ・アイフェス)……」


 老人は一瞬だけ顔をあげ、再び恐れ多いとばかりに伏せた。


「お許しください。メレ・エトゥールの言いつけにそむき、この地に残ることを」

「……残る理由をきいてもいいですか?」

「連れは……もう動くこともかないません……疎開をして死を迎えるのなら、せめて長年すごしたこの地で、最後を共に迎えたいと思います……」

「……」


 カイルは寝台で眠る老婦人の方を見た。加齢が原因の衰弱(すいじゃく)状態であることは、すぐにわかった。

 老人の見立ては、正しい、とカイルは思った。この老女は過酷(かこく)な避難生活に耐えられないだろう。


「一時的に容態(ようたい)を保たせることはできますが……」


 カイルの申し出に老人は首を振った。


「わしらは、メレ・エトゥールの予言を疑っているわけではないのです。むしろ信じています。……星が落ち、王都からここまで、被害が及ぶ。そして気温が、下がる――穀物が育たなくなると。食糧が不足するなら、こんな老人達が消費するより、子供達に与えたいと思います……」

「……」


 カイルは視線を落とした。

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