(42)祝宴⑯
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ダウンロード・評価ありがとうございました!
なかなか場面にあった挿絵のAIイラストを作成できずに、苦労しています……。
カイルは念動力に関するよくわからないアドバイスと、意外に心のこもった祝福を投げたウールヴェを見つめた。まさか世界の番人と連名で祝われるとは思わなかったからだ。
周囲の花吹雪は強くなり、世界の番人もその祝辞を否定することなく、むしろ強く肯定しているようだった。
「ありがとう、ロニオス。世界の番人」
カイルは素直に礼を言った。
『では、またの機会に』
「本番時のディムと一緒の降下を待っているよ」
カイルはすかさず、外堀を埋めた。ロニオスとディムの支援は、間違いなく地上の被害を軽減するはずだった。
『……私を使う代価は高いぞ?山ほど秘蔵酒を用意しておくがいい』
白い狼は、その場から離れると、エルネストとアードゥルに何かを告げ、用は済んだとばかりに、あっさりと姿を消した。
取り残されたディム・トゥーラの方が焦った。
正体を隠しているとはいえ、息子の結婚に対してのロニオスの反応が淡白すぎた。本当に秘蔵酒がなければ、結婚の儀への招待も断っていそうだった。
ディムは、こっそりとカイルの様子を伺った。
これまた、ロニオスのそっけない帰還をなんとも感じていないようだった。
真実を知っている自分だけが、二人のやり取りにヤキモキして落ち着かないことに、ディムは複雑な気分に陥った。
「どうしたの?」
『いや、俺も帰るとしよう』
白い虎は、カイルを見つめた。
『姫にもよろしく伝えておいてくれ』
「わかった」
『おめでとう、幸せになれ』
カイルは照れたように笑った。
「ありがとう」
『何かあったら、まめに報告しろ。隠し事はするなよ』
「うへっ……藪蛇」
『これに関しては、お前は信用がない』
容赦なくカイルを凹ませてから、ウールヴェは、アードゥル達の方へ向かった。
アードゥルは近づいてくる虎に片眉をあげた。
「帰るのか?」
『次に地上に来るのは、本番だと思う。俺がくるまで、カイルを頼む』
エルネストとアードゥルは意味ありげに視線をかわした。
「まかせろといいたいところだが、あのお人好し馬鹿が心配なら、さっさと降りてくることだ。阿鼻叫喚の地獄の中、支援追跡者もなしに放置するべきじゃない」
『わかっている』
「まあ、仕方がないから、面倒は見るが」
「アードゥル、君も案外素直じゃないな?防護壁を空中展開する訓練に散々つきあっているくせに、今更「仕方がない」という表現を使うとは……」
余計なことを言ったのはエルネストだった。
「やかましい」
「安心してくれ。ロニオスにも同じことを頼まれた」
エルネストの言葉にディム・トゥーラの方が驚いた。
『ロニオスが?』
「驚くべきことに彼にも人間らしいところがあったみたいだ」
元弟子の発言は、酷評だった。
カイルは、花が舞い散る中、白い虎のウールヴェが観測ステーションに向かって跳躍し、幻のように消えるのを見守った。
一枚の完成した絵のようだとカイルは思った。
カイルはまだ花吹雪を生み出し続けている精霊樹を見上げた。
この大樹も大災厄で失われる。全てが幻のように失われるのだ。
自分が地上を守りたいという感情は、エゴから生まれている。初めて見つけた自分の居場所を守りたいというただの利己主義の極みだった。
ディム・トゥーラはカイルのことを「利他的」と言っていたが、実際は真逆だった。そのことをカイルは恥じていた。醜いとも思っていた。
世界のために戦っているようなふりをして、実際は、孤独を恐れ、大災厄を口実に行動しているだけだった。
世界の番人のような慈愛もない。
ロニオスのような軸もない。
セオディア・メレ・エトゥールのような矜持もない。
ウールヴェのような純粋さもない。
――これで、どうやって自己肯定を高めろと言うのだろうか。
カイルは唇を噛み締め、自己嫌悪に耐えた。
そんなカイルを慰めるように、花びらは周りに振り続けた。




