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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
902/1015

(42)祝宴⑯

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ダウンロード・評価ありがとうございました!

なかなか場面にあった挿絵のAIイラストを作成できずに、苦労しています……。


 カイルは念動力に関するよくわからないアドバイスと、意外に心のこもった祝福を投げたウールヴェを見つめた。まさか世界の番人と連名で祝われるとは思わなかったからだ。

 周囲の花吹雪は強くなり、世界の番人もその祝辞を否定することなく、むしろ強く肯定しているようだった。


「ありがとう、ロニオス。世界の番人」


 カイルは素直に礼を言った。


『では、またの機会に』

「本番時のディムと一緒の降下を待っているよ」


 カイルはすかさず、外堀を埋めた。ロニオスとディムの支援は、間違いなく地上の被害を軽減するはずだった。


『……私を使う代価は高いぞ?山ほど秘蔵酒を用意しておくがいい』


 白い狼は、その場から離れると、エルネストとアードゥルに何かを告げ、用は済んだとばかりに、あっさりと姿を消した。


 取り残されたディム・トゥーラの方が焦った。

 正体を隠しているとはいえ、息子の結婚に対してのロニオスの反応が淡白すぎた。本当に秘蔵酒がなければ、結婚の儀への招待も断っていそうだった。


 ディムは、こっそりとカイルの様子を(うかが)った。

 これまた、ロニオスのそっけない帰還をなんとも感じていないようだった。

 真実を知っている自分だけが、二人のやり取りにヤキモキして落ち着かないことに、ディムは複雑な気分に(おちい)った。


「どうしたの?」

『いや、俺も帰るとしよう』


 白い虎は、カイルを見つめた。


『姫にもよろしく伝えておいてくれ』

「わかった」

『おめでとう、幸せになれ』


 カイルは照れたように笑った。


「ありがとう」

『何かあったら、まめに報告しろ。隠し事はするなよ』

「うへっ……藪蛇(やぶへび)

『これに関しては、お前は信用がない』


 容赦なくカイルを(へこ)ませてから、ウールヴェは、アードゥル達の方へ向かった。

 アードゥルは近づいてくる虎に片眉をあげた。


「帰るのか?」

『次に地上に来るのは、本番だと思う。俺がくるまで、カイルを頼む』


 エルネストとアードゥルは意味ありげに視線をかわした。


「まかせろといいたいところだが、あのお人好し馬鹿が心配なら、さっさと降りてくることだ。阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄の中、支援追跡者(バックアップ)もなしに放置するべきじゃない」

『わかっている』

「まあ、仕方がないから、面倒は見るが」

「アードゥル、君も案外素直じゃないな?防護壁(シールド)を空中展開する訓練に散々つきあっているくせに、今更「仕方がない」という表現を使うとは……」


 余計なことを言ったのはエルネストだった。


「やかましい」

「安心してくれ。ロニオスにも同じことを頼まれた」


 エルネストの言葉にディム・トゥーラの方が驚いた。


『ロニオスが?』

「驚くべきことに彼にも人間らしいところがあったみたいだ」


 元弟子(アードゥル)の発言は、酷評(こくひょう)だった。


 



 カイルは、花が舞い散る中、白い虎のウールヴェが観測ステーションに向かって跳躍(ちょうやく)し、(まぼろし)のように消えるのを見守った。

 一枚の完成した絵のようだとカイルは思った。


 カイルはまだ花吹雪を生み出し続けている精霊樹を見上げた。

 この大樹も大災厄で失われる。全てが(まぼろし)のように失われるのだ。


 自分が地上を守りたいという感情は、エゴから生まれている。初めて見つけた自分の居場所を守りたいというただの利己主義の(きわ)みだった。

 ディム・トゥーラはカイルのことを「利他的」と言っていたが、実際は真逆だった。そのことをカイルは()じていた。(みにく)いとも思っていた。

 世界のために戦っているようなふりをして、実際は、孤独を恐れ、大災厄を口実に行動しているだけだった。


 世界の番人のような慈愛(じあい)もない。

 ロニオスのような(じく)もない。

 セオディア・メレ・エトゥールのような矜持(きょうじ)もない。

 ウールヴェのような純粋さもない。


――これで、どうやって自己肯定を高めろと言うのだろうか。


 カイルは(くちびる)()()め、自己嫌悪に耐えた。

 そんなカイルを(なぐさ)めるように、花びらは周りに振り続けた。


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