(40)祝宴⑭
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
『君は地上を救いたいと思っているかね?』
「もちろんだよっ!」
『ではやるしかないだろう?そこに何か疑義はあるかね?まあ、完璧主義者ほど、つまづく傾向はあるがね。成果を急ぎすぎて、高い目標を見つめ――それは悪いことではないが――何よりも他者と比較しすぎて、自己否定に走りやすくはなる。自分はダメだ、できない、などの自己否定から始まり、それは自己暗示になり、己の能力を自ら制限する。恐るべき悪循環だ』
「――」
『自己否定はやめ、自分はできると思うことだ。そこが出発点になる』
ウールヴェは少し笑った。
『君はディム・トゥーラの言うように、自己評価が低いな。まずはそれを治したまえ。100メートル?それが可能なら110メートルぐらいたやすいだろう。それができればもう10メートル。地道に距離をのばしていけばいい。だいたい君は1キロ先の姫やディム・トゥーラが危機に陥ったら、距離なんか気にするかね?守るために防御壁を飛ばすのではないか?』
「……」
『まあ結論としては、人における、想念とそれに対する熱意と行動が結果を生み出す。君の相方などよく行動をしている。なんでも「行動しなければ、始まらない」という主義だとエディが言っていたな。うん、これは究極の真理だ。頭で考えるより行動だ。はっきり言って結果は行動しないと発生しないからな。頭でいくら考察したって成果は生まれないものだ。おっと、これは研究生活を全否定しているわけではないぞ?むしろ人生とは実験のようなものだ。失敗を恐れる必要はない。どんどん失敗したまえ』
「……失敗したくない」
『まさにそれを完璧主義者という。失敗しない人間などいない。その考えが間違っている』
ウールヴェは楽しそうに提案した。
『で、君の念動力の訓練の話だったな。遠隔で防護壁を張るという目標に効率のいい訓練方法を提案しよう。なんだったら、この虎をカスト軍のど真ん中に放り込んでみるかね?雨のように矢がふり、遠距離で防御壁を張るという緊張した訓練ができるぞ?』
『「発想が鬼畜すぎるっ!!」』
非難の合唱に狼のウールヴェは、こてっと首を傾げた。
『この程度で鬼畜と言われると困ってしまうが』
「ディムが大怪我をしたらどうするんだ。そんな訓練は断固拒否するよ」
『俺も的になるのはごめんだ』
『四ツ目の群れの中に放り込むという手もあるが……』
「却下っ!!僕に心的外傷を負わせたいの?!」
『だいたいどうして俺が的なんだ?!』
『え?身重のエトゥールの姫を的にしろと?案外、君も私並みの鬼畜だな?』
『だれが姫を身代わりにする、と言った?!』
『君だ』
『言ってないっ!』
『カイルが本気で守ろうとする存在は、君か姫の二択だ。君が拒否するなら、自然、姫になるだろう?』
「…………その鬼畜な訓練方法の発想から離れてくれない?」
カイルの声は地獄の底から響いているような迫力があり、機嫌が悪くなっていた。
『おお、怖い怖い』
「だいたい僕がファーレンシアやディムを危険に晒してまで訓練したいと思うような非道な人物と思っているわけ?」
『まあ、違うだろうな』
「じゃあ、なんでこんな話をするの?」
『君の大事な存在の再確認だ。君の価値観の天秤は、姫やディム・トゥーラを犠牲にしてまで、エトゥールを救いたいか、ということだよ』
「………………」
カイルは顔をゆがめた。
「……ファーレンシアとディムの方が大事だ」
『うむ、それが普通だ』
「……ファーレンシアやディムを犠牲にして、エトゥールを救うのは無意味だ」
『そうだろうとも。誤解してほしくないが、責めているわけではない。ただ君は非常に視野が狭い』
「なんだって?」
『立場をいれかえてみたまえ。姫やディム・トゥーラは君を犠牲にしてまで、エトゥールを救いたいだろうか?』
カイルは衝撃を受けたように、黙り込んだ。その反応にディムの方が、目をむいた。




