(38)祝宴⑫
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
おかげさまで累計ユニーク人数13万に達成しました。
読んでいただきありがとうございました。(拝礼)
今、1話から順次、AIイラストの挿絵を挟んで更新を始めています。そちらもお楽しみください。
『無茶はするな』
「わかっている」
『あらゆることを想定していろ』
「ディムがいれば大丈夫だよ」
『俺に依存するな』
「僕はファーレンシアとディムに依存しているよ」
カイルは開き直ったように認めた。
「逆説的にいえば、二人がいれば僕は大丈夫だ。そうなるでしょ?」
『……………………』
虎のウールヴェは大げさな溜息をついた。
『世の中には卒業という言葉があるんだぞ?アードゥルがロニオスから卒業したように』
「僕が支援追跡者から卒業できる日なんてくるのかな?」
『お前の辞書には、成長とか、努力とかいう言葉はないのか?』
「あったら、ディムはここにいないでしょ?」
もっともな突っ込みだったが、それはそれで何か腹立たしい――と、ディム・トゥーラは、思った。
いや、成長していないわけではない。むしろ成長しすぎているのだ。
安全領域にとどまらず、規格外の能力は成長しているから、支援追跡者にとっては能力値のイタチごっこに等しくなる。
『俺は最大の貧乏クジをひいたんだな』
「ひどいよ」
カイルは唇を尖らせた。
『そういえば防御壁を空中に展開する訓練はどうなっている?』
カイルは、初めて憂いの溜息をついた。
「遠距離の空中展開はまだまだだね。コントロールが定まらない。ほんと、ロニオスとアードゥルの能力は規格外だよ。アードゥルなんて涼しい顔をして、目的地に防御壁を瞬時に飛ばすんだよ。まあ、自分の身体を上空1万メートルに浮かせて維持できるんだから、防護壁の移動展開なんて、呼吸するぐらいに楽な仕事なんだろうけどさ、規格外すぎる」
『お前が言うな』
「なんで?!彼等の方が規格外だよ?!」
『……………………』
「……なんで、そこ黙るの?」
『規格外とは何か、哲学的な考察に陥った』
「で、その結論は?」
『規格外に聞いてみてくれ』
「僕はディムも規格外だと思っているよ」
『俺は標準だ』
「標準とは何か、哲学的な考察を始めていい?」
『どうぞ』
王城に戻ると、中庭は酔っ払って倒れている兵士の屍の山が築かれていた。カイルは専属護衛や第1兵団達の乱れた姿を初めて目撃したので驚いた。
統制がとれた矜持の高い集団は、消滅していた。
『……女性達には見せられない姿だな』
「……本当だねぇ。今カストが攻めてきたら、エトゥール城は間違いなく陥落する」
中庭の酒宴の場で起きているのは、メレ・エトゥールとクレイ団長、ハーレイ、アッシュにメレ・アイフェスの面々と狼姿のロニオスだけだった。彼等は中庭に朝日が差し込んでいるというのに、まだ飲んでいた。
『話はすんだのかね?』
ロニオスが尋ねてきた。
『はあ、一応』
『一応?』
『規格外と標準の定義の認識で、互いに少し齟齬がありまして』
『ふむ?』
『俺とカイルのどちらが規格外だと思いますか?』
『私に言わせれば、二人ともヒヨッコだ』
カイルとディムは同時にため息をついた。
『規格外目線のお言葉を、どーも』
「ヒヨコはおとなしく訓練でもするよ」
『それがいい』
狼のウールヴェは、セオディア・メレ・エトゥールに軽く会釈すると、それを別れの挨拶とした。
『秘蔵酒もなくなった。帰るとしよう』
カイルの結婚の儀を失念しているかのような言葉だった。
ディム・トゥーラは内心焦った。大災厄の前に、カイルとサシで飲むというロニオスの望みは半刻以下の時間しか取れなかったはずだ。
『いいんですか?』
『何が?秘蔵酒は堪能した』
そうじゃないだろう。
これは照れ隠しなのか、ディム・トゥーラには判断につきかねた。ロニオスの価値判断の天秤は、息子より秘蔵酒の方に大きく傾いている可能性もある。
『………………カイルに対して、何か一言は?』
カイルの手前、ディムはあたりさわりのない言葉を選択して、問いかけた。白い狼は、首を傾げて、考えこんだ。その姿は、何かあっただろうかと、記憶が曖昧になっている酔っ払い親父の典型例だった。
『あまり無茶をしないように。カイル・リード、君が無茶をするとディム・トゥーラが怒り狂って、それを宥めることに大変労力を要する。観測ステーション組の仕事を増やさないようにしてくれ』
『な――?!何を言ってるんですか?』
明後日の方向のとんでもない暴露助言に虎のウールヴェは吠えた。




