(7)占者①
占者ナーヤの家は村の奥、長の家の隣にある。彼女の占いはよく当たる。長についで村で尊敬され、権力を持つ人物だ。精霊の加護をもち、優れた先見の能力をもつ彼女の力は村の要でもあった。
別に前触れを出したわけでもないが、ナーヤは若長を迎える準備を終えていた。囲炉裏で茶をわかしている。
「坊、よく来たなあ」
「……坊はやめてくれ。俺も三十路をすぎた」
「若長ハーレイと呼ばれるのとどちらがいいか?」
「……坊でいい」
70歳以上と思われるナーヤ婆に勝てる者など村にはいない。彼女は恐ろしい記憶力をもっており、村人達の子供の頃の悪事を全部覚えている。大人になってから、それをつらつらと暴露されるのはいたたまれないというものだ。
ナーヤ婆は、ひゃっひゃっと笑う。
ハーレイはナーヤの前に腰を下ろした。
「そろそろくると思っていたよ。見てもらいたいのは異国の嫁か?」
「違うっ!」
否定して、慌てて言い繕う。
「いや、確かに、見てもらいたいのは異国の子供だ。だが、嫁でも隠し子でもない」
ナーヤはハーレイに、いれたクコ茶をすすめた。
「しかし、ナーヤ婆のところまで噂が届いているとは、あいつらめ……」
「お前に隠し子がいるとしたら、あたしゃ、引退するね」
「うん?」
「何度、村の女共にお前のことを相談されたと思ってんだい」
ハーレイは飲んでいたお茶をふいた。
「俺のことを占たのか⁈」
「占料を倍にしても依頼はきた。ずいぶん儲けさせてもらったから、今回は無料でよい」
「……ウールヴェの肉を持ってきたが……」
「もらおう。3回くらい見てやるよ」
ハーレイは笑って、持ってきた肉のはいった包みをナーヤ婆に差し出した。ウールヴェ肉の報酬を断れる者は、なかなかいない。ナーヤも例外ではないのだ。
「で、見てもらいたいのは異国の子供だったな?」
「そうだ。正体はなんだ?」
「導く者」
「俺がエトゥールで知り合った者と一緒か?」
「同じ」
「なぜこの地にきた?」
「世界の番人の意思」
イーレの言っていた言葉と同じ返答にハーレイは唖然としたが、質問をとめるわけにはいかない。
「なんのため?」
「風を起こすため」
「風?」
「浄化の風、変化の風、隠されたものを暴く風」
「もっと具体的に」
「まだ、見えぬよ」
「なぜ、彼女は子供の姿をしている?」
「導く者の技だな。彼女の意思でもある」
「彼女の真の年齢は?」
「……」
ナーヤ婆の占いをしていた手がとまる。
「お前の首元に鎌があるから、聞かぬ方がよい」
「……」
ハーレイは思わず首をさすった。それはハーレイが見た光景と一致していた。
「女子の年齢は、えてしてそんなもんじゃ。聞いちゃいかん」
「彼女をどうしたらいい?エトゥールにつれていけばいいのか?」
「村におけばいい。かの地より迎えがくる」
「ウールヴェで連絡をとるべきか?」
「いや、もう向こうから連絡がくる。ありえぬ事態に向こうも焦っておるの。どうやら、導く者の要が、今かけておるようじゃ」
ナーヤの占いの手が止まる。
「だが、気をつけろ。彼女の道は二つに分かれている。お前は深くそれにかかわるだろう」
「なんだって?」
ハーレイは突然の警告に唖然とした。
「どういう意味だ? どう二つに分かれているんだ?」
「それは彼女の運命。お前のものではない」
ナーヤ婆は意外な言葉を告げた。
「続きを占たければ、彼女をここに連れてきな。いうべき言葉もあるし、彼女もききたいことがあるだろう。ナーヤ婆が呼んでいるといえば、村にはいる口実になろう」
それからハーレイがどんなに問いかけても、ナーヤは沈黙を守り答えなかった。




