(28)祝宴②
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ブックマークありがとうございました。
第11回ネット小説大賞の第一次選考を通過しました!
ここまで継続できたのは、最新話を読んでくださる読者様のおかげです。(拝礼)
「伴侶を得て、異国のメレ・アイフェス達と共に、このような美しい光景を見るとは、想像しなかった。人生とはわからないものだな」
セオディアは花びらが降る光景の中の大災厄で失われる精霊樹と聖堂を見つめ、隣に座るシルビアに視線を移した。彼は新婦に微笑んで見せた。
普段、見せたことがないメレ・エトゥールの表情に、見守っていたカイルとファーレンシアの方が、なぜか赤面してしまった。魅了スキルとは、こういうものを指すに違いないと、カイルは思った。
「カイル達とともに脱出する約束は守ってくださいね?」
シルビアは念を押した。
「短期間で未亡人になるのは、ごめんこうむります」
「まだ、子供をなしてないしな」
セオディアの逆襲に近い言葉に、シルビアの顔は赤くなった。
「ナーヤお婆様の先見の通りですね」
それを見ていたファーレンシアが呟いた。カイルが不思議そうな顔をして、ファーレンシアに尋ねた。
「お婆様の先見って?」
「シルビア様は、結婚相手に、これから先、もっと振り回される運命だそうです」
「…………………………」
カイルはシルビアとセオディア・メレ・エトゥールを見比べた。
「うん、見事に成就している」
「はい」
「ファーレンシアは?」
「はい?」
「ファーレンシアはナーヤお婆様になんて言われたの?」
ファーレンシアもシルビアに負けず劣らず顔を真っ赤にした。
「ファーレンシア?」
「な、内緒です」
「え〜〜」
不満そうな顔をするカイルは子供っぽく、ファーレンシアは一瞬、真の年齢差を忘れた。英知を司る導師が、ごく普通の青年のように見える。
だが、カイルに関しての恋占い――しかも閨の相性など、どうして語ることができようか。
『姫、カイルは自分のことに関しては、鈍くなる。支援追跡対象者の悪癖と言ってもいいかもしれない。はっきり言わないとわからないところがある。察するのが下手な人種だと思った方がいい』
虎のウールヴェが貴重な助言をファーレンシアに対してした。
「他人のことは鋭いのに、ですか?」
『そう。だからカイルを相手にした時の、姫の苦労はよくわかる』
「ちょっと、ディム。酷くない?僕は今日の主役なんだから、純粋にほめてくれていいんだよ?」
『その言葉を探している間に、祝宴が終わる』
カイルは暴言にやさぐれた。
「確かに、私も別の人物で、そういう現場を目撃したことがあるな」
エルネストがディム・トゥーラの意見に賛同した。
「自信家のようでいて、自信家ではない。おまけに本当に近しい存在の感情に対して鈍い」
エルネストは意味ありげにアードゥルを見つめた。
アードゥルは片眉をあげた。
「こちらを見るな」
「鈍い証明がここにいる」
「なんだと?」
そばにいるウールヴェ姿のロニオスが笑いを漏らしたのを、アードゥルは見逃さなかった。
「………………ロニオス」
『失礼。長い年月がたっていても、変わらないものがあると実感しただけだ』
「貴方は昔から、詫びているようで、詫びていない態度をとる。そちらを実感した方がいい」
再びウールヴェは笑い、アードゥルの言葉を否定しなかった。
ファーレンシアはシルビアとミオラスを誘い、侍女達に囲まれながら西の地の果実水と豊富に用意された甘味を楽しんでいる。
カイルはウールヴェ達とともに、少し離れた場所からその姿を眺めていた。
ファーレンシアが幸せそうに笑っていることにカイルは満足した。
「ディム」
『なんだ?』
「忙しいのに、来てくれてありがとう。この時期に挙式かと怒られるかと思った」
『挙式がお前の提案だとは思っていない。どうせ、メレ・エトゥールあたりの打診だろう』
「…………鋭い……」
『まあ、元々大災厄前にお前と飲むつもりだったからな。ちょうどいい機会だったから気にするな』
「飲む?」
体内チップが働いているカイルは酔えないし、ディム・トゥーラはウールヴェに同調している状態で酔えるか、はなはだ疑問だった。
『そこのアル中親父を交えて』
『アル中親父と言うな。私は別にアルコール中毒ではない』
『説得力がありませんね』
ロニオスとディム・トゥーラの掛け合いにカイルは笑った。
ウールヴェ姿の彼等のために、大きめの汁椀に、ディム・トゥーラが持ってきた革袋内の酒を注いでやる。
『おめでとう、カイル・リード』
『おめでとう、カイル』
あらためての祝いの言葉に、カイルは赤くなった。照れを隠すために、自分のグラスに注いだ西の地の酒を口にしたカイルは驚いた。
エトゥールの酒宴で提供されてきたワインとは違った味わいだった。
「何、このお酒?!口あたりがすっきりとしていて、雑味が全くない。しかも色がなくて、ほぼ無色透明だよ?」
『そうだろうそうだろう』
カイルの驚きの声にロニオスは満足そうに頷き、自らも美酒を味わった。




