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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
885/1015

(25)情㉕

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


現在、更新時間は不明です。

プロ野球が悪いんです。本当に悪いんです。野球放映中の3時間くらい、まったくキーボードを打つ手が止まるんです。(昨夜、実証実験済み)


「カイル様、今、挙式(きょしき)の話をしているのに、どうしてそうなるんですか」


 ファーレンシアがぷんぷんと(ほほ)(ふく)らませる。そんな顔も可愛いとカイルは思った。


「だって僕が淡泊でいられないことなんだろう?」

「まあ……多分……?」

「僕が動揺することはファーレンシアがいなくなることだ」


 あ……無意識無双が始まる――ファーレンシアも最近では(さっ)するようになっていた。


「カイル様、大事な話があります」


 ファーレンシアは先手をうって無双開始を封じた。


「な、なんだろう」


 カイルは緊張に背筋を伸ばした。


「婚約破棄でも、別れ話でもありません。それより将来の話を語り合いたいと思います」

「将来の話?アドリーの政治的問題とか?」

「……違います」

「カストの避難民に何か問題でも?」

「……違います」

「大災厄後の活動について?」

「……それも大事なことですが、違います。カイル様と私の……その……極めて個人的な話です」

「?」


 カイルは軽く頭を(かし)げた。

 マリカは辛抱強く待っていたし、侍女に扮している専属護衛のセレーネは先ほどからファイティングポーズをとっている。


「その……その……そのですね……」

「ファーレンシア様、しっかり」


 侍女達から小声で声援が飛ぶ。ファーレンシアの顔は、徐々にゆでタコ状態になっていた。


「ファーレンシア?」

「こ、こ、子供ができましたっ!!」




 カイルは、処理落ちした。




 ファーレンシアに子供ができた。

 彼女はそう告げた。

 本来人間は、女性を母体として子供を成す。体内に胎児を身ごもっている状態になる。妊娠(にんしん)という状態だ。母体で胎児を育てることを中央(セントラル)は特別な希望が申請されない限り認めていない。

 カイルも母体による妊娠と出産について、旧時代の知識として持っていた。

 カイルはすっかり失念していたが、地上の文明レベルは低いのだ。

 いや、もっと重要なことを言われている。


「……ファーレンシアに子供?」

「……はい」

「……ファーレンシアと僕の子供?」

「……はい」

「……子供……子供……子供……」

「カ、カイル様?」


 カイルは勢いよく立ち上がると、ファーレンシアの元に駆け寄り、伴侶を強く抱きしめ、キスの雨を降らせた。

 こんなに熱烈な喜びの表現は、ファーレンシアにとって予想外だった。


「カ、カイル様?」

「君と僕の子供だ」

「はい」

「僕にファーレンシア以外の家族ができるんだ」

「はい」

「親兄弟の顔も知らずに育った僕に家族ができるんだ」

「――」


 ファーレンシアは胸を突かれた。


「僕は孤独じゃない。君がいる。子供がいる」

「はい」


 ファーレンシアは、はるかに年上でありながら孤独な生い立ちをもつ伴侶に、この愛情が伝わるように祈りながら強く抱きしめ返した。





 シルビア・ラリムが侍女達とともにやってきた時、部屋の中ではちょっと論争になっていた。カイルが熱心に何事かを主張している。


「これは、いったい……」


 カイルがシルビアの到着に気づいた。


「あ、シルビア。シルビアとセオディアの結婚式をするよ。合同結婚式だ」

「カイル様っ!」

「…………………………」


 なんの前触れもなく個人的に重要な話をされたような気がする。しかも散歩の途中の通りすがりに、高出力バズーカ砲を間近で撃ち込まれたに等しい。

 ファーレンシアの方が、カイルの無礼(ぶれい)に気づいていた。


「シルビア様、申し訳ありません」

「カイルはどうしました?彼はここまで無神経じゃないはずですが?」

「不本意なことに、結婚式に関する関心は欄外(らんがい)になってしまいました」

「それはいったい……」

「私の妊娠を伝えたら、壊れました」

「……納得しました。で、論争の主題は?」

「『僕が認めた男にしか、嫁にやらん』」

「まだ男の子か女の子なのか、性別検査はしていませんが……だいたいカイルの認めた男性は、今のところディム・トゥーラぐらいでしょうに」


 シルビアは呆れた。ある程度は予測していたが、予想以上に(ひど)い壊れっぷりだった。


「父性愛に目覚めたことは、いいことですが、典型的な親バカ路線をサイラス並みに突っ走っていますね」

「ど、どうしたらよろしいでしょうか?」


 ファーレンシアは伴侶の暴走に狼狽(うろた)えていた。

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