(25)情㉕
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
現在、更新時間は不明です。
プロ野球が悪いんです。本当に悪いんです。野球放映中の3時間くらい、まったくキーボードを打つ手が止まるんです。(昨夜、実証実験済み)
「カイル様、今、挙式の話をしているのに、どうしてそうなるんですか」
ファーレンシアがぷんぷんと頬を膨らませる。そんな顔も可愛いとカイルは思った。
「だって僕が淡泊でいられないことなんだろう?」
「まあ……多分……?」
「僕が動揺することはファーレンシアがいなくなることだ」
あ……無意識無双が始まる――ファーレンシアも最近では察するようになっていた。
「カイル様、大事な話があります」
ファーレンシアは先手をうって無双開始を封じた。
「な、なんだろう」
カイルは緊張に背筋を伸ばした。
「婚約破棄でも、別れ話でもありません。それより将来の話を語り合いたいと思います」
「将来の話?アドリーの政治的問題とか?」
「……違います」
「カストの避難民に何か問題でも?」
「……違います」
「大災厄後の活動について?」
「……それも大事なことですが、違います。カイル様と私の……その……極めて個人的な話です」
「?」
カイルは軽く頭を傾げた。
マリカは辛抱強く待っていたし、侍女に扮している専属護衛のセレーネは先ほどからファイティングポーズをとっている。
「その……その……そのですね……」
「ファーレンシア様、しっかり」
侍女達から小声で声援が飛ぶ。ファーレンシアの顔は、徐々にゆでタコ状態になっていた。
「ファーレンシア?」
「こ、こ、子供ができましたっ!!」
カイルは、処理落ちした。
ファーレンシアに子供ができた。
彼女はそう告げた。
本来人間は、女性を母体として子供を成す。体内に胎児を身ごもっている状態になる。妊娠という状態だ。母体で胎児を育てることを中央は特別な希望が申請されない限り認めていない。
カイルも母体による妊娠と出産について、旧時代の知識として持っていた。
カイルはすっかり失念していたが、地上の文明レベルは低いのだ。
いや、もっと重要なことを言われている。
「……ファーレンシアに子供?」
「……はい」
「……ファーレンシアと僕の子供?」
「……はい」
「……子供……子供……子供……」
「カ、カイル様?」
カイルは勢いよく立ち上がると、ファーレンシアの元に駆け寄り、伴侶を強く抱きしめ、キスの雨を降らせた。
こんなに熱烈な喜びの表現は、ファーレンシアにとって予想外だった。
「カ、カイル様?」
「君と僕の子供だ」
「はい」
「僕にファーレンシア以外の家族ができるんだ」
「はい」
「親兄弟の顔も知らずに育った僕に家族ができるんだ」
「――」
ファーレンシアは胸を突かれた。
「僕は孤独じゃない。君がいる。子供がいる」
「はい」
ファーレンシアは、はるかに年上でありながら孤独な生い立ちをもつ伴侶に、この愛情が伝わるように祈りながら強く抱きしめ返した。
シルビア・ラリムが侍女達とともにやってきた時、部屋の中ではちょっと論争になっていた。カイルが熱心に何事かを主張している。
「これは、いったい……」
カイルがシルビアの到着に気づいた。
「あ、シルビア。シルビアとセオディアの結婚式をするよ。合同結婚式だ」
「カイル様っ!」
「…………………………」
なんの前触れもなく個人的に重要な話をされたような気がする。しかも散歩の途中の通りすがりに、高出力バズーカ砲を間近で撃ち込まれたに等しい。
ファーレンシアの方が、カイルの無礼に気づいていた。
「シルビア様、申し訳ありません」
「カイルはどうしました?彼はここまで無神経じゃないはずですが?」
「不本意なことに、結婚式に関する関心は欄外になってしまいました」
「それはいったい……」
「私の妊娠を伝えたら、壊れました」
「……納得しました。で、論争の主題は?」
「『僕が認めた男にしか、嫁にやらん』」
「まだ男の子か女の子なのか、性別検査はしていませんが……だいたいカイルの認めた男性は、今のところディム・トゥーラぐらいでしょうに」
シルビアは呆れた。ある程度は予測していたが、予想以上に酷い壊れっぷりだった。
「父性愛に目覚めたことは、いいことですが、典型的な親バカ路線をサイラス並みに突っ走っていますね」
「ど、どうしたらよろしいでしょうか?」
ファーレンシアは伴侶の暴走に狼狽えていた。




