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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
877/1015

(17)情⑰

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ダウンロードありがとうございました!

 胸壁(きょうへき)から落ちるリルの手を(つか)んだことは、クトリの生涯一(しょうがいいち)のファインプレーと言ってもよかったが、そこまでだった。


 身を乗り出しているクトリが、高い城壁から落ちたリルの手を掴み、少女の身体は城壁の(はじ)からぶら下がった状態だった。クトリの視界にはるか下の地面が目に入り、恐怖に顔を引きつらせた。

 なんで、こんなに無駄に高いんだっ?!


「……クトリ様も落ちちゃう。手を放して?」


 リルは妙に冷静で淡々としていた。


「馬鹿なこと言わないでっ!」

「でも、落ちちゃう。放していいよ?」

「そんなことしたら、僕、戻ってきたサイラスに間違いなく殺されるっ!!」

「……………………クトリ様は本当にサイラスが戻ってくると思っているの?」

「思っているよっ!思っているから、必死になってるのっ!だから、君もそんな人形みたいな状態じゃなくて足掻(あが)いてよっ!手っ!左手も伸ばしてっ!」


 意外にもリルが素直に左手も伸ばしてきた。

 クトリはそれも掴んだが、リルの身体を引き上げる筋力が欠落しており、状況はよくなったと言い難かった。


「……生きていれば、サイラスにもう一度会えるかなぁ」

「会えるから、僕の手をしっかり握って!絶対に離さないでっ!」


 リルがクトリの手を握ってきた。せっかく、リルが反応してくれたのに、その身体を引き上げる力もないとは、なんと、自分は非力なんだろう。

 当たり前だ。筋肉なんて(きた)えたことがない。身体を常時に鍛えているイーレやサイラスを醒めた目で見ていた。

 クトリは自分の()()もり具合を激しく後悔した。


 もっと身体を鍛えておくべきだった!!!!もしくは、筋力増強の体内チップを常備しておくべきだった!!


 中庭の方が騒がしくなっている。昏倒(こんとう)していた兵士が発見され異常事態が発覚したに違いない。


「クトリ様っ!!」


 城壁回廊を走ってくる見覚えのある第一兵団が見えた。

 サイラスが(きた)えていた脳筋集団の面々だ。


「手を貸してくださいっ!!リルが落ちそうなんですっ!!」

「!」

 

 クトリは救援の到着にほっとしたのも(つか)()、兵士達はクトリ達の手前で、糸が切れた人形のように、バタバタと石床に倒れていった。


――え?

 

 クトリは思いもよらない結果にあっけにとられた。


――ええええええええっ?!!!!


 クトリはぶら下がっているリルを見た。彼女は相変わらずカイル並みの規格外の思念波を周囲に照射していた。


 まさか、この距離でリルの思念波に昏倒した?

 そうなると、思念波に耐性のない地上人達は、永遠にリルとクトリの元ににたどりつけないことになる。

 クトリは判明した事実に蒼白(そうはく)になった。



 詰んだ――――っっっ!!



「カイル、カイル、カイル――っ!!助けて、カイル!リルが落ちちゃうよっ!!!」


 クトリは悟り、叫んだ。求むべき救世主はカイルだ。規格外には規格外をぶつけるしかない。


 汗で掴んでいるリルの手が滑りだす。クトリは必死だった。

 リルの体重にクトリの身体も引きずられている。だが、ここでリルの手を離すなど論外だった。離したら一生後悔するだろう。

 人が死ぬには十分な高さだった。自分は体内チップで即死を免れるが、リルは間違いなく死ぬだろう。


「カイル――っ!!ディム――っ!!誰でもいいから、助けてっ!!!」


 叫びもむなしく、クトリの身体がリルと一緒に空中に放り出された。






 クトリは恐怖に目をぎゅっと閉じたが、落下の感覚は全くなかった。


「?」


 クトリの身体は、長衣の革ベルトを隙間(すきま)胸壁(きょうへき)にいる巨大化したウールヴェの虎の牙が咥えていた。

 リルの方は、側防塔(そくぼうとう)胸壁(きょうへき)よりはるかにに巨大化した白い狼にのったカイルが身を乗り出して、掴んでいた。


「カ、カイル……それにディム……」


『クトリ、よくやった』


 虎のウールヴェは、簡単にクトリの身体を、側防塔(そくぼうとう)の床に移動させた。クトリは石床にへたりこんだ。


『大丈夫か?』


「こ、腰が抜けた……」


 クトリは今更のようにガタガタと震えた。

 

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