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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
872/1015

(12)情⑫

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


投稿時間が作者にも予想できない件について(恒例土下座)

「苦しくはないです……けど、頭が働かない……あと、身体に力が入らないです……」

「シルビア、どういうこと?」


 カイルの方が、リルの状態に不安そうだった。


「2週間以上、再生液につかった無重力状態なら骨密度(こつみつど)筋力(きんりょく)の低下がみられるのは当然の結果です。平衡機能(へいこうきのう)の低下、起立性低血圧の発生――筋力(きんりょく)の回復にリハビリが必要です」

「……なるほど」


 カイルは医者の見立てに納得した。カイル達は体内チップが自動調整をしてしまうから、一般の無重力状態の弊害現象(へいがいげんしょう)(うと)い傾向があった。


「……シルビア様?」

「リル、心配ありませんからね。元通りの生活が送れるようにしますよ。ずっと寝ていたらから、筋力(きんりょく)(おとろ)えてうまく動かせなくなっているだけです。少しずつ動かす練習をしていきますから。施療院(せりょういん)機能回復運動(リハビリ)をする患者を見たことがありますね?ああいうことを行っていきます」


 シルビアが患者を安心させるために、事実と治療方針を隠さず説明した。


「……シルビア様、また歩けるようになります?」

「保証します」

「ああ、よかった。サイラスに抱きかかえられてしか動けないとかになったら、トイレとかお風呂とか恥ずかしくて死にそうでした」


 リルは思春期の少女らしい心配をしていたらしい。彼女は、皆が複雑な表情を浮かべたことに気づかなかった。


「あの……サイラスは、どこに出かけているんですか?なんで私はこういう状態なんですか?」


 過保護すぎる保護者が現れないことを、リルは(いぶか)しんでいた。シルビアはリルの体調を調べているふりをして沈黙を守った。自然と解答権がカイルにパスされた。


「何も覚えてない?」

「…………はい……」

「サイラスは――」


 カイルが言いかけた時に、あらたな台風が部屋に飛び込んできた。イーレだった。


「リルっ!目が覚めたのね?!」 

 

 感激のあまり、イーレは横たわっているリルに飛びついて、強く抱きしめた。ただ初めてあった頃より、今や成長したリルの方が姉役であり、イーレはやんちゃな妹と、外見上の立場は完全に逆転していた。


「イ、イーレ様?」

「よかった、本当によかったわ」


 ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられる。

 彼女の背後には、伴侶である西の民の若長の姿が見えたし、そのそばには、引きこもりの少年の賢者までいた。

 その時点でリルは違和感を覚えた。


「あ……あの……私、どのくらい寝ていたんですか?」

「2週間治療に専念して、ここに運ばれてから1週間ってとこね」

「3週間も?!店が大変なことになっちゃう!……あ、だからサイラスがいないのか……」


 再び、へんな静けさが流れた。

 イーレが、少し体を起こし、寝ているリルの頭を優しく撫でた。イーレはちらりとカイルに問いかける視線を向け、カイルは首をふることでその疑問に答えた。


「…………説明するのは私の責任よね……」


 イーレは小さく息をつき、自身の覚悟をきめた。


「リル、大事な話があるの」

「はい?」


 イーレの改まった口調に、リルは首を傾げた。

 イーレは(ふところ)から金属の棒片を取り出した。サイラスが大事にしていた長棍に似ていたが、ずいぶん短かった。

 イーレはそれをリルの手に握らせて、さらに自分の両手を重ねた。


「南で、ひどい火山噴火があって、街と村が4つほど全滅したわ。それに、サイラス・リーと貴方が巻き込まれたの」

「……………………はい?」

「貴方は重い火傷(やけど)を負って、今まで治療をしていたのよ」


 リルはドキリとした。奇妙に悪夢と一致していた。


「…………火傷(やけど)?」


 リルは自分の手を見た。傷一つない綺麗な手だった。日焼けもなくなっているし、昔つけた傷もなくなっていた。

――まだ、夢の中にいるのかもしれない。


「…………あの……?」


 頭が鈍くなっているのか、内容を理解するのに時間がかかった。

 懸命に(かすみ)がかかった記憶を取り戻そうとした。それはどこか目覚めた直後に、見ていたはずの夢を思い出せないことに似ていた。



『カイル』

『……うん、わかっている』



「……巻き込まれたっていうのは?あたしとサイラスが?」

「ええ」


 リルは息をのんだ。


「サイラスも怪我をしたんですね?!だからいないんですね?!怪我、酷いんですか?」


 リルは起き上がろうとして、もがいた。彼は、まだ治療をしているに違いない。だからそばにいないし、書置きもないのだ。


「リル、落ち着いて」


 シルビアとカイルがリルの身体を押しとどめた。

 養い親の身を案じるリルの言葉に、イーレは軽く唇を噛んだ。だが、どんなに言葉を取り繕っても事実は(くつがえ)らない。


「リル、落ち着いてきいてほしいの。サイラスは亡くなったの」

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