(12)情⑫
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
投稿時間が作者にも予想できない件について(恒例土下座)
「苦しくはないです……けど、頭が働かない……あと、身体に力が入らないです……」
「シルビア、どういうこと?」
カイルの方が、リルの状態に不安そうだった。
「2週間以上、再生液につかった無重力状態なら骨密度と筋力の低下がみられるのは当然の結果です。平衡機能の低下、起立性低血圧の発生――筋力の回復にリハビリが必要です」
「……なるほど」
カイルは医者の見立てに納得した。カイル達は体内チップが自動調整をしてしまうから、一般の無重力状態の弊害現象に疎い傾向があった。
「……シルビア様?」
「リル、心配ありませんからね。元通りの生活が送れるようにしますよ。ずっと寝ていたらから、筋力が衰えてうまく動かせなくなっているだけです。少しずつ動かす練習をしていきますから。施療院で機能回復運動をする患者を見たことがありますね?ああいうことを行っていきます」
シルビアが患者を安心させるために、事実と治療方針を隠さず説明した。
「……シルビア様、また歩けるようになります?」
「保証します」
「ああ、よかった。サイラスに抱きかかえられてしか動けないとかになったら、トイレとかお風呂とか恥ずかしくて死にそうでした」
リルは思春期の少女らしい心配をしていたらしい。彼女は、皆が複雑な表情を浮かべたことに気づかなかった。
「あの……サイラスは、どこに出かけているんですか?なんで私はこういう状態なんですか?」
過保護すぎる保護者が現れないことを、リルは訝しんでいた。シルビアはリルの体調を調べているふりをして沈黙を守った。自然と解答権がカイルにパスされた。
「何も覚えてない?」
「…………はい……」
「サイラスは――」
カイルが言いかけた時に、あらたな台風が部屋に飛び込んできた。イーレだった。
「リルっ!目が覚めたのね?!」
感激のあまり、イーレは横たわっているリルに飛びついて、強く抱きしめた。ただ初めてあった頃より、今や成長したリルの方が姉役であり、イーレはやんちゃな妹と、外見上の立場は完全に逆転していた。
「イ、イーレ様?」
「よかった、本当によかったわ」
ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられる。
彼女の背後には、伴侶である西の民の若長の姿が見えたし、そのそばには、引きこもりの少年の賢者までいた。
その時点でリルは違和感を覚えた。
「あ……あの……私、どのくらい寝ていたんですか?」
「2週間治療に専念して、ここに運ばれてから1週間ってとこね」
「3週間も?!店が大変なことになっちゃう!……あ、だからサイラスがいないのか……」
再び、へんな静けさが流れた。
イーレが、少し体を起こし、寝ているリルの頭を優しく撫でた。イーレはちらりとカイルに問いかける視線を向け、カイルは首をふることでその疑問に答えた。
「…………説明するのは私の責任よね……」
イーレは小さく息をつき、自身の覚悟をきめた。
「リル、大事な話があるの」
「はい?」
イーレの改まった口調に、リルは首を傾げた。
イーレは懐から金属の棒片を取り出した。サイラスが大事にしていた長棍に似ていたが、ずいぶん短かった。
イーレはそれをリルの手に握らせて、さらに自分の両手を重ねた。
「南で、ひどい火山噴火があって、街と村が4つほど全滅したわ。それに、サイラス・リーと貴方が巻き込まれたの」
「……………………はい?」
「貴方は重い火傷を負って、今まで治療をしていたのよ」
リルはドキリとした。奇妙に悪夢と一致していた。
「…………火傷?」
リルは自分の手を見た。傷一つない綺麗な手だった。日焼けもなくなっているし、昔つけた傷もなくなっていた。
――まだ、夢の中にいるのかもしれない。
「…………あの……?」
頭が鈍くなっているのか、内容を理解するのに時間がかかった。
懸命に霞がかかった記憶を取り戻そうとした。それはどこか目覚めた直後に、見ていたはずの夢を思い出せないことに似ていた。
『カイル』
『……うん、わかっている』
「……巻き込まれたっていうのは?あたしとサイラスが?」
「ええ」
リルは息をのんだ。
「サイラスも怪我をしたんですね?!だからいないんですね?!怪我、酷いんですか?」
リルは起き上がろうとして、もがいた。彼は、まだ治療をしているに違いない。だからそばにいないし、書置きもないのだ。
「リル、落ち着いて」
シルビアとカイルがリルの身体を押しとどめた。
養い親の身を案じるリルの言葉に、イーレは軽く唇を噛んだ。だが、どんなに言葉を取り繕っても事実は覆らない。
「リル、落ち着いてきいてほしいの。サイラスは亡くなったの」




