(6)情⑥
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
いつも最新話を読んでくださり、ありがとうございます!
「ディムが?」
『……なんだ、その反応は?』
「あ、いや、ディムは我が道を岩を砕いても突き進むタイプで、そういうのを羨ましがるのは無縁かと……」
『お前、俺を血が通わないアンドロイドだと思ってないか?』
「血の通わないアンドロイドなら、カイルを見捨ててとっくの昔に中央に帰っていますよ」
『……それ、誰かにも言われたな』
「カイルに関しては、無自覚なんですね」
『……それも、誰かに言われた』
クトリは少し笑った。
『今からカイル達と現場にいってくる』
「え?!」
クトリは驚いた。
「どうやって?」
『カイルのウールヴェと俺で、現場に跳躍する。イーレがサイラスの死んだ場所を確認したがっている』
「まだ噴火が継続する可能性もありますよ!危険です!」
『だから、瞬時に退避が可能なウールヴェで行く予定だ。大丈夫だ。悪いが、クトリはエトゥール城に残ってシルビアのフォローを――』
クトリはディム・トゥーラの言葉を遮った。
「ぼ、僕も行きます!」
クトリの言葉に、ディム・トゥーラは一瞬、理解ができずにいた。
『……は?』
「僕も行きます。僕なら噴火の予兆があるなら警告できるし、ある程度の予測もできます」
『危険だとお前が言ったんだぞ?お前は危険なことが大嫌いだろう』
「僕に資料を持って、この危険な惑星に降下を依頼したのは、貴方じゃないですか」
『…………それを言われたら、反論の余地はない……』
「……僕は噴火が起こる兆候を知っていたけど、西の地と王都が巻き込まれなければいい、と思っていたんです。こんなことになるとは思わなかった」
クトリの顔が陰った。
「僕がもっと真面目に解析していれば、サイラスは死ななくてすんだかもしれない。リルも大怪我をしなくてすんだかもしれない」
『カイルと同じことを言うんだな。だが俺はカイルにも言った。お前の責じゃない』
ウールヴェは静かに言った。
『これは絶対にクトリの責ではない。確かに初代の地盤解析情報があれば、多少は予想ができて回避できただろう。しかし、優先すべきことは、他にもあった。これは、あくまでも自然災害で、俺達が干渉するべき類ではない』
「だって、それでは僕は観測ステーションの連中と同じになってしまう……」
クトリは半泣きだった。
「リルを見殺しにしようとした連中と何が違うというんです」
ディム・トゥーラは胸を突かれた。
観測ステーションの冷淡な反応に対しては、まだ憤りが彼の心の底でくすぶっていた。
『……気持ちはわかる』
「何もしないで、ディム達に何かあるのは嫌だし、起こった事実は直視したいんですっ!」
『心的外傷になるレベルだぞ』
「……そ、そうだと思います」
指摘に狼狽えたように視線を彷徨わせるのは、いつもの気弱なクトリだった。
「怖いの嫌だし、痛いの嫌だし、危険なことはもっと嫌だし……」
『…………無理はしなくても』
「でも、逃げちゃいけないような気がする。ここで逃げたら、お婆様に胸を張って会えないような気がするし、お婆様や死んだサイラスに胸を張って会えることをしておきたい。ど、動機が不純なのは自覚しています」
クトリはウールヴェを見つめた。
「連れて行ってください」
――――連れて行くといい
唐突にディム・トゥーラは声をきいた。間違いなく、世界の番人の声だった。
依り代を介さず、直接対話してくるとは何事か。だが、この助言は無視するべきではなかった。
クトリが変わろうとしている――ディム・トゥーラはそう感じていた。凄惨な現場を帰還予定のクトリが見ることで、観測ステーションの無慈悲な連中に一石を投じることができるかもしれない。
ディムは同行を承諾した。
クトリの同行を喜んだのは、カイルだった。
「ありがとう。専門家の同行は心強いよ。本当にありがとう」
カイルはクトリの手を両手で強く握って、心からの感謝を伝え、その行為にクトリの方が照れて顔を真っ赤にした。
人たらしが本領を発揮している――目撃した全員がそう思った。




