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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
865/1015

(5)情⑤

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


更新時間は現在迷走しております!(開き直った!)

「確かにクトリはこういう災害が起こる可能性を指摘していたが、予想解析するには情報が足りなかった。拠点の地下探索はそれを得るためが目的の一つだったけど、僕は後回しにしてしまったんだ。」


 カイルは唇を噛んだ。


「僕がもっと早く地下探索を始めて初代達の解析情報を入手していたら、サイラスの死は回避できたかもしれない。リルもこんな大怪我をしなかった」


『お前の(せき)ではない』


「でも――」


――未来は一つではない

――人々の選択により未来が選ばれる

――お前がどんなに頑張っても、(あら)がえない運命はある

――それで、己を責めるのはやめろ


ああ、ナーヤが言っていたのは、これだったのか――カイルは悟った。


「導師への非難は、私が責任を持って阻止する。エトゥールの民がどれだけ恩恵を享受(きょうじゅ)しているか――それを理解している者も多数いる。メレ・アイフェスの身は必ず守る」


『あてにしている。よろしく頼む』


 天上の御使(みつか)いは、エトゥール王に頭を下げた。





 カイル達が準備している間、ディム・トゥーラは談話室にクトリを探しに行った。廊下を闊歩する虎のウールヴェに対して、エトゥール城の関係者も慣れたようだった。

 むしろ王族に対するように、進路をあけ、最上級の礼を持って見送られる方がディム・トゥーラは困惑した。ただのウールヴェに対する態度ではない。


 メレ・エトゥールは虎のウールヴェを侍女や専属護衛になんと説明しているのだろうか?

 状況が落ち着いたら、メレ・エトゥールに確認してみる必要がある、とディム・トゥーラは思った。


 談話室では、いつものようにデータ整理をしているわけでもなく、クトリがソファーで膝を抱え込んで座っていた。その表情は暗かった。

 予想通りこちらもアフターケアが必要だった。


『クトリ』


「ディム・トゥーラ!」


 虎のウールヴェの出現に、まるで救世主が降臨(こうりん)したかのよう(すが)るような瞳を向け、クトリは立ち上がって駆け寄ってきた。


「……サ、サイラスが死んで、リルが重体だって本当ですか?」


『残念ながら事実だ。カイルが確認した』


「リルは?!」


移動装置(ポータル)の起動で観測ステーションに退避できて、今はエトゥールの地下拠点の再生ポットで治療をしている。地下拠点が再起動している恩恵(おんけい)だ』


「間に合ったんですね……よかった」


 クトリはリルの無事に安堵したようだった。観測ステーションの関係者の反応とは天と地ほどの差があり、ディム・トゥーラはクトリの言葉を好ましく思った。


『すまないが、移動装置(ポータル)の状態を確認して、この件が落ち着くまで帰還は延長になりそうだ』


「それは、かまいません。こんな事態ですし……」


『クトリはリルを気遣ってくれるんだな』


「当たり前じゃないですか!サイラスが大切にしていた(やしな)()で大怪我しているんですよ!」


『その当たり前が、観測ステーションの連中はできなかった。彼等は観測ステーションの再生ポットを地上人に与えることを拒否したんだ』


 吐き捨てるようなディム・トゥーラの愚痴(ぐち)に、クトリは絶句していた。


「………………大怪我の人間が目の前にいて?死にかけているのに?」


『そうだ』


 クトリは唇を噛んでいて、手が怒りで震えていた。


「規約違反だから……なんですね」


『そうだ。だから地上に連れてきた。連中には俺達の行動が理解できないだろう』


「そうかもしれません……」


 クトリは少し視線をおとした。


「最初は僕にも理解できませんでした。地上人を養い子にするなんて――実際、そう口走ってリルに殴られましたし……」


『ははは』


 リルに殴られた件には、ディムは思わず笑いをもらした。その様子が簡単に想像できた。


『リルは年の割にはしっかりとした子で意志表示ははっきりするからな。俺とサイラスが出会った頃には、大人の商人に木材を売りつけて対等に交渉してた』


「…………いつの話です?」


『サイラスが降下した直後で、リルは10歳だったな。8歳に父親を亡くしていると言ってた。サイラスも最初は「女、子供を見捨てるな」と言うイーレの命令に従っただけだ。あの子は乗っていた馬車を盗賊団に襲撃されていたんだ』


「――それで保護したんですか」


『中央の基準からすれば、確かに馬鹿なことだ。まあ、カイルという大馬鹿がいるおかげで、俺達もだいぶ毒されている自覚はある』


「そうだったんですね。僕、彼等の関係はちょっとだけ羨ましかった。あのサイラスが人が変わったみたいに、情に厚くなって、血縁関係のある家族より、家族らしくて……」


『そうだな、俺もそう思った』


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