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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
859/1015

(50)対価㉒

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマークありがとうございました。

 そんな日常を送っていた自分が、地上に降りて生活をしている。しかも養い子まで得ているのだ。

 人生とはわからない――サイラスはしみじみと思った。

 リルは故郷方面の旅に同行を希望した。


「南に行くのは久しぶりだね。私、小屋にちょっとよりたいな」


 小屋とは、幼いリルが父親と過ごした場所だった。

 そこにあった在庫の荷物をほとんど王都に移動させてから、すっかりその場所にいかなくなっていた。

 

「ん~、じゃあ小屋でリルは待っているか。その間に、俺は移動装置(ポータル)の再起動しに行って、周辺の四ツ目を狩ってくるよ」

「わかった」


 サイラスの実力を理解しているリルは、もう四ツ目ごときではサイラスの心配をしなくなっていた。

 逆に最近はサイラスがリルを心配することが増えた。


 リルは最近、年頃になってから容貌が魅力的な少女になりつつあった。成長しないイーレに見慣れているサイラスはその変化に困惑し、シルビアに確認するぐらいだった。

 数年でここまで変化するものだろうか?


「地上人は短命で成長速度は早いのですよ」

「短命なのは知っている。でもこんなにすぐに成長するのか?出会ったときは、これぐらいだったんだぞ」

「10歳ならそれぐらいの身長ですね」

「今、イーレより大人になっちゃったんだぞ?!」

「貴方の師匠は年齢詐欺の代表ですから、基準としない方がいいと思います」


 シルビアは真顔で言った。


「他に基準がないんだよっ!」

「それは由々しき事態ですね」

 

 シルビアはサイラスの訴えをさらりと流した。


 その魅力に悩殺された若者達が、リル目当てに店に通ってくるようにもなっていた。サイラスは、リルが露骨(ろこつ)に口説かれている現場も目撃した。

 サイラスはそのたびにイラっとしたが、リルもナンパ男のあしらいに慣れきっており、しつこい若者にはなにごとが耳元で(ささや)いた。

 そうすると不思議なことに若者は溜息をつき、がっくりと肩を落として店を去っていくのだ。


「なんて言って、追い払ったんだ?」

「ふふふ、内緒っ!」


 小悪魔(こあくま)的に笑うリルに、サイラスはますます心配になった。


 施療院(せりょういん)でのお忍びのファーレンシア姫に魅了される第一兵団達の虫退治に、やっきになったカイルを笑えない状態であった。いや、むしろカイルの心情が今更ながらようやく理解できた。

 虫退治大事――サイラスは心に刻んで、リルにふさわしくない虫は駆除することを決意した。




 久しぶりに訪れたリルの生家には、(ほこり)が見事なほど積もっていた。

 サイラスは地上に自動清浄装置(オート・クリーン)がない弊害をいまさらのように驚いていた。


「こんなに、(ほこり)が積もるものなのか?!」

「ああ、うん、掃除するから2,3日滞在(たいざい)でもいい?」

「いいが、俺が外に言ってる間は、小屋周辺に防御壁(シールド)を張れよ。俺以外が来ても、絶対にでるなよ。それから――」


 細々といつもの過保護な注意が続く。リルは笑った。


「なんか緊急事態があったら、ウールヴェを飛ばす――でしょ?」

「うむ」

「じゃあ、なるべく早く帰ってきてね?」

「わかった」

「夕飯はシチューだからね」

「それは楽しみだな、リルのシチューは絶品だよ」

「いってらっしゃい」

「おう、いってくる」


 早く帰ってきてね――よし、即行で移動装置(ポータル)を再起動してくるか。

 リルが見送ると同時に、小屋周辺に防御壁(シールド)が張られたことを確認してから、サイラスは南に位置する魔の森の移動装置(ポータル)に向かって走り出した。


 一方、リルは扉をしめると(ほこり)だらけの小屋の中で、しゃがみこみ、少し顔をあからめていた

――い、今の会話、新婚夫婦っぽくない?


 サイラスがそんな意識をしていないのは百も承知だが、リルは十分ドキドキした。顔がにやけるのをとめることができない。

 リルが最近、多用する断り文句はこうだった。


「実はいつも三曲目を一緒に踊る人がいるの(嘘じゃない)。その人は今、エトゥール城の第一兵団の鍛錬(たんれん)の指導者をしていてね(嘘じゃない)。その人を決闘(けっとう)で倒せるなら、ちょっとだけ考えてみてもいいけど(絶対無理)」


 虫退治効果が天下無敵の最高呪文だった。


 

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