(46)対価⑱
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
カイルは頷いた。
「メイン拠点には、地殻変動の対策が講じてあるし、エネルギーコアも簡単に破損はしない。だから最悪の事態はないと思いたい。ただ、恒星間天体の突入速度を軽減すれば、エトゥールの王都を中心にした衝突による消失領域を減らせる。同時に王都に残留している人々も、時間の許す限り移動装置で避難を誘導できる。多分、相当ひどいパニックに陥ると思うんだ」
『これだけ警告しているのに、従わない人間の救う必要性を感じない。財産や今の生活に執着して、残留を選択をしているんだぞ。どこか俺達を舐めている。自分は大丈夫――そう、根拠のない自信で傲慢になっている人間をなぜ救うんだ。時間の無駄だし、お前が命をかける価値はないっ!』
「言いたいことはわかる」
カイルはディム・トゥーラの手厳しい言葉に視線をおとした。
「これは一種の先見かもしれない。彼らの『助けてくれ』という叫びが聞こえてくるんだ」
ディム・トゥーラはその言葉に呻いた。
惨劇の当日、絶望の思念が渦巻く王都にカイルを置くのは危険ではないだろうか。
「君を欲する理由は、それもある」
エルネストもディム・トゥーラの懸念の思考に同意し、指摘した。
「当日の王都は繊細な能力者がいるべき場所ではない。阿鼻叫喚の地獄の中にカイル・リードはさらされる。支援追跡者がいないと危険だ」
『だったら、止めろよっ!こんな計画をたてるなっ!』
「素案をたてたのは私達ではない。本人を説得できるなら、どうぞ」
ブーメランのように要望が戻ってきた。
きっ、と虎はカイルを睨み、睨まれた本人は酷く怯えた。
そのディム・トゥーラに対して、エルネストが宥めるように言った。
「彼は頑固でその意志を変えようとしない。似たような人物がいたからよくわかる。止められないなら付き合うしかない。そうじゃないだろうか?」
その似たような人物とは、ロニオスなのだろうか、アードゥルなのだろうか。
『………………とにかくロニオスに相談する。結論は保留だ』
「……一つ忠告なんだが……」
エルネストがディム・トゥーラに言った。
『なんだ?』
「ロニオスに情を期待しない方がいいと思う」
『なんだって?』
「彼は、ありとあらゆることを想定して、最善の道を選択するが、それは必ずしも我々の希望と一致しない。その視点と思考は、どちらかというと世界の番人に近いかもしれない。時には、彼は平気で非情な選択をする。君も恒星間天体をエトゥールに落す選択をした彼を見ているのだろう?」
『――』
氷河期回避のために、恒星間天体の軌道を変え、影響のないエトゥールに落す提案をしたのは、確かにロニオスだった。
エルネストの忠告が何を言いたいかディム・トゥーラは正確に悟った。
――つまり、カイルに対する親としての情を期待するな、である。
まあ、酒に負ける可能性のある親子の絆だからな、とディム・トゥーラは思う。
『それって、ロニオスが協力してくれない可能性を言ってるんだよな?』
「そう。彼にとってメリットのある話かどうかと、問われれば、甚だ怪しい。エトゥールに落せば、地下拠点に影響があることをロニオスが見落としているとは思えない」
驚くべきことに、エルネストもディム・トゥーラと同じ疑問点と結論に達していた。
やはり、そうなのか。
『――ロニオスは地下拠点への影響をあえて放置していると?』
「優先順位の問題なのか、彼自信が今の姿で入れないことに起因しているのかはわからない。だがこの件で積極的な協力が得られないかもしれない」
『………………』
ウールヴェは考え込んでいた。
『よし、ロニオスを強制的に引きづりだそう』
「なんだって?」
『非積極的もしくは動機不純なロニオスの協力でもいいんだよな?』
「動機不純?どういう意味だ?」
『ロニオスを釣るんだよ。俺はでかい釣り餌を所持しているんだ』
「「「は?」」」




