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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
854/1015

(45)対価⑰

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。

(アップしたつもりで、寝落ちしていた不思議)


新たに読者さんが増えたようでテンションが上がってます。

ダウンロードありがとうございました。


この規格外(カイル)の監視と遮蔽(しゃへい)は必要だ。そばにいれば、気をもまなくてすむだろう?我々の恩情に感謝してほしいものだ」


 それは事実だったが、認めるのも(しゃく)だ――と、ディム・トゥーラは思った。


『――それこそ無理すぎる。旧ステーションの制御とシャトルによる軌道変更のあとに、地上衝突まで残された時間はわずか十数分だ。恒星間天体の破片が大気圏に突入すれば5分もない。俺が地上に移動する時間はない』


 笑ったのはエルネストだった。


「今、君は怒り狂って、ほんの数秒で飛んできた。記録を見るかい?」


『…………ウールヴェを使えと?だが、同調状態で満足に支援追跡(バックアップ)ができるかどうかは……』


「それか、ロニオスに身体を転移(テレポート)してもらえばいい」


『衛星軌道上から?』


「そう」


『…………できるのか?』


「さあ?ロニオスに聞いてくれ」


 非常に無責任な提案にディム・トゥーラは吐息をついた。


『……人使いが荒いな。軌道変更で忙しいのに、それが終わったら休む間もなく地上でこき使われるのか』


「恨むなら、カイル・リードを恨め」


 その言葉にディム・トゥーラはカイルを見たが、カイルはウールヴェの視線を露骨(ろこつ)に避けていた。


『別に俺じゃなくても、エルネストが支援追跡(バックアップ)をするとか……』


「エルネストはジーンバンクの方に待機してもらうんだ」


 カイルが申し訳なさそうに懺悔(ざんげ)した。


『なんだって?』


「避難地になるジーンバンクがイーレ一人(ひとり)では手が足りない。扱える初代の人間は限られる。最悪、避難民の暴動が起きるだろうから」


 カイルは淡々と語った。 


『なんだと?暴動が起きるほど民は不安定なのか?』


「間違いなく、不安定になるよ。エルネストがいれば、最悪、暴徒を思念波で昏倒させれる。ライアーの塚は一番安全な防空壕(シェルター)で、一番無防備な場所でもある」


『……』


「シルビアやファーレンシア、リル達もそこに避難させる。万が一の暴徒鎮圧に、兵団とサイラスも配置する。ハーレイもつきあってくれるそうだ」


『若長として西の地を放置していいのか?』


「ナーヤがいる。安全な場所を見極めることができるから、心配はしていないそうだ」


 最強の布陣(ふじん)とも言えたが、ディム・トゥーラには、この計画が失敗した時の保険のように思えた。


『メレ・エトゥールは?』


「エトゥールに残るよ」


 カイルは暗い表情になった。


「王都を捨てきれない人間がある程度でている。彼等はいまだに疎開(そかい)に応じない」


『そんな馬鹿のために、犠牲になるのか?メレ・エトゥールは』


「そちらも説得を続けている。今、駆け引きの真っ最中で――」 


『駆け引き?』


「恒星間天体に防御壁(シールド)をぶつけた僕達と一緒になら脱出してもいいそうだ」


 つまりは、カイルが無茶をする可能性に対するでかい(くさび)が打ち込まれたということか。

 ディム・トゥーラはセオディア・メレ・エトゥールの意図を感じ取った。

 これはもしかしたら、ファーレンシア・エル・エトゥールを彼の望み通りに保護したメレ・アイフェスに対する礼なのかもしれない。

 ディム・トゥーラにとっては有難い協力だった。


『お前達の脱出手段は?』


移動装置(ポータル)を設置して起動させておく。移動装置(ポータル)に乗ればいい」


 答えたのはアードゥルだった。


移動装置(ポータル)?なぜ、ウールヴェで移動しない?』


 カイルとアードゥルは意味ありげに、視線をかわした。


「脱出の時間稼ぎに、最後は王都全体に防御壁(シールド)をたちあげる予定だ。数秒は稼げるだろう」

「逆にその防御壁(シールド)が、ウールヴェの移動を妨げる可能性がある。拠点にウールヴェが入れないのと同じ現象だ。試してないけどね」


『――どのくらい速度を落とせば、拠点は無事なんだ?」


「半分くらいかな?当初より小さくなったとはいえ、今で10キロ程度地表がえぐられる。衝突痕(クレーター)ができないのが究極の理想だよ」


『王都全体の防御壁(シールド)は、衝突痕(クレーター)軽減の策もかねているのか』


「うん」


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