(45)対価⑰
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
(アップしたつもりで、寝落ちしていた不思議)
新たに読者さんが増えたようでテンションが上がってます。
ダウンロードありがとうございました。
「この規格外の監視と遮蔽は必要だ。そばにいれば、気をもまなくてすむだろう?我々の恩情に感謝してほしいものだ」
それは事実だったが、認めるのも癪だ――と、ディム・トゥーラは思った。
『――それこそ無理すぎる。旧ステーションの制御とシャトルによる軌道変更のあとに、地上衝突まで残された時間はわずか十数分だ。恒星間天体の破片が大気圏に突入すれば5分もない。俺が地上に移動する時間はない』
笑ったのはエルネストだった。
「今、君は怒り狂って、ほんの数秒で飛んできた。記録を見るかい?」
『…………ウールヴェを使えと?だが、同調状態で満足に支援追跡ができるかどうかは……』
「それか、ロニオスに身体を転移してもらえばいい」
『衛星軌道上から?』
「そう」
『…………できるのか?』
「さあ?ロニオスに聞いてくれ」
非常に無責任な提案にディム・トゥーラは吐息をついた。
『……人使いが荒いな。軌道変更で忙しいのに、それが終わったら休む間もなく地上でこき使われるのか』
「恨むなら、カイル・リードを恨め」
その言葉にディム・トゥーラはカイルを見たが、カイルはウールヴェの視線を露骨に避けていた。
『別に俺じゃなくても、エルネストが支援追跡をするとか……』
「エルネストはジーンバンクの方に待機してもらうんだ」
カイルが申し訳なさそうに懺悔した。
『なんだって?』
「避難地になるジーンバンクがイーレ一人では手が足りない。扱える初代の人間は限られる。最悪、避難民の暴動が起きるだろうから」
カイルは淡々と語った。
『なんだと?暴動が起きるほど民は不安定なのか?』
「間違いなく、不安定になるよ。エルネストがいれば、最悪、暴徒を思念波で昏倒させれる。ライアーの塚は一番安全な防空壕で、一番無防備な場所でもある」
『……』
「シルビアやファーレンシア、リル達もそこに避難させる。万が一の暴徒鎮圧に、兵団とサイラスも配置する。ハーレイもつきあってくれるそうだ」
『若長として西の地を放置していいのか?』
「ナーヤがいる。安全な場所を見極めることができるから、心配はしていないそうだ」
最強の布陣とも言えたが、ディム・トゥーラには、この計画が失敗した時の保険のように思えた。
『メレ・エトゥールは?』
「エトゥールに残るよ」
カイルは暗い表情になった。
「王都を捨てきれない人間がある程度でている。彼等はいまだに疎開に応じない」
『そんな馬鹿のために、犠牲になるのか?メレ・エトゥールは』
「そちらも説得を続けている。今、駆け引きの真っ最中で――」
『駆け引き?』
「恒星間天体に防御壁をぶつけた僕達と一緒になら脱出してもいいそうだ」
つまりは、カイルが無茶をする可能性に対するでかい楔が打ち込まれたということか。
ディム・トゥーラはセオディア・メレ・エトゥールの意図を感じ取った。
これはもしかしたら、ファーレンシア・エル・エトゥールを彼の望み通りに保護したメレ・アイフェスに対する礼なのかもしれない。
ディム・トゥーラにとっては有難い協力だった。
『お前達の脱出手段は?』
「移動装置を設置して起動させておく。移動装置に乗ればいい」
答えたのはアードゥルだった。
『移動装置?なぜ、ウールヴェで移動しない?』
カイルとアードゥルは意味ありげに、視線をかわした。
「脱出の時間稼ぎに、最後は王都全体に防御壁をたちあげる予定だ。数秒は稼げるだろう」
「逆にその防御壁が、ウールヴェの移動を妨げる可能性がある。拠点にウールヴェが入れないのと同じ現象だ。試してないけどね」
『――どのくらい速度を落とせば、拠点は無事なんだ?」
「半分くらいかな?当初より小さくなったとはいえ、今で10キロ程度地表がえぐられる。衝突痕ができないのが究極の理想だよ」
『王都全体の防御壁は、衝突痕軽減の策もかねているのか』
「うん」




