(44)対価⑯
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
『今、どこにいるんだ?!』
『……えっと、アードゥル達の隠れ家』
『ロニオスと対面したところだな?!あの報告書の作成者はアードゥルか?!』
『よく、わかったね』
『文章の癖がロニオスそっくりだ』
『え?そうなの?』
「そりゃ、私の論文の査読者はロニオスであることが多かったからな。影響は多大に受けている」
思念による会話を盗み聞きしているアードゥルがぼそりと言った。
『そこを動くな。首を洗って待っていろっ!!』
「……首?……首を洗う?」
「古典的表現の一種だ。東国のような刀文化が発展した国は、切腹の介錯などで、首を切られるものがある。介錯人への礼儀として、切られる部分の首を綺麗にしておく礼節があってな――」
「僕、ディム・トゥーラに首を切られるの?!」
「まどろっこしい。虎のウールヴェで喉を噛み切れば単純なのに……」
「ちょっと?!」
やや離れた場所の花畑に着地した存在があり、衝撃のため、花が散り、舞い上がった。
そこには怒りに燃えた白い虎姿のウールヴェがいた。
「花の苗の植え替えは手伝えよ」
アードゥルは、カイルの命より花の苗の損害を案じた。
ずんずんと迫力はそのままに虎のウールヴェが近づいてくる。中世のパニック動画作品のBGMが聞こえたような気がした。
「おお、人食い虎のようだ」
エルネストはその迫力に手を叩いて喜んだ。なぜ、喜ぶ?!カイルは目をむいた。
「食われるのは僕だよ?!」
「だから、他人事でいられる」
「ひどくない?!協力してくれるって言ったじゃないか」
「ちゃんと我々は、お前の支援追跡者を説得できるなら、と条件をつけた」
アードゥルは、まだ冷静に茶を飲んでいた。
『誰がこの馬鹿げた計画をたてた』
アードゥルとエルネストの二人は、揃って即座にカイルを指した。不仲という割には見事にシンクロしている動作だった。
『そういえば、能力を暴走させたとき、深層心理内で俺とロニオスにそんな提案をしていたな。まだあきらめてなかったのか』
虎の周辺に風が生まれていた。当然、穏やかなものではない。
「諦めてなかったようだ。支援追跡者の監督不行き届きではないのか?こちらは巻き込まれて迷惑している」
「ちょっと?!」
アードゥルの言葉は、協力どころかカイルを崖から奈落の底へ突き落としていた。
『それは、支援追跡者として詫びよう』
ディム・トゥーラは、驚くべきことに己の力不足を認めてアードゥルに詫びた。
「私達は、素案があまりにも考えなしの行き当たりばったりで酷いものだったので、整えたにすぎない」
アードゥルは片肘をつき、白い虎を見つめた。
「西の地にジーンバンクが発見された」
『報告は受けている』
「我々はエレン・アストライアーの遺産を生かしたい」
アードゥルの言葉は静かだった。
「エトゥールの地下にあるメイン拠点のエネルギーコアは、大陸各地の拠点の動力源だ。メイン拠点の動力が損傷すれば、ジーンバンクの管理維持動力が失われる可能性がある。それが我々の協力の動機だ」
『――』
「本当に雑な素案だったし、馬鹿が考えた穴だらけの突っ込み満載の内容をここまでまとめた努力を認めて欲しいものだ。恒星間天体に観測ステーションをぶつけるふざけた提案に匹敵するぐらい愚かしい計画だ」
血筋だな――とディム・トゥーラは心の中で突っ込んだ。
「この計画の問題点は、能力者の不足だ。今、この馬鹿をスパルタで鍛えているが、素養は十分でも、時間が圧倒的に足りない」
『……カイルを鍛えているだと?』
「エトゥールの地震の例を考えると、訓練した方がいいという判断だ。思念を暴走されたら困るだろう」
『それは、ありがたいが……』
「ロニオス仕込みのスパルタだ。安心するといい」
それ、安心できないっ!カイルは蒼白になった。
「で、話は戻る。一つは、旧観測ステーションで吹き飛ばす。残った一つは、シャトルの爆薬で進路を変え、エトゥールに落とす。そうだな?」
『その予定だ』
「その進路前面に防御壁を空中展開し、落下速度をできるだけ相殺する」
『無理だろう』
「はっきり言って無理だ。だが、規格外がもう一人いるだろう」
『……ロニオスか?』
「彼がいれば、話は変わってくる。それと君だ」
『俺?』
怒り狂った虎のウールヴェ(ディム・トゥーラ)が近づいてくるBGMは、やはり「ジョーズのテーマ」あたりじゃないかと(真顔)




