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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
851/1015

(42)対価⑭

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ネトコン11感想サービスで感想をいただきました!

 サイラスの言葉はもっともで、ディム・トゥーラは説得力を感じた。

 地上が崩壊(ほうかい)するような事態になっても、カイルがファーレンシアを置き去りにして、一人脱出することなど想像できなかった。間違いなく、彼は姫と運命を共にすることを選択するだろう。


『所長達に相談をする』

『リルに対する許可が下りないなら、移動装置(ポータル)の再起動は協力しない。そう伝えてくれ』


 ディム・トゥーラは降ってわいた新たな問題に溜息をもらした。


『クトリを犠牲にするつもりはないんだろうな?許可が下りなくても彼だけは離脱させてくれ』

『それぐらいは妥協(だきょう)するさ。彼は俺達のために降りてきてくれた。恩を(あだ)で返すつもりはない。そんなことをしたらイーレに殺される』

『あいかわらず、師匠(イーレ)の判断が基準なんだな』

『それ以外の何があるって言うんだよ』


 サイラスは優秀な先発降下隊の一人だったが、倫理観(りんりかん)が欠落していることは、研究都市で有名だった。その彼の今の判断基準がイーレに殺されるかどうかということは、初耳だった。

 ある意味、イーレのサイラスに対する教育は成功しているとも言えた。イーレは年齢に関する不当な暴力はあっても、倫理観は正常だったからだ。


『でもリルを気遣うのは、イーレは無関係だろう?』

『リルは、俺の養い子だからな。俺だっていろいろ努力しているんだ』

『努力?』


 それも初耳だった。


『ちゃんと、あの子の手の骨を折ることなく、エスコートをマスターしたぞ?』

『は?』


 今、とんでもない発言がなかっただろうか?努力の方向が予想外の内容だった。


『手の骨ってなんだ?』

『手の骨は手の骨だよ。俺の握力だと、うっかりリルの手の骨を折っちゃうからさ』

『――』

 

 確かに、サイラスは過去に手足を欠損し、筋力増加の特殊再生をしている。

 重量物を軽々と持てたり降下した時の調査で役にたっているが、それで養い子の手の骨を折るというのは、いささか異常ではないだろうか?


 カイルが、サイラスの脳筋ぶりを嘆いていた意味がよくわからなかったが、このことか――と、今更ながら、理解した。

 それとも、これは進歩だと、認めるべきなのだろうか。いや、基本的に、基準がおかしい。

 はるかに路線をはずした脳筋ぶりに、ディム・トゥーラは頭痛を覚えた。


『ディム?』

『あー、なんでもない。しばらく、エトゥールに待機してくれ。所長の許可がでたら移動装置(ポータル)の再起動だ』

『それは、困るな。俺がエトゥールに足止めされると、リルの商売に支障がでる』

『支障?なぜ?』

『俺がリルの護衛もかねているからだよ』

『他の護衛専門の人間がいるんだろう?』

『もちろんいるが、皆、俺とイーレより弱い』

『いや、イーレとサイラスより強い地上の人間なんて、いないだろう?』

『若長はイーレより強いし、暗殺者であったアッシュは俺に負けないぞ?』

『いや、そうじゃなく――』

『なかなか、俺の目にかなう実力者がいないんだよ』

『……リルの護衛で?』

『リルの護衛で』

『……つまり、他人にまかせられない?』

『そう』


 ディム・トゥーラは、サイラスの(こじ)らせぶりに不安を覚えた。

 




『そうなんだよ、(こじ)らせているんだよ』


 カイルは同意した。


『どうして、こうなった?極端に過保護すぎるよな?』

『イーレが基準だからじゃないかなぁ』

『は?』

『イーレを基準にしたら、地上の女性って、(はかな)くて、すごくか弱いよね』

『――まあ、イーレを基準にしたらそうなるな』

『人形のように壊してしまいそうで、怖いんじゃないかなぁ』

『それ、おかしいだろう?』

『おかしいよ。だから脳筋ぶりがひどいって言ってるの。おまけにイーレはこれに関して放置なんだよ』

『放置?』

『師匠が脳筋だから、弟子が脳筋になるのは仕方がない、って』

『……………………』


 納得しかけて、慌ててディム・トゥーラは頭をふって、考えを追い出した。ここは、納得してはいけないネタだった。


『でも、過保護になるのは僕も理解できるよ。僕もファーレンシアには過保護だもん』

『まあ、そうだな』 

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