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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
849/1015

(40)対価⑫

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。(奇跡の3日連続!)


ブックマークありがとうございました!

面白ければ、布教宣伝をお願いします。(拝礼)


現在、体力温存のリハビリ投稿中につき、投稿頻度未定です。(土下座)

「……ジーン……バンク……?」


 カイルの言葉の意味を悟り、計り知れない付加価値を即理解したのは、初代の男達二人だった。

 彼等はすぐに露出(ろしゅつ)された柱にへばりつき、保管キューブの一つを抜き取った。中身を確認し、すぐに戻すと、次の保管キューブを抜きとる。

 終わることのない確認作業を繰り返す。


「嘘だろう……」


 (うめ)いたのはエルネストだ。


「これだけの基盤(きばん)を構築したのか?たった一人で……?」

「基本設計を構築して、エレン・アストライアーの死後、収集保存作業をしたのは自動ユニットだけどね」


 カイルはエルネストの横にたって、巨大な柱を見上げた。


「地上人類の宝だ」

「カイル様……じーん・ばんくとは?」


 ミナリオ達の困惑した表情にカイルは微笑んだ。


「恒星間天体が落ちる。まあ、恒星間天体だけではなく、自然現象や気象変化、文化的乱獲や開発とかで、植物や動物は簡単に滅亡するんだよ。それを未然に防ぐために、あらかじめ目的の植物や動物の種や遺伝子を採取して保存・管理をする僕達の世界の技術だ」


 気づいたのはハーレイだった。


「天上のメレ・アイフェスが望んだ動物の血液かっ!!」

「そう、それっ!」


 カイルはハーレイの指摘を認めた。


「正直、僕達は後手に回ってしまって、時間もなく、そこまで成すことは人手不足でもあった。それをエレン・アストライアー――イーレの双子の姉がやり遂げてくれたんだよ。五百年前から」


 カイルはイーレの方を見つめた。


「僕がイーレ達を大絶賛するわけを理解してくれる?イーレ、君の存在はこの世界を救っているんだよ。世界の番人もイーレに土下座するだろうさ。それぐらい、すごいことなんだよ」

「……よく……よく、わからないわ……」

「ディム・トゥーラなんか、降下したがって地団駄(じだんだ)踏むだろうなぁ。これだけの量のデータベースだ。文化的乱獲で500年間に絶滅した動植物類とかもあるだろうし……」


 カイルは想像して笑いをもらした。


「イーレ、恒星間天体が落ちても僕達は生き延びられる。これを作ったエレン・アストライアーと、地上嫌いなのに地上に降りてくれたイーレのおかげだよ。イーレは原体(オリジナル)を嫌っているけど、地上に貢献した同志(どうし)として、ちょっぴり存在を認めてもいいんじゃないのかな?長年の遺恨(いこん)を消化できるかもしれない」

「………………」


 イーレは複雑な表情をしていた。誇らしげな、それでいてそれを認めると沽券(こけん)にかかわるような、そんな顔だった。

 ハーレイがイーレの肩を軽くたたいた。


「……あの……あの……」


 イーレは狼狽(うろた)えたように言葉を探していた。


「さすが、我が妻だ。存分に、誇るといい」

「……でも……別に、わ、私の功績じゃないし……」

「イーレの功績だ」

「……でも……」

「訓練をすぐに始める必要があるな。(おのれ)功績(こうせき)を自慢しない西の民はいないぞ?」

「……でも……」

「大丈夫だ。俺がいくらでも()めてやる」

 

 ハーレイはイーレの小柄な身体を持ち上げ、片腕にのせ、目線の高さをそろえた。


「……ハーレイ……」

「なんだ?」

「……私は存在して、いいのかしら?」

「もちろんだ」


 ハーレイはイーレの支援追跡者(バックアップ)として、彼女がずっと抱いてきた葛藤(かっとう)矛盾(むじゅん)苦悩(くのう)を正確に理解していた。


「この世に生まれてきたものは、皆理由がある。それこそが存在理由だ」


 イーレは、はじめて居場所を得た子供のように、ハーレイの首に強くしがみついた。






「…………降下したい」


 ディム・トゥーラは、思わず本音をもらした。地上のカイル・リードからの報告は、想像外のものだった。

 地上に探査惑星の遺伝子銀行(ジーンバンク)が構築されている――それは、研究者にとって(よだれ)がでる魅力的すぎるものだった。


「……俺、今から降下していいですか?」


「『待て待て待て待て』」


上司二人が暴走をとめた。


『落ちつけ。ディム・トゥーラ』


「500年前から構築されているジーンバンクですよ?貴重種がどれだけあると思っているんですか?」


『うむ、そうだな。だが、とりあえず落ち着け』


「落ちついていますから、移動装置(ポータル)を一つ俺にくれませんかね?」


『いや、君らしからぬ(こわ)れぶりだ。私は、今、とても不安だ。恒星間天体がもうすぐ、星系に到達すると理解できているかね?』


「理解してますが、ちょっと降下(こうか)するぐらい……」


 ディム・トゥーラの言葉に、白い狼は救いを求めるように天井を仰いだ。

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