(40)対価⑫
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現在、体力温存のリハビリ投稿中につき、投稿頻度未定です。(土下座)
「……ジーン……バンク……?」
カイルの言葉の意味を悟り、計り知れない付加価値を即理解したのは、初代の男達二人だった。
彼等はすぐに露出された柱にへばりつき、保管キューブの一つを抜き取った。中身を確認し、すぐに戻すと、次の保管キューブを抜きとる。
終わることのない確認作業を繰り返す。
「嘘だろう……」
呻いたのはエルネストだ。
「これだけの基盤を構築したのか?たった一人で……?」
「基本設計を構築して、エレン・アストライアーの死後、収集保存作業をしたのは自動ユニットだけどね」
カイルはエルネストの横にたって、巨大な柱を見上げた。
「地上人類の宝だ」
「カイル様……じーん・ばんくとは?」
ミナリオ達の困惑した表情にカイルは微笑んだ。
「恒星間天体が落ちる。まあ、恒星間天体だけではなく、自然現象や気象変化、文化的乱獲や開発とかで、植物や動物は簡単に滅亡するんだよ。それを未然に防ぐために、あらかじめ目的の植物や動物の種や遺伝子を採取して保存・管理をする僕達の世界の技術だ」
気づいたのはハーレイだった。
「天上のメレ・アイフェスが望んだ動物の血液かっ!!」
「そう、それっ!」
カイルはハーレイの指摘を認めた。
「正直、僕達は後手に回ってしまって、時間もなく、そこまで成すことは人手不足でもあった。それをエレン・アストライアー――イーレの双子の姉がやり遂げてくれたんだよ。五百年前から」
カイルはイーレの方を見つめた。
「僕がイーレ達を大絶賛するわけを理解してくれる?イーレ、君の存在はこの世界を救っているんだよ。世界の番人もイーレに土下座するだろうさ。それぐらい、すごいことなんだよ」
「……よく……よく、わからないわ……」
「ディム・トゥーラなんか、降下したがって地団駄踏むだろうなぁ。これだけの量のデータベースだ。文化的乱獲で500年間に絶滅した動植物類とかもあるだろうし……」
カイルは想像して笑いをもらした。
「イーレ、恒星間天体が落ちても僕達は生き延びられる。これを作ったエレン・アストライアーと、地上嫌いなのに地上に降りてくれたイーレのおかげだよ。イーレは原体を嫌っているけど、地上に貢献した同志として、ちょっぴり存在を認めてもいいんじゃないのかな?長年の遺恨を消化できるかもしれない」
「………………」
イーレは複雑な表情をしていた。誇らしげな、それでいてそれを認めると沽券にかかわるような、そんな顔だった。
ハーレイがイーレの肩を軽くたたいた。
「……あの……あの……」
イーレは狼狽えたように言葉を探していた。
「さすが、我が妻だ。存分に、誇るといい」
「……でも……別に、わ、私の功績じゃないし……」
「イーレの功績だ」
「……でも……」
「訓練をすぐに始める必要があるな。己の功績を自慢しない西の民はいないぞ?」
「……でも……」
「大丈夫だ。俺がいくらでも褒めてやる」
ハーレイはイーレの小柄な身体を持ち上げ、片腕にのせ、目線の高さをそろえた。
「……ハーレイ……」
「なんだ?」
「……私は存在して、いいのかしら?」
「もちろんだ」
ハーレイはイーレの支援追跡者として、彼女がずっと抱いてきた葛藤と矛盾と苦悩を正確に理解していた。
「この世に生まれてきたものは、皆理由がある。それこそが存在理由だ」
イーレは、はじめて居場所を得た子供のように、ハーレイの首に強くしがみついた。
「…………降下したい」
ディム・トゥーラは、思わず本音をもらした。地上のカイル・リードからの報告は、想像外のものだった。
地上に探査惑星の遺伝子銀行が構築されている――それは、研究者にとって涎がでる魅力的すぎるものだった。
「……俺、今から降下していいですか?」
「『待て待て待て待て』」
上司二人が暴走をとめた。
『落ちつけ。ディム・トゥーラ』
「500年前から構築されているジーンバンクですよ?貴重種がどれだけあると思っているんですか?」
『うむ、そうだな。だが、とりあえず落ち着け』
「落ちついていますから、移動装置を一つ俺にくれませんかね?」
『いや、君らしからぬ壊れぶりだ。私は、今、とても不安だ。恒星間天体がもうすぐ、星系に到達すると理解できているかね?』
「理解してますが、ちょっと降下するぐらい……」
ディム・トゥーラの言葉に、白い狼は救いを求めるように天井を仰いだ。




