(32)対価④
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エルネストはすぐに携帯用の移動装置ユニットを調達してきた。ありとあらゆる想定をし、対応策を構築するところは、どこかディム・トゥーラに似ていた。
「イーレ、再起動を始めてくれ」
「はいはい」
イーレが床に膝をつき、原体が設置したであろう移動装置に手をふれた。
「個体識別認識」
「再起動準備」
「確定座標確認」
「再起動に伴うリスクチェック開始」
イーレが手慣れた様子で再起動の工程を開始していく。
カイルはその様子を不思議な思いで見守っていた。
地上嫌いのイーレが、ここにいること自体が奇跡に等しいが、そのきっかけを作ったのは自分だった。世界の番人にカイル自身が強制的に地上に転位されなければ、イーレがこの惑星に降り立つことにはなかった。
そして彼女が原体の伴侶と支援追跡者と再会することは叶わなかっただろう。
カイルはちらりと、アードゥルの方を伺った。
アードゥルはミオラスを完璧にエスコートしており、この状況にも平然としていた。複雑であるはずの心情は、これっぽっちも漏れ出ておらず、非の打ち所のない自己コントロールを証明していた。
これは、まるで複雑に絡み合った毛糸玉を解きほぐすような行為だ――カイルはそう感じた。それぞれが過去の出来事で傷ついた心を、新たな出会いで癒していた。カイル自身もそうかもしれない。ファーレンシアに出会ってなければ、安らぎと居場所はなかっただろう。
そして、その不思議な縁の糸で世界の番人は、世界の変化と文明の滅亡回避を織っていく。
エルネストやアードゥルがいなければ、どうなっていただろうか?この拠点を発見して再起動することも、使いこなすこともできなかったに違いない。
そんな風に全ての出来事が複雑に連鎖していた。
アドリー辺境伯としてのエルネストに出会い、西の地でアードゥルと遭遇したことが、ここまでの結果を引き出すことができるとは、カイルも思わなかった。
エレン・アストライアーの死がなければ、二人はこの惑星に残留しなかったに違いない。
そのエレン・アストライアーが密かに残した拠点に、二人と乗り込む。エレン・アストライアーのクローンであるイーレと共に――。
なんという皮肉であり、偶然であり、必然なのだろうか。
どこまでが世界の番人が見た未来で、どこからが抗えない運命だったのだろうか。
そして未来は――?
カイルの脳裏に世界の番人が見せた様々な場面がよぎって、消えた。
――未来は一つではない
――人々の選択により未来が選ばれる
西の地で聞いたナーヤの言葉は、至言だった。
今、地上の滅亡を回避するために、人々は選択している。
――お前がどんなに頑張っても、抗えない運命はある。それで、己を責めるのはやめろ。
カイルはナーヤの先見を盲信していた。その彼女が言う、この先、自分を責めずにはいられなくなる抗えない運命とはなんだろうか?
怖い。
じわじわと恐怖がカイルを包んでいた。
「カイル、開いたわよ」
はっとしてカイルはイーレを見た。
彼女の手元には、再起動された移動装置が金色の円弧を描いていた。だが、その範囲は狭かった。
「えっと……もう少し大きくできる?」
「そうね、これは明らかに一人用の空間だわ。彼女ってば、本当に一人で行動していたのね」
「我々のせいだったのだろうな」
エルネストがつぶやくように言った。
「彼女の懇願に聞く耳を持たなかった」
「そこで反省されちゃうと、私が困っちゃうわ。エレン・アストライアーの事故がなければ、私は生まれてこない存在なのだから」
軽口で指摘された事実にエルネストは、はっと息を飲み、イーレに対して狼狽えた。
「い、いや、私はそんなつもりではなく――君を傷つけるつもりはなかった。すまない」
「うふふ、わかっているわよ。謝ってくれるところが、研究都市の連中より、遥かに健全で紳士だわ。さすが、原体の支援追跡者。原体も見る目があるわね。性格が悪くても合格ラインよ」
「性格が悪いって――」
「悪いじゃない」
シリアスな会話から脱線をしたイーレの突っ込みに、カイルとアードゥルはぷっと噴出した。
その反応に、エルネストが二人を睨んだ。




