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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
841/1015

(32)対価④

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマーク、一気ダウンロードありがとうございます!

 エルネストはすぐに携帯用の移動装置(ポータル)ユニットを調達してきた。ありとあらゆる想定をし、対応策を構築するところは、どこかディム・トゥーラに似ていた。


「イーレ、再起動を(はじ)めてくれ」

「はいはい」


 イーレが床に(ひざ)をつき、原体(オリジナル)が設置したであろう移動装置(ポータル)に手をふれた。


「個体識別認識」

「再起動準備」

「確定座標確認」

「再起動に伴うリスクチェック開始」


 イーレが手慣れた様子で再起動の工程(フロー)を開始していく。

 カイルはその様子を不思議な思いで見守っていた。


 地上嫌いのイーレが、ここにいること自体が奇跡に等しいが、そのきっかけを作ったのは自分だった。世界の番人にカイル自身が強制的に地上(エトゥール)に転位されなければ、イーレがこの惑星に降り立つことにはなかった。


 そして彼女が原体(オリジナル)の伴侶と支援追跡者(バックアップ)と再会することは叶わなかっただろう。


 カイルはちらりと、アードゥルの方を伺った。

 アードゥルはミオラスを完璧にエスコートしており、この状況にも平然としていた。複雑であるはずの心情は、これっぽっちも漏れ出ておらず、非の打ち所のない自己コントロールを証明していた。


 

 これは、まるで複雑に絡み合った毛糸玉を解きほぐすような行為だ――カイルはそう感じた。それぞれが過去の出来事で傷ついた心を、新たな出会いで癒していた。カイル自身もそうかもしれない。ファーレンシアに出会ってなければ、安らぎと居場所はなかっただろう。


 そして、その不思議な縁の糸で世界の番人は、世界の変化と文明の滅亡回避を織っていく。



 エルネストやアードゥルがいなければ、どうなっていただろうか?この拠点を発見して再起動することも、使いこなすこともできなかったに違いない。

 そんな風に全ての出来事が複雑に連鎖していた。

 アドリー辺境伯としてのエルネストに出会い、西の地でアードゥルと遭遇したことが、ここまでの結果を引き出すことができるとは、カイルも思わなかった。


 エレン・アストライアーの死がなければ、二人はこの惑星に残留しなかったに違いない。

 そのエレン・アストライアーが密かに残した拠点に、二人と乗り込む。エレン・アストライアーのクローンであるイーレと共に――。

 なんという皮肉であり、偶然であり、必然なのだろうか。


 どこまでが世界の番人が見た未来で、どこからが(あらが)えない運命だったのだろうか。

 そして未来は――?

 カイルの脳裏に世界の番人が見せた様々な場面がよぎって、消えた。


――未来は一つではない

――人々の選択により未来が選ばれる


 西の地で聞いたナーヤの言葉は、至言(しげん)だった。

 今、地上の滅亡を回避するために、人々は選択している。


――お前がどんなに頑張っても、(あらが)えない運命はある。それで、己を責めるのはやめろ。


 カイルはナーヤの先見を盲信していた。その彼女が言う、この先、自分を責めずにはいられなくなる抗えない運命とはなんだろうか?


 怖い。

 じわじわと恐怖がカイルを包んでいた。


「カイル、開いたわよ」


 はっとしてカイルはイーレを見た。

 彼女の手元には、再起動された移動装置(ポータル)が金色の円弧を描いていた。だが、その範囲は狭かった。


「えっと……もう少し大きくできる?」

「そうね、これは明らかに一人用の空間だわ。彼女ってば、本当に一人で行動していたのね」

「我々のせいだったのだろうな」


 エルネストがつぶやくように言った。


「彼女の懇願に聞く耳を持たなかった」

「そこで反省されちゃうと、私が困っちゃうわ。エレン・アストライアーの事故がなければ、私は生まれてこない存在なのだから」


 軽口で指摘された事実にエルネストは、はっと息を飲み、イーレに対して狼狽(うろたえ)えた。


「い、いや、私はそんなつもりではなく――君を傷つけるつもりはなかった。すまない」

「うふふ、わかっているわよ。謝ってくれるところが、研究都市の連中より、遥かに健全で紳士(しんし)だわ。さすが、原体(オリジナル)支援追跡者(バックアップ)原体(オリジナル)も見る目があるわね。性格が悪くても合格ラインよ」

「性格が悪いって――」

「悪いじゃない」


 シリアスな会話から脱線をしたイーレの突っ込みに、カイルとアードゥルはぷっと噴出した。

 その反応に、エルネストが二人を(にら)んだ。

 

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