(27)地下探索㉗
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございました!
「なるほど……。芍薬は根を乾燥させたものは、鎮痛や止血剤に役立つのだが、その場合、蕾を取らなければならない」
「え?!薬草だったのですか?!」
「そのつもりで、採取栽培していたが、個人的に趣味にはまって育てた。花形や花弁や色が多種にわたるので、飽きない。あまりにも私が種類を増やしすぎるので、当時の責任者には説教をされた」
「まあ……」
「廃棄処分を命じられるかと思ったら、この階層を与えられた。どうせなら癒しの空間を作って貢献しろ、が課題だった。この広さを花で埋め尽くす方が大変だったが」
思わぬ栽培逸話にミオラスは思わず笑ってしまった。
「ずいぶん理解のある領主ですわね」
「そう思うか?」
「ええ、アードゥル様のことをよくわかっていらっしゃると思います」
「……」
だから勝てないのか、とアードゥルがつぶやいたような気がした。
「地上に苗を持って帰るか?」
「……よろしいのですか?」
「かまわない」
「ありがとうございます。好きな花です」
「そうだと思った」
「え?」
「いや、なんでもない。隣の区域にはいかないように。危険な植物ばかりある」
「はい、わかりました」
アードゥルが何か操作をすると、何もない床からソファーとテーブルが生えた。
ミオラスは目を丸くした。
「しばらく、ここで休憩していよう」
「はい」
アードゥルの方が疲れたようにソファーに身を沈めた。
「…………あの小僧は、人使いが荒すぎる……」
「ファーレンシア・エル・エトゥールがおっしゃるには、『立っている者は親でも使え』の主義で、メレ・エトゥールすら使っているとか」
ミオラスの言葉に、アードゥルは嫌そうな顔をして、ますますソファーに身を沈めた。
「エル・エトゥールのお墨付きか」
「でも、アードゥル様も楽しそうですね」
「なんだって?」
「本来、興味のない人間は最初から相手をしないではありませんか」
「――」
思わぬ指摘にアードゥルはミオラスを見つめた。ミオラスは微笑んだ。
「とても楽しそうです」
「………………別に楽しくはない」
アードゥルは憮然としていた。その表情は、エルネストとの賭けに負けた時のものと一致していた。
「私は楽しいです。知らない世界に足を踏み入れ、それがアードゥル様の故郷に関わることですから」
「……」
「こうして、見知らぬ世界でアードゥル様と向き合っているなんて、アドリーに滞在していた頃は想像もできませんでした」
「……私もだ。未来とは読めないものだな」
アードゥルは懐かしいはずの光景を避けるように目を閉じた。
「緊急事態、全個室施錠解除」
エルネストの口頭命令に反応があった。スクリーン内の施設図の何か所の赤い光点が緑に変換されていく。
「さて、聖域を冒涜しにいくか」
「ほんと、親友の個室を覗き見しに行くなんて、背徳感これ極まりだわ」
イーレが憂いたように息をついた。
「……辞めてもいいが?」
「冗談でしょ。貴方は原体について知らないことがあったことを悔しくないの?」
「そういう挑発はやめてもらいたいなぁ」
「これを挑発と感じるってことは、図星ってわけね」
「……………………」
「私は記憶がないから、内部構造がわからないわ。カイル達をちゃんと案内してちょうだい。今度は逃げないでね」
イーレは釘を刺すのを忘れなかった。
降参というように、エルネストは軽く両手をあげると歩き出した。管理室をでたエルネストは迷うことなく、廊下を歩いていく。端末があるとはいえ、内部構造をまだ理解していないカイル達は付き従うことしかできなかった。
端末を片手に、現在位置を確かめながらカイルは、エルネストの傍らを歩いた。
目的地が近いのか、エルネストは移動装置を使わなかった。
「……住居区じゃないよね?」
「責任者と副官は、当然、緊急事態に備えて、管理室の近くに部屋がある」
「その責任者がロニオスで、副官がジェニ・ロウ?」
「そう」
「えっと……ロニオスが支援追跡をしていたのがアードゥルで、アードゥルの伴侶がエレン・アストライアーで、エレン・アストライアーの支援追跡者が貴方で……」
「関係性を簡単にまとめられる言葉を教えようか?」
「何?」
「『腐れ縁』と言うんだ」
「……煙にまかないでよっ!」
「まいていないぞ?」
「やめとけ、カイル。メレ・エトゥールに勝てないように、アドリー辺境伯にも勝てない」
ハーレイに忠告され、カイルはため息をついた。
「うん、僕もそう思った」




