(21)地下探索㉑
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アードゥルは人手不足を管理維持の問題点としてあげていた。
一般の避難民の出入りではなく、カイルが信頼するエトゥールの関係者を維持管理の補助要員として採用するなら、交渉の余地はありそうだった。
「……ミナリオ、アイリ、メレ・エトゥールとファーレンシア、ハーレイ……いや、いっそうのこと第一兵団あたりとかに文字を教えるか……?」
「カイル様?」
カイルは顔をあげた。
「うん、確かに。ミナリオはもう出入りが許可されているし、案内板ぐらいは読めるようになってもいいかもしれない」
「あとはその『たんまつ』の操作方法も教えていただければ」
「イーレとアードゥルに交渉してみるよ」
「お願いします」
ミナリオは満足そうに頷いた。
「……なんだか嬉しそうだね……」
「カイル様が一人で危険なことをすることは阻止できそうですから」
「どうして僕が危険なことをすることが前提なんだ?」
「危険なことをしなかったことがありましたか?精霊鷹に同調して肋骨は折るわ、野生のウールヴェに同調して毒をうけるわ、初代に腹をさされるわ、腹に傷がある状態で病室を抜けるわ、婚約の儀直前に初代に拉致られるわ、カストに乗り込むわ……」
指折り列挙され、それがとどまる様子がないので、カイルは慌てた。
「だいたい今回のことだって、危険なことをしている自覚があるから、ファーレンシア様に黙っていてもらいたいのでしょう?」
「……うっ……」
「カイル様の思考パターンはお見通しです」
「………………はい、その通りです」
「私もシルビア様のお世話にならず、胃の健康を守りたいのでよろしくお願いします」
「………………はい、反省しています。ごめんなさい」
ああ、僕が勝てない人物が、どんどん増えていく――カイルは専属護衛との下剋上に遠い目をした。
本当にファーレンシア様の言った通りだな、とミナリオは内心、感心していた。
「カイル様は、エトゥールの被害を最小に食い止めることを、いまだに模索しています。ただ、それを追求するあまり自分の安全に無頓着になります」
エトゥールの姫は、呼び出した伴侶の専属護衛に語った。
「ミナリオの負担を増やして申し訳ないのですが、カイル様から絶対に目を離さないでください」
「それが、専属護衛の責務ですから、喜んで。しかしエル・エトゥール、それは先見でしょうか。何か見られたのですか?」
ファーレンシアは首を振った。
「最近、先見がまったくないのです。もしかしたら私の能力は失われたのかもしれません。これは、カイル様の性格によるただの行動予測にすぎません」
「その行動予測には同意しますが……」
ミナリオは困ったように言った。
「問題は私に口止めを強要する可能性があることです」
ファーレンシアは、ふっと笑った。
「専属護衛には、メレ・エトゥールに報告の義務があります。それを怠れば、任から外される――そう言えば、カイル様も強くは言えないはずです」
「確かに……」
「細かいことでもいいので、兄にカイル様の動向を報告してください」
「メレ・エトゥールはともかく、ファーレンシア様に対する口止めは回避できませんが?」
「むしろ、それを上手く使ってください。『ファーレンシア様に報告します』『ファーレンシア様が泣く』――これらは、カイル様の行動に釘をさせます」
「…………ファーレンシア様、それは惚気ですか?」
「私の本気の惚気を聞きたいというなら、貴方が非番の日にきてください。マリカも聴衆の犠牲者仲間が増えて喜ぶことでしょう」
「…………えっと、それはファーレンシア様の惚気をいつもマリカが聞かされて、気の毒なレベルだが、やめるつもりはない、という解釈であってますか?」
「あってます」
「……独身者には地獄の責苦なので、遠慮しておきます」
「残念です」
ファーレンシアは本当に残念そうな顔をした。どんな惚気話が飛び出すかミナリオは興味が惹かれたが、エトゥールの姫が延々と伴侶について惚気る可能性は多大だった。
危険だ――本能が回避の道を選択させた。
「ファーレンシア様への口止めは、本当によろしいんですか?」
「兄から聞きますので、大丈夫です」
意外な攻略手法にミナリオは、あっけにとられた。
「……えっと、それは……」
「ちゃんと、ミナリオは『私に』報告はしていないでしょ?カイル様に嘘はついていないから大丈夫です」
ファーレンシアはにっこり笑った。
カイル様は、ファーレンシア様に完全攻略されている――ミナリオはそう思った。




