(20)地下探索⑳
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
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「……なんて書いてあるんですか?」
「『資材保管庫1』」
「……『1』とあるなら『2』も『3』もあるとか?」
「うん」
カイルは表示通りの資材保管庫に辿り着くと手順にしたがって鍵を解除した。
「カイル様」
「うん?」
「先ほどの話ですが……」
「メレ・エトゥールに報告する?」
カイルは少し困ったような表情を浮かべたが、ミナリオも付き合いが長くなったので誤魔化されなかった。
ミナリオがカイルの懇願に弱いことを計算した表情の選択だった。
「もちろん、報告します」
カイルはいつもの作戦が通じず、不満を示すように膨れっ面をした。
「意地悪だ」
「意地悪ではなく、駄目なものは駄目です。メレ・エトゥールへの報告は義務です。怒られる自覚があるのですね」
「……あるよ……」
「ファーレンシア様も泣きますよ?」
「ファーレンシアにも言うの?!」
ミナリオは、カイルの慌てたような反応に考え込んだ。それからにっこり笑った。
「カイル様、取引をしましょうか?」
「どんな?」
「メレ・エトゥールには報告しますが、ファーレンシア様には黙っていてもいいですよ?」
カイルは、ミナリオの提示した妥協案に安堵の表情を浮かべた。ファーレンシアに泣かれるくらいなら、セオディアの説教の方がマシだった。
「条件は何?」
「カイル様が、将来、先ほどの作戦をとるときは、私を連れて行くことです」
「え?!」
「その反応……よもや、私を連れていけないような危険な行為――そんなわけはありませんよね?」
ミナリオのさわやかな笑顔に、巨大な釘が自分に刺さったことを、カイルは感じた。シルビアの笑顔とどこか通じるものがあった。
ミナリオは間違いなく怒っている。
「それは……その……」
「私は別に、ファーレンシア様に報告してもいいのですが」
「待って待って待って」
「大災厄時に私を同行させるのと、ファーレンシア様に全てを報告されるのとどちらがいいですか?」
「だから待ってよっ!」
カイルは叫んだ。
「ファーレンシアには知られたくないけど、ミナリオを危険な目にあわせたくないよっ!」
はっとして、カイルは口を押えた。
「ほほう、やっぱり危険な行為だったわけですね」
ミナリオが目を細めた。
「初代との会話の内容の半分も理解できませんでしたが、カイル様が自分の安全を軽視していることは、察しました」
「そ、それはだね……」
カイルは言い訳の言葉を探した。
「申し開きは、メレ・エトゥールにしてください」
「ううっ……」
「どうされましたか?」
「……メレ・エトゥールに、1日中説教を受ける未来しか浮かばない」
「素晴らしい先見です。占者になれます。で、私との取引はどうしますか?」
「ううっ……」
「簡単なことですよ?私を同行させて、私とカイル様の安全が保障されればいいんですよ。自分の安全は軽視しても、専属護衛をそれに道連れにしたくないでしょう?カイル様は、そういう性格していますものねぇ」
「ううっ……」
「あ、もう一つ究極の脅迫ネタを考え付きました」
それは不吉な言葉だった。
「…………どんな?」
「ディム様に全てばらします」
「絶対にやめて。メレ・エトゥールの説教の恐怖の比じゃない」
カイルは青ざめ、本気で怯えた。想像するだけで恐ろしい。
ディム・トゥーラに隠し通すことは無理だとは思っていたが、他人から問題が耳に入るのと、懺悔的に事前報告をするのでは、激怒の度合いが違うことは、カイルにも十分理解できた。
「じゃあ、取引成立ですね」
ミナリオは満足そうに、カイルから満額回答を引き出した。
「……主人を脅迫するなんて、ひどい専属護衛だ……」
「優秀な専属護衛と言ってください。主人を諫めるのも専属護衛の任の一つです」
カイルは諦めの吐息をついた。
「そういえば、カイル様にもう一つお願いごとが……」
「お願いごとなの?脅迫なの?」
拗ねたようにカイルは言った。
「お願いごとの類です」
「何?」
「私にカイル様の世界の言語を教えてください」
「へ?」
意外な申し出にカイルは驚いた。
「別に言語を覚えなくても、僕と会話できているでしょ?」
「どちらかといえば文字ですかね」
「文字?」
「さっきのような案内表示を読めるようになりたいです。これから先、必要になる可能性もありますから」
カイルはミナリオの意見をもっともだと感じた。




