(18)地下探索⑱
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
「なんで、否定するの?!やってみなければわからないじゃないか?!」
「そのやってみることが、検証もなく、ぶっつけ本番を示唆しているのだが?多少の効果があるのは認めよう。進路上に防御壁を重連で展開する――だが、それは正確に進路上でなければ、効果は薄い。その場合、問題になるのはなんだと思う?」
「…………何?」
「恒星間天体の大気圏突入速度と、それに対する能力者の位置だ」
アードゥルは指摘した。
「ロニオス達が分裂した恒星間天体に観測ステーションの旧エリアをぶつけ、片割れをはじく。もう一つの進路は、シャトルに乗せた地上の火薬類でエトゥールに進路を変える。その衝撃によって、突入速度はある程度減速されるが、完全ではない。だから、地上から防御壁を展開させ、地上被害を軽減させたい――その意図は理解できる。だが、その方法だと進路前方でなければならない。大気圏突入のわずか数十秒という時間で、複数展開させるなら、能力者は目標の進路上にいる必要がでてくる。お前は恒星間天体の落下地点であるエトゥールにいることになる。それはわかっているのか?」
関係者はその指摘にぎょっとした。
カイルは逆に黙り込んで視線をそらした。その反応にアードゥルは呆れたようにカイルを見下ろした。
「わかってての提案か。それをお前の支援追跡者が許可するとは思えん」
「…………着弾前にウールヴェで跳躍して回避できるし、回避用の移動装置を設置するとかできる……かもしれないし……」
「そんな曖昧な計画は却下だろう。誰もお前がそんな危険なことをするのを望まない。もう少し現実的な計画をたてろ」
「無人飛行装置で防御壁を展開するとか……」
「飛行装置の方が、恒星間天体の大気摩擦熱で負ける。地上の拠点にはミサイルがあるわけでもない」
「………………」
「だいたい欲張りすぎだ。ロニオス達のおかげで海底火山への衝突を回避できることだけでも御の字と思え」
カイルは反論の言葉が見つからなかった。
論争はひとまずやめ、拠点内の状況を確認することになった。当然、その作業は初代で記憶のあるアードゥルの仕事となったが、彼は意外にも文句も言わずに引き受けた。その間に、カイルとミナリオは端末を片手に、拠点内を巡回するために管理室から出て行った。
「カイルを止めてくれてありがとう」
イーレは操作卓前に座るアードゥルの隣に立って静かに礼を言った。
「彼があんな無謀な計画をたてているなんて気づかなかったわ」
「……首輪でもつけて管理しておけ。あの無謀ぶりは野生のウールヴェより始末が悪い」
アードゥルは不機嫌に応じた。
彼がなぜ怒っているのか、イーレは不思議に思った。世界を拒絶していた男が、なぜかカイルに対してディム・トゥーラと似たような反応をしている。
「……やだわ……無節操に、たらすなんて、もうここまでくると才能……」
「なんか言ったか?」
「なんでもない。それにカイルには、もう首輪はついてるはずなんだけど……」
「なんだって?」
「行方不明になるから、追跡端末を専属護衛が持っているわ。エトゥール王が保証する胃の丈夫な専属護衛を慢性胃炎にしたことで、カイルの悪名はエトゥール城内にとどろいていてね。全員が監視している状態よ」
「……専属護衛も気の毒に。辞任を認めてやればいいだろう」
「本当にねぇ。シルビアがいなかったら専属護衛は胃潰瘍で深刻な状態になっていると思うわ。でもミナリオもカイルの専属護衛を辞めようとしないのよね。ちょっと専属護衛と支援追跡者って似ていない?責任感の強さとか」
「私に同意を求めるな」
「あら、なんで?」
「それを認めると、エレンの支援追跡者であったエルネストを褒めることになる」
「――」
その返答は予想外で、イーレは軽く口をあけて、アードゥルを見つめた。
「ちょっと待って。貴方、私の原体の夫よね?」
「そうだ」
「なんで、妻である原体の支援追跡者と不仲なのよ?」
「性格が悪いからだ」
「貴方の?エルネストの?」
「私も褒められた性格ではないが、エルネストよりはマシだと自負している」




