表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
823/1015

(14)地下探索⑭

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマーク、誤字脱字指摘ありがとうございました!

『ジェニ』


「たかが地上の一人の女性のために、中央(セントラル)を捨て、人生を棒にふったと?」

「同じことをアードゥルとエルネストはしているし、カイル・リードだってそうでしょう?親子そろって、笑っちゃうくらいの純愛(じゅんあい)でしょう?」

「アードゥルやカイル達はともかく、これは純愛って言えますか?カイルの馬鹿は、確かに純愛に走っていますが、何か根本的にその類とは違うような気がする。だいたい、純愛と称するその女性との間の息子は、長年、中央(セントラル)で放置されていたのですよ?」


 ディム・トゥーラは賛同しなかった。


「これまた、手痛いところをつくわね。でも、カイルが幼い時に、中央(セントラル)に送還した理由は他者に影響を与える巨大な能力であることは、理解しているんでしょう?カイル・リードの支援追跡者(バックアップ)として。彼の制御訓練は絶対に必要だった」

「……ええ、そうですね。支援追跡者(バックアップ)としては納得しています」


 微妙な言い回しにジェニは気づいた。


「それ、支援追跡者(バックアップ)じゃなければ?」

「納得するわけないでしょう!元凶の父親(ロニオス)を簀巻きにして、野生のウールヴェの前に差し出して踏みつぶしてもらいたい気分です」


 二人の会話を黙って聞いていたロニオスの尻尾(しっぽ)の太さは最高を記録した。


『……本気だ……かなり本気の思念を感じる……』


「だから、言ったじゃないか。ディム・トゥーラが人格崩壊(じんかくほうかい)を起こすトリガーを君は間違いなく引いている。これぐらいですんでいるのなら、(おん)の字だ」


不可抗力(ふかこうりょく)とか、情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)の余地だってあるだろう?!』


「う~ん、上司として証言するが、その期待は薄いな」


 ディム・トゥーラは、会話を交わすウールヴェとエド・ロウを(にら)んだ。本当に食えない狸親父達だ。ディム・トゥーラの不機嫌さに拍車がかかった。

 

「まあ、いいです。信じがたい純愛が理由だと、仮定しましょう。残りの半分の理由を開示してください」


 要求に白い狼は、首をこてりと(かし)げた。これもまたとぼけていた。


『どうして知りたいのだね?』


「当たり前です。情報の不足は、判断を誤らせるからです」


『余計な情報も、判断に迷いを生じさせると私は考えるが』


「その判断を俺にやらせろ、と貴方の首を()めて脅迫(きょうはく)した方がいいですか?」


『ふむ』


 しばし、ウールヴェは考え込んでいた。


『条件があるが、いいぞ。情報を与えよう』


「その条件はなんです?」


『……その冷たい視線はなんだね?』


古狐(ふるぎつね)狸親父(たぬきおやじ)の貴方が出す条件が、素直な物とは思えないからです」

「ディム・トゥーラ。素晴らしい学習能力だ。ロニオスが素直になるわけないだろう」


狸親父(たぬきおやじ)代表格(だいひょうかく)は黙っていたまえ!』


 エド・ロウの茶々(ちゃちゃ)に、ロニオスは()えた。


「とりあえず、承諾する前に条件を聞きましょうか」


 ディム・トゥーラの言葉に、ロニオスは目の前の若者をつくづくと(なが)めた。


『君も賢くなったな……』


上司(じょうし)師匠(ししょう)複合効果(ふくごうこうか)でしょう」


『たいした条件じゃない。私の未発表の論文類を読んで、感想を聞かせてくれ』


 予想外の要求に、ディム・トゥーラはあっけにとられた。


「……査読(さどく)をしろと?」

 

『若い世代の考えと意見をぜひ聞いてみたんだよ』


 ディム・トゥーラは眉をひそめて、ロニオスを観察した。ウールヴェの尻尾は大きく振られ、期待に満ちていた。米の発酵酒を手にした時のロニオスの癖と完全に一致していた。

 

――俺が未発表の論文を読むことに、なんでそんな楽しそうな反応をするんだ?


「……条件はそれだけですか?」


 会話をきいていたジェニ・ロウが何か言いかけたが、夫に静止されているのが目の片隅に移った。


『それだけだとも。読み終えたら意見を聞かせてくれれば、残りの理由を語ろう』


「あとから条件を増やすことはないですよね?」


『世界の番人に誓ってもいい。私の未発表の論文を査読(さどく)すること、条件はそれだけだ』


「……まあ、それぐらいなら……」


 ここでディムがうっかり承諾してしまったのは、ロニオスの「未発表の論文」という魔法言葉(マジックワード)のなせる業だった。読んでみたいという純粋の興味が、判断を誤らせた。


『よし、交渉成立だ』


 ジェニ・ロウが天井を仰いでいるのが若干(じゃっかん)気にかかった。


「ジェニ?」

「そうね……。ロニオスに勝つには、ディム・トゥーラは圧倒的経験不足だわ」


 それは不吉な言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ