(14)地下探索⑭
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ブックマーク、誤字脱字指摘ありがとうございました!
『ジェニ』
「たかが地上の一人の女性のために、中央を捨て、人生を棒にふったと?」
「同じことをアードゥルとエルネストはしているし、カイル・リードだってそうでしょう?親子そろって、笑っちゃうくらいの純愛でしょう?」
「アードゥルやカイル達はともかく、これは純愛って言えますか?カイルの馬鹿は、確かに純愛に走っていますが、何か根本的にその類とは違うような気がする。だいたい、純愛と称するその女性との間の息子は、長年、中央で放置されていたのですよ?」
ディム・トゥーラは賛同しなかった。
「これまた、手痛いところをつくわね。でも、カイルが幼い時に、中央に送還した理由は他者に影響を与える巨大な能力であることは、理解しているんでしょう?カイル・リードの支援追跡者として。彼の制御訓練は絶対に必要だった」
「……ええ、そうですね。支援追跡者としては納得しています」
微妙な言い回しにジェニは気づいた。
「それ、支援追跡者じゃなければ?」
「納得するわけないでしょう!元凶の父親を簀巻きにして、野生のウールヴェの前に差し出して踏みつぶしてもらいたい気分です」
二人の会話を黙って聞いていたロニオスの尻尾の太さは最高を記録した。
『……本気だ……かなり本気の思念を感じる……』
「だから、言ったじゃないか。ディム・トゥーラが人格崩壊を起こすトリガーを君は間違いなく引いている。これぐらいですんでいるのなら、御の字だ」
『不可抗力とか、情状酌量の余地だってあるだろう?!』
「う~ん、上司として証言するが、その期待は薄いな」
ディム・トゥーラは、会話を交わすウールヴェとエド・ロウを睨んだ。本当に食えない狸親父達だ。ディム・トゥーラの不機嫌さに拍車がかかった。
「まあ、いいです。信じがたい純愛が理由だと、仮定しましょう。残りの半分の理由を開示してください」
要求に白い狼は、首をこてりと傾げた。これもまたとぼけていた。
『どうして知りたいのだね?』
「当たり前です。情報の不足は、判断を誤らせるからです」
『余計な情報も、判断に迷いを生じさせると私は考えるが』
「その判断を俺にやらせろ、と貴方の首を絞めて脅迫した方がいいですか?」
『ふむ』
しばし、ウールヴェは考え込んでいた。
『条件があるが、いいぞ。情報を与えよう』
「その条件はなんです?」
『……その冷たい視線はなんだね?』
「古狐で狸親父の貴方が出す条件が、素直な物とは思えないからです」
「ディム・トゥーラ。素晴らしい学習能力だ。ロニオスが素直になるわけないだろう」
『狸親父の代表格は黙っていたまえ!』
エド・ロウの茶々に、ロニオスは吠えた。
「とりあえず、承諾する前に条件を聞きましょうか」
ディム・トゥーラの言葉に、ロニオスは目の前の若者をつくづくと眺めた。
『君も賢くなったな……』
「上司と師匠の複合効果でしょう」
『たいした条件じゃない。私の未発表の論文類を読んで、感想を聞かせてくれ』
予想外の要求に、ディム・トゥーラはあっけにとられた。
「……査読をしろと?」
『若い世代の考えと意見をぜひ聞いてみたんだよ』
ディム・トゥーラは眉をひそめて、ロニオスを観察した。ウールヴェの尻尾は大きく振られ、期待に満ちていた。米の発酵酒を手にした時のロニオスの癖と完全に一致していた。
――俺が未発表の論文を読むことに、なんでそんな楽しそうな反応をするんだ?
「……条件はそれだけですか?」
会話をきいていたジェニ・ロウが何か言いかけたが、夫に静止されているのが目の片隅に移った。
『それだけだとも。読み終えたら意見を聞かせてくれれば、残りの理由を語ろう』
「あとから条件を増やすことはないですよね?」
『世界の番人に誓ってもいい。私の未発表の論文を査読すること、条件はそれだけだ』
「……まあ、それぐらいなら……」
ここでディムがうっかり承諾してしまったのは、ロニオスの「未発表の論文」という魔法言葉のなせる業だった。読んでみたいという純粋の興味が、判断を誤らせた。
『よし、交渉成立だ』
ジェニ・ロウが天井を仰いでいるのが若干気にかかった。
「ジェニ?」
「そうね……。ロニオスに勝つには、ディム・トゥーラは圧倒的経験不足だわ」
それは不吉な言葉だった。




