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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第21章 大災厄③
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(7)地下探索⑦

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマーク、評価ありがとうございました!(拝礼)

 地上に人が生きづいていることを知っていながら、カイルが死ねば見捨てようとしている自分に、犯人を非難する権利はあるだろうか。何ら変わりはないのだ。


 一方、セオディア・メレ・エトゥールや妹姫、リルとの出会いと交流は、ディム・トゥーラの根本的な思考に影響を与えていた。地上を放置し、大災厄という事態(じたい)を無視しようとする罪悪感は、耐え難いものになりつつあった。これはカイルと同じ道を歩みつつある、とディム・トゥーラは自覚していた。


 だが、それは支援追跡者(バックアップ)として失格とも言えた。


 支援追跡者(バックアップ)は、対象者の行動を監視制御することを任務としている。言わば境界線に立ち、観察者の立場を維持しなければならない。対象者の感情に引きずられることは、許されないのだ。


――ダメだ。思考がカイルに毒されている


 ディム・トゥーラは頭をふって、非生産的な思考を追い払った。


『滅多にない天体ショーなのは確かだ』


 エド・ロウの指摘(してき)をロニオスは認めた。


『分裂したとはいえ、高速で飛来(ひらい)する恒星間天体が惑星を直撃をする。研究論文によると、爬虫類形態の超大型脊椎動物(せきついどうぶつ)の大量絶滅を引き起こした例もある。それが目の前で、リアルタイムに観測できるとなれば、舌なめずりをする研究馬鹿は出てくるだろう』


「それで妨害に走って、地上にいるイーレ達が死ぬというの?冗談じゃないわ」


 本当に冗談ではない。ディム・トゥーラもジェニの意見に(うなず)いた。


「だからと言って、旧ステーションの遺棄(いき)ポイントを書き換えたとは、マニアックすぎる。遺棄(いき)ポイントと恒星間天体の進路が交差(クロス)していることによく気づいたもだ」


『ジェニ、集めた協力者の中に、恒星間天体の衝突を知っている初期メンバーは何人いる?』


「40名ほど。でも口止めはしてあるわ」

「その口止めは、保証できるのですか?」

中央(セントラル)の管理官を敵に回す研究員がいると思う?」

「立派なアカデミックハラスメントですね」

「否定しないわ。そのための権力よ」


『そのうち観測ステーション(ここ)で活動しているものは』


「30名ほど」


『私が直接面通(めんとお)しできれば、いいんだが』


「やめてよ。貴方が犬の姿で生存しているって判明したら、即捕獲(ほかく)されて中央(セントラル)送りで、計画自体が頓挫(とんざ)するわ」


『犬じゃない』


 そこにこだわるとは、ウールヴェそのものだった。


「直接面通(めんとお)ししなくても、メンバーリストから何か気づくことがでるかもしれないですよね?とりあえずそこから始めてみれば?」


『建設的な提案だ。私の端末に転送してくれ』


「あと別の方法から、犯人を洗い出すことはできるかもしれません」


 ディム・トゥーラのつぶやきに全員が振り返った。


「犯人は、恒星間天体の軌道情報にアクセスしているはずです。恒星間天体の追跡チームを含めても、観測ステーションの中で数名に(しぼ)られるでしょう」

「……そうね……」


 ジェニ・ロウはディム・トゥーラの意見に同意した。


「多少、時間がかかるけど、できないことはないわ。ログは残っているはずだもの」

「ログが残ってなければ、それはそれでやっかいだなぁ……」

「どうして?」

「己の行動を隠蔽(いんぺい)する確信犯だからだよ。我々の意図を見抜いた上で妨害していることになる」

「――すぐに確認するわ」

「純粋な研究意欲が生み出したものではないと?」


 ディム・トゥーラもやや困惑としながら、上司に確認をした。


「純粋な研究意欲が理由なら、まずは上層部にお(うかが)いをたてないかね?それを全て、すっとばして行動している」


 もっともな指摘だった。ディム・トゥーラの感心ぶりにロニオスの方が笑いを漏らした。


『こうみえても、エド・アシュルは今のプロジェクトの責任者だからな』


「こうみえても、は余計な表現だし、プロジェクトの起案者は君じゃないか」


『私はすでに死亡者扱いされているから、責任者ではない』


屁理屈(へりくつ)をこねないでくれ」


『陰で牛耳(ぎゅうじ)るのか、一番だ』


 どこかで聞いたセリフだった。


「ロニオス、まさか、貴方はエレン・アストライアーにそれを伝授していませんよね?」


『何を?』


「陰で牛耳(ぎゅうじ)るのが、一番だって」


『……記憶はないな』


「ごめんなさい。イーレに伝授したのは私よ」


 片手を挙手して、中央(セントラル)の管理官が懺悔(ざんげ)した。


「……意外なところに伏兵(ふくへい)(ひそ)んでいた……」

「でもお察しの通り、真の伝道者はロニオスだから」

「そんな気はしました」


『なんの話をしている?』


「いえ、研究都市で暗躍(あんやく)しているイーレの技術取得根源(ルーツ)の話ですからお気になさらず」


 ロニオスは旧友を振り返った。


『それで、君の結論は?』


「事情を知っている初期メンバーで、我々の意図(いと)が恒星間天体の落下阻止を知っているにも関わらず、落としたがっていることになる」

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