(7)地下探索⑦
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
ブックマーク、評価ありがとうございました!(拝礼)
地上に人が生きづいていることを知っていながら、カイルが死ねば見捨てようとしている自分に、犯人を非難する権利はあるだろうか。何ら変わりはないのだ。
一方、セオディア・メレ・エトゥールや妹姫、リルとの出会いと交流は、ディム・トゥーラの根本的な思考に影響を与えていた。地上を放置し、大災厄という事態を無視しようとする罪悪感は、耐え難いものになりつつあった。これはカイルと同じ道を歩みつつある、とディム・トゥーラは自覚していた。
だが、それは支援追跡者として失格とも言えた。
支援追跡者は、対象者の行動を監視制御することを任務としている。言わば境界線に立ち、観察者の立場を維持しなければならない。対象者の感情に引きずられることは、許されないのだ。
――ダメだ。思考がカイルに毒されている
ディム・トゥーラは頭をふって、非生産的な思考を追い払った。
『滅多にない天体ショーなのは確かだ』
エド・ロウの指摘をロニオスは認めた。
『分裂したとはいえ、高速で飛来する恒星間天体が惑星を直撃をする。研究論文によると、爬虫類形態の超大型脊椎動物の大量絶滅を引き起こした例もある。それが目の前で、リアルタイムに観測できるとなれば、舌なめずりをする研究馬鹿は出てくるだろう』
「それで妨害に走って、地上にいるイーレ達が死ぬというの?冗談じゃないわ」
本当に冗談ではない。ディム・トゥーラもジェニの意見に頷いた。
「だからと言って、旧ステーションの遺棄ポイントを書き換えたとは、マニアックすぎる。遺棄ポイントと恒星間天体の進路が交差していることによく気づいたもだ」
『ジェニ、集めた協力者の中に、恒星間天体の衝突を知っている初期メンバーは何人いる?』
「40名ほど。でも口止めはしてあるわ」
「その口止めは、保証できるのですか?」
「中央の管理官を敵に回す研究員がいると思う?」
「立派なアカデミックハラスメントですね」
「否定しないわ。そのための権力よ」
『そのうち観測ステーションで活動しているものは』
「30名ほど」
『私が直接面通しできれば、いいんだが』
「やめてよ。貴方が犬の姿で生存しているって判明したら、即捕獲されて中央送りで、計画自体が頓挫するわ」
『犬じゃない』
そこにこだわるとは、ウールヴェそのものだった。
「直接面通ししなくても、メンバーリストから何か気づくことがでるかもしれないですよね?とりあえずそこから始めてみれば?」
『建設的な提案だ。私の端末に転送してくれ』
「あと別の方法から、犯人を洗い出すことはできるかもしれません」
ディム・トゥーラのつぶやきに全員が振り返った。
「犯人は、恒星間天体の軌道情報にアクセスしているはずです。恒星間天体の追跡チームを含めても、観測ステーションの中で数名に絞られるでしょう」
「……そうね……」
ジェニ・ロウはディム・トゥーラの意見に同意した。
「多少、時間がかかるけど、できないことはないわ。ログは残っているはずだもの」
「ログが残ってなければ、それはそれでやっかいだなぁ……」
「どうして?」
「己の行動を隠蔽する確信犯だからだよ。我々の意図を見抜いた上で妨害していることになる」
「――すぐに確認するわ」
「純粋な研究意欲が生み出したものではないと?」
ディム・トゥーラもやや困惑としながら、上司に確認をした。
「純粋な研究意欲が理由なら、まずは上層部にお伺いをたてないかね?それを全て、すっとばして行動している」
もっともな指摘だった。ディム・トゥーラの感心ぶりにロニオスの方が笑いを漏らした。
『こうみえても、エド・アシュルは今のプロジェクトの責任者だからな』
「こうみえても、は余計な表現だし、プロジェクトの起案者は君じゃないか」
『私はすでに死亡者扱いされているから、責任者ではない』
「屁理屈をこねないでくれ」
『陰で牛耳るのか、一番だ』
どこかで聞いたセリフだった。
「ロニオス、まさか、貴方はエレン・アストライアーにそれを伝授していませんよね?」
『何を?』
「陰で牛耳るのが、一番だって」
『……記憶はないな』
「ごめんなさい。イーレに伝授したのは私よ」
片手を挙手して、中央の管理官が懺悔した。
「……意外なところに伏兵が潜んでいた……」
「でもお察しの通り、真の伝道者はロニオスだから」
「そんな気はしました」
『なんの話をしている?』
「いえ、研究都市で暗躍しているイーレの技術取得根源の話ですからお気になさらず」
ロニオスは旧友を振り返った。
『それで、君の結論は?』
「事情を知っている初期メンバーで、我々の意図が恒星間天体の落下阻止を知っているにも関わらず、落としたがっていることになる」




