(5)地下探索⑤
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アードゥルの予告通り、カイル達はまもなく岩壁にあたった。まるで、ここで下る階段の構築を諦めたような態だった。
カイルは終点の岩壁に手でふれた。見た目は岩壁に似ているが触感は微妙に違った。
「擬岩?」
「よくわかったな」
「つまり、探検に来た地上人対策用の偽装工作なの?これ、どうしたらいいの?」
アードゥルは何事か考え込んでいた。
が、唐突にカイルの右手首をつかむと強引に右側の壁にその手のひらを押し付けた。
「ちょ、ちょっと?」
アードゥルの奇行にカイルは焦ったが、耳は小さな電子音の反応を聞き逃さなかった。
行き止まりの岩壁は、唐突に左右に分かれた。中に見えるのは人工的な通路だった。
「……やっぱり開いたか」
「え?なんで、開くの?アドリーの拠点で登録したから?」
アードゥルはカイルの言葉を無視するかのように、扉の境界をまたいだ。それから慣れた手つきで、内部の壁際に設置された端末を起動し操作を始めた。
アードゥルはイーレの方を振り返った。
「念のために確認だ。ここに手のひらを当ててくれ」
「わかったわ」
イーレが端末に手をかざすと、先ほどと同じように小さな電子音が鳴った。
その結果に、アードゥルの方が、長い吐息をついた。
「遺伝子認証が成立した。本当にエレンの人形か……」
「ちゃんと自己申告しているでしょ?何をいまさら」
イーレは唇を尖らせた。アードゥルはイーレをしげしげと見つめ、それから再びため息をついた。
「認めがたい事実に、客観的証拠が欲しかっただけだ」
「文句は中央に言ってちょうだい」
「そうだな。エド・アシュルあたりを地上に引きずり下ろしたい気分だ」
「あら、いいわね、ソレ。協力は惜しまないわよ」
妙なところで意気投合している二人だった。
『ディム、入口にたどりついた。開いたよ』
『了解だ』
ディム・トゥーラの返答は、そっけなく短かった。
『このまま、中にはいるけど、いいかな』
『かまわないが、再起動の前に絶対に連絡をよこせ。こちらにもいろいろ都合がある』
『都合?』
『こちらの問題だ』
『どんな問題?』
『気にしなくていい。そっちに集中しろ』
『めちゃくちゃ気になるんですけど?!』
ディムとの念話は唐突に終了した。
カイルはムッとした。支援追跡者らしからぬ放置ぶりだった。
「どうした?」
「観測ステーションの都合があるから、再起動前に連絡をよこせ、って」
「……ロニオスが何か企んでいるのか……?」
「不穏なこと言わないで?!」
アードゥルのつぶやきにカイルは焦った。
アードゥルは端末をカイルに向かって放った。
「そっちの地上人も登録しろ」
「ああ、うん」
カイルは端末の指示通りに、ハーレイとミナリオの生体登録をした。小さな針で、血液を一滴だけ採取し、端末の表示画面におとしていく。
「これはどういう仕組みなんだ?」
落とした血が端末の透明部に吸い込まれていくのを見て、ハーレイが不思議そうに言った。
「血液でハーレイの情報を登録したんだ。ここに入れる許可をしたし、ハーレイが迷子になっても発見できるよ」
「…………精霊の世界はすごいな」
「僕達は精霊じゃない」
「似たようなものではないか」
「信仰されても困る」
ハーレイは笑いをもらした。
「その気になれば、西の地を支配できるのに、相変わらず無欲だな」
「西の地は西の民のものだ」
カイルはアードゥルの方を振り返った。
「これ、登録しないとどうなるの?」
「さあ、侵入防止システムが作動して、レーザーに焼かれるか切り刻まれるか試してみたらどうだ?」
「……冗談だよね?」
「冗談だ」
カイルは脱力した。アードゥルの性格がつかみどころがない。
「まだまだ歩くぞ」
「え?」
「再起動するまで、拠点内の移動装置は使えない。水平移動も垂直移動もな」
カイルは慌てて端末を見た。拠点の基本地図を呼び出してみた。エトゥールの王都の広さを持つ拠点は、複雑な階層構造をなしていた。
「………………すごく不吉な予感がするんだけど?」
「管理室はてっぺんで、機関室は最下層。いくつかのエリアに分かれている。マニュアルを読まないとなんとも言えないが、移動装置が稼働するまで、何往復すればいいのか私も検討がつかない」
「――」
メンバーの中で一番体力がないカイルはその言葉に怯み、思わず体内チップの残量を確認した。




