(73)閑話:ウールヴェを育てよう④
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当初の予定とは多少違っていたが、カスト出身の3人は無事ウールヴェの幼体を手に入れた。予定外のディヴィはずっと青ざめて、震える手でウールヴェの幼体を支え持っていた。
「おかしな奴だ。悪魔の使いと称されているが、獣の子供だぞ?お前の方がはるかに強いではないか?」
「長年染みついた信仰が俺を責め立てるんです」
上司の指摘に、部下はげんなりと答えた。さすがの憔悴ぶりに、将軍は教師役のエトゥールの導師を振り返った。
「やはり、ディヴィには無理ではないか?」
「いや」
否定したのはディヴィ自身だった。
「危険な物か見極めるには、直接経験する必要があります」
彼は、ウールヴェの取得を喜んでいる娘をちらりと見てから、自分のウールヴェを見下ろした。
「……大丈夫だ……こいつは俺より弱い……呪われない……堕落もしない……大丈夫だ……」とディヴィが繰り返し口の中でつぶやいている言葉を、カイルは聞かなかったことにした。娘に対する深い愛情と、上司の盾を自認する責任感からのディヴィの選択は尊重するべきものだった。
「食べ物を際限なく欲しがる傾向があるので、与える際は気をつけてください。餌は少な目がいいです。この警告を無視していると、恐ろしいほどの大食漢になります。結果が僕のウールヴェです」
――かいる ひどいよ?
「事実だろう」
カイルはウールヴェのトゥーラの抗議を一蹴した。
「名前はつけていいんですか?」
わくわくしながらダナティエが尋ねてきた。
その質問に、カイルと虎は視線を交わした。迷ったが正直に教えることにした。
「つけるとウールヴェを死んだ時に衝撃が大きくなります」
「――」
「ウールヴェを使役して、危険な任務に就かせるならやめておいた方がいいでしょう」
「しばらく様子を見ることにしよう、いいな。ダナティエ」
将軍の命令にディヴィはほっとした様子をみせ、ダナティエはがっかりとした。
ガルースはちゃんと副官の苦悩の軽減に配慮していた。貴族の将官としては珍しい、身分差を無視しての気遣いに、カイルは感心した。
「……で、どうやったら馬に成長できるのかね?」
「馬に成長できるかは保証できません。いつ成長するかも僕達にはわかりません」
「そうか」
意外にも将軍は失望しなかった。
「まあ、確かに今日、明日馬になっても困るな。準備の時間が必要だ」
「準備?」
将軍の言葉にカイルは逆にたずねた。準備とはなんだろう?
ガルースは狼と虎のウールヴェを交互に指さした。
「狼や虎なら、周囲の理解さえあれば、室内にいてもいいかもしれないが、大型の馬が室内にいるのは不自然じゃないかね。馬小屋を用意する必要がある。カストの民の目がつかないように、アドリーの屋敷敷地内に個別の馬小屋が一つ欲しいのだが……。他の馬への悪影響が未知数なら、アドリーの馬小屋とは別に用意した方がいいと思うのだが、どうだろう」
「――」
カイルはあっけにとられた。自称馬きちがいと言うだけあって、この状況で的確に――それが馬中心目線であっても――判断し指摘するガルース将軍の才は驚くべきものだった。
「他の馬への悪影響ですか……」
『確かに馬は敏感で賢い生き物だから、それぐらいの配慮はあってもいいな。馬小屋を作って、将軍のウールヴェが馬にならなかった時は、他の馬用に使えばいいだろう』
「大丈夫だ。ちゃんと馬に育つ」
奇妙なガルース将軍の自信にカイルは首を傾げた。
「その自信の根拠を聞いても?」
「今まできいた話を総合するとそう結論づけられる。この生物は、主人の望みをかなえようとする傾向がある。おそらく賢者達は具体的なウールヴェの将来像を持たないで育てていて、それぞれの形態をしているのではないかね?」
『斬新な新説がきたぞ』
虎は身を乗り出して、ガルースの言葉に聞き入った。
『確かに俺とカイルのウールヴェは寝ている間に成長して、その容姿がどうなるか、など気にしたことなどなかった』
「サイラスの場合は、主人の危機に反応して、急成長した。子竜の姿になったのは、攻撃に特化した形態をとったのかもしれないなぁ」
『この先、将軍のウールヴェが、将軍の望むまま馬に成長するかどうかは、その説の検証材料になる』
研究馬鹿に将軍が加わる予兆あり(ただし馬限定)
続きます。




