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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
802/1015

(73)閑話:ウールヴェを育てよう④

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


評価ありがとうございました!

 当初の予定とは多少違っていたが、カスト出身の3人は無事ウールヴェの幼体を手に入れた。予定外のディヴィはずっと青ざめて、震える手でウールヴェの幼体を支え持っていた。


「おかしな奴だ。悪魔の使いと称されているが、(けもの)の子供だぞ?お前の方がはるかに強いではないか?」

「長年()みついた信仰(しんこう)が俺を責め立てるんです」


 上司の指摘に、部下はげんなりと答えた。さすがの憔悴(しょうすい)ぶりに、将軍は教師役のエトゥールの導師を振り返った。


「やはり、ディヴィには無理ではないか?」

「いや」


 否定したのはディヴィ自身だった。


「危険な物か見極めるには、直接経験する必要があります」


 彼は、ウールヴェの取得を喜んでいる娘をちらりと見てから、自分のウールヴェを見下ろした。

「……大丈夫だ……こいつは俺より弱い……(のろ)われない……堕落(だらく)もしない……大丈夫だ……」とディヴィが繰り返し口の中でつぶやいている言葉を、カイルは聞かなかったことにした。娘に対する深い愛情と、上司の盾を自認する責任感からのディヴィの選択は尊重(そんちょう)するべきものだった。


「食べ物を際限なく欲しがる傾向があるので、与える際は気をつけてください。餌は少な目がいいです。この警告を無視していると、恐ろしいほどの大食漢になります。結果が僕のウールヴェ(コレ)です」


――かいる ひどいよ?


「事実だろう」


 カイルはウールヴェのトゥーラの抗議を一蹴(いっしゅう)した。


「名前はつけていいんですか?」


 わくわくしながらダナティエが尋ねてきた。

 その質問に、カイルと(ディム)は視線を交わした。迷ったが正直に教えることにした。


「つけるとウールヴェを死んだ時に衝撃が大きくなります」

「――」

「ウールヴェを使役して、危険な任務に就かせるならやめておいた方がいいでしょう」

「しばらく様子を見ることにしよう、いいな。ダナティエ」


 将軍の命令にディヴィはほっとした様子をみせ、ダナティエはがっかりとした。

 ガルースはちゃんと副官の苦悩の軽減(けいげん)に配慮していた。貴族の将官としては珍しい、身分差を無視しての気遣いに、カイルは感心した。


「……で、どうやったら馬に成長できるのかね?」

「馬に成長できるかは保証できません。いつ成長するかも僕達にはわかりません」

「そうか」


 意外にも将軍は失望しなかった。


「まあ、確かに今日、明日馬になっても困るな。準備の時間が必要だ」

「準備?」


 将軍の言葉にカイルは逆にたずねた。準備とはなんだろう?

 ガルースは狼と虎のウールヴェを交互に指さした。


「狼や虎なら、周囲の理解さえあれば、室内にいてもいいかもしれないが、大型の馬が室内にいるのは不自然じゃないかね。馬小屋を用意する必要がある。カストの民の目がつかないように、アドリーの屋敷敷地内に個別の馬小屋が一つ欲しいのだが……。他の馬への悪影響が未知数なら、アドリーの馬小屋とは別に用意した方がいいと思うのだが、どうだろう」

「――」


 カイルはあっけにとられた。自称馬きちがいと言うだけあって、この状況で的確に――それが馬中心目線であっても――判断し指摘するガルース将軍の才は驚くべきものだった。


「他の馬への悪影響ですか……」


『確かに馬は敏感で賢い生き物だから、それぐらいの配慮はあってもいいな。馬小屋を作って、将軍のウールヴェが馬にならなかった時は、他の馬用に使えばいいだろう』


「大丈夫だ。ちゃんと馬に育つ」


 奇妙なガルース将軍の自信にカイルは首を傾げた。


「その自信の根拠を聞いても?」

「今まできいた話を総合するとそう結論づけられる。この生物は、主人の望みをかなえようとする傾向がある。おそらく賢者達は具体的なウールヴェの将来像を持たないで育てていて、それぞれの形態(けいたい)をしているのではないかね?」


斬新(ざんしん)な新説がきたぞ』


 虎は身を乗り出して、ガルースの言葉に聞き入った。 


『確かに俺とカイルのウールヴェは寝ている間に成長して、その容姿(ようし)がどうなるか、など気にしたことなどなかった』


「サイラスの場合は、主人の危機に反応して、急成長した。子竜(こりゅう)の姿になったのは、攻撃に特化した形態をとったのかもしれないなぁ」


『この先、将軍のウールヴェが、将軍の望むまま馬に成長するかどうかは、その説の検証材料(けんしょうざいりょう)になる』

研究馬鹿に将軍が加わる予兆あり(ただし馬限定)

続きます。

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