(67)閑話:賢者の知恵③
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
※賢者の知恵①と②も加筆修正をちょっとだけしました。
ブックマーク、評価ありがとうございました!
「これは今回に限らないわ。理想の夫婦とはお互いのない物を補い、助け合うものだけど、相手に依存したり、尽くすばかりではお互いの成長はないのよ。時には離れ、突き放す厳しさも必要。相手の学ぶための機会を奪ってはいけないでしょう?」
「学ぶための機会……」
「カイルなど、放置していたら、どんどん過保護になるわ。そのうち城に閉じ込められちゃうから。はっきりと自己主張して、ガラスケースに入れられているお人形じゃなく、生きた人間であることをアピールしないとね」
「イーレ様」
勇気ある専属護衛のアッシュは、片手をあげて質問した。
「イーレ様、失礼ですが、長い年月の中、どのようにしてその結論に達したか、お聞きしても?」
「長い年月は余計よ」
「事実でしょう?」
「はっきり言うわね」
「貴女様のお弟子から、はっきりと言った方がいいとアドバイスをいただいています」
「……サイラス、シメる……」
ぼそりと賢者がつぶやいた言葉を、皆は聞かなかったことにした。
「それはね、みんな、恋愛相談を私にもってくるからよ」
子供は、ふんぞり返った。
「は?」
「私がどれだけ、同僚達の愚痴や悩みや相談を聞いたと思っているの?特に親友の相談は多かったわ。もっとも彼女の最大の失敗は、将来的な狸親父と結婚したことだけどね」
「狸親父……」
賢者が酷評する『狸親父』とは、どういった人物なのだろうか――全員がそう思った。
「まあいろいろなケースを目の当たりにして、統計的に結論に達する十分なサンプルは取れたのよ。論文をかなり書ける自信はあるわ」
「……いっそうのこと、侍女にも読める本を執筆していただこうかしら……」
マリカがつぶやいたのをアッシュは聞き逃さなかった。
「えっと……カイル様はちなみにどんなタイプでしょうか?」
ファーレンシアは興味津々でイーレに聞いた。
「独占欲が強く、過保護で、案外嫉妬するタイプ。この点は本人も認めているわ」
「まあ」
驚いたようにファーレンシアは、頬に手をあてた。
「カイル様が嫉妬するところを見てみたいものです」
知らぬは、本人ばかり――と、ファーレンシアを見つめ、イーレ達は思った。
「依存や隷属とか関係がバランスの悪い組み合わせは、全て破綻したわよ。これは人間関係全般に言えるわね。全てバランスよ。親子関係でも、友人関係でも、夫婦関係でも、言えることなのよ。対等であること、納得する対価があることこれが重要なのよ」
「夫婦の場合、納得する対価とは?」
「スキンシップよ。地上でいう閨の行為もここに含まれるわね」
明け透けな表現に、姫と侍女は真っ赤になった。
「あ、あの、イーレ様……」
「ファーレンシア様だって、カイルがキスの一つもできない朴念仁だったら嫌でしょう?」
「そ、それは、そうですが……」
「それでなくてもカイルはヘタレだし」
「…………」
「カイルに代わって、カストの民のために動くのだから、ご褒美を要求することを忘れちゃダメよ?」
「…………」
「『夫を甘やかすな』『厳しくしつけろ』『スキンシップの機会を逃すな』これが三大原則ね」
「…………」
「簡単に言うと――」
「簡単に言うと?」
「『夫は手のひらの上で転がせ』よ」
翌日、アドリーの侍女集団が護衛とともに、城壁そばの広場にいるカストの避難民の滞在地域にやってきた。カストの民は驚いた。敵対していたエトゥールから支援の手が差し伸べられると思っていなかったからだ。
彼女達は手際よく炊き出しの準備をし、配布を始めた。胃に優しいスープの暖かさに避難民達はほっとした。
言語の壁は厚かったが、青い髪の侍女と西の民の金髪の子供が、的確な通訳を行い、意志の疎通を図ることができた。西の民の若長まで一行に加わっていた。
エトゥール側の手伝いにでてきた者達も最初は遺恨にギクシャクしていたが、青い髪の侍女が汗にまみれながら積極的に動く姿に、こだわりを一時棚上げすることを決意したようだった。
協力者に西の民もくわわり、長期滞在用の天幕が整えられていった。
身分を隠して働くファーレンシアは、不在のシルビアに代わり、教えてもらった知識と施療院の経験を生かし、怪我人や病人の世話をした。それにマリカが付き従った。
最初は諦めと敵意に満ちていた避難民達の中に、やがて笑顔が生まれ始めた。中には、今の生活の方が、飢えずに安全なことに気づいた者達もいた。
一人の瘦せこけた老婆がファーレンシアの手を握った時は、護衛達に緊張が走った。
老婆は呪文のように言葉を繰り返して、ファーレンシアの手を握った。
その言葉はカスト語で「ありがとう」だった。老婆は涙を流し、何度も同じ言葉を繰り返す。
ファーレンシアも泣きたくなった。自分達の行動は無駄ではなかったのだ。
続きます。




