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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
788/1015

(59)閑話:手紙①

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


しばらく、恒例の閑話です。

【ネタ解説】

ガルース将軍の副官であるディヴィが、意外に不器用すぎて、妻マリエンの背嚢が飛んだ背景など。

お前、手紙で離縁を通達したんかい、背嚢レベルですんだことを感謝しやがれ、的な話(参照754話)

「嘘つき……」


 マリエンが夫からの手紙に(つぶや)いた。

 ひどい内容だ。

 ガルース将軍と共にエトゥールに特使として(おもむ)くこと、敵国であることと諸事情により、生還(せいかん)は難しいこと、都の住居を引き払い田舎に戻ること、離縁(りえん)をするので再婚をするようにと、淡々と事務的にかかれている。

 

 最後の手紙だったら、愛しているとか一言ぐらいあっても、いいではないかと思う。命令書の代筆と何か勘違いしていないだろうか?

 昔、最前線に向かう時のディヴィの手紙の方が、まだ情熱的だった。その手紙は未だにマリエンの宝物だ。


 マリエンもある程度は事情を(さっ)している。


 将軍がエトゥールの手にかかり、命を落とすぐらいなら、東国(イストレ)に亡命を(すす)める意図が見える。亡命兵士の残された家族が見せしめに処刑されるのは、カストでの日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だ。

 離縁(りえん)することが、ディヴィの家族愛なのだろう。

 わかっている。

 わかっているが――。


「腹が立つものは、腹が立つのよっ!!!」

「お母さんってば、また手紙を見てるの?」


 発狂(はっきょう)したように怒り叫ぶマリエンに、部屋に入ってきたダナティエが呆れたように評する。


「ダナティエ……」

「お父さんも不器用よねぇ。愛しているの一言を加筆すれば、よかったのに」


 もうすぐ15歳で成人する予定の娘に図星をさされて、マリエンは食卓に腕枕(うでまくら)状態で突っ伏した。そのまま、愚痴(ぐち)を呟く。


「どうして、あんな人と結婚しちゃったのかしら……」


 母の暴言を娘は手をひらひらと振って、聞き流す。


「お母さん、夫婦喧嘩(げんか)の度に、それ言ってる」

「言いたくもなるわよっ!!あんたは、絶対に兵士と結婚しちゃダメよ!!」

「その発言、娘の婚活機会を半分つぶしているって、気づいている?」

「兵士と結婚すれば待ってる未来は寡婦(かふ)か、再婚よ?」

「そういうお母さんは、再婚する気なんてこれっぽっちもないくせに」

「………………」


 ダナティエは持ってきた大袋を、その真横にドカっと置いた。

 中身を次々と取り出す。


「この林檎はお婆ちゃんからね、野菜は伯父さん、卵は隣のおばさんから、あ、肉は店のおじさんから」


 離縁状(りえんじょう)意気消沈(いきしょうちん)して無気力なマリエンに代わり、ダナティエは故郷の村に着いてから、積極的に動いている。たくましい、とさえ言えた。

 今も戦利品のように、差し入れの品々をマリエンの目の前に積み上げていく。


「あんたは、元気ね……」

「だって、(こっち)の方が楽しいもの。お父さん、村では有名人なのね。面白い話をいっぱい聞いちゃった」

「昔は悪ガキでヤンチャだったからでしょ」


 悪戯をして、村長に怒られていた悪ガキ集団の筆頭だったのだ。故郷にはディヴィもマリエンも娘に隠したい黒歴史は山ほどある。あとで、従姉妹(いとこ)達に口止めをしよう、とマリエンは密かに思った。


「違うわよ。英雄だからだって」

「英雄?」

「平民でガルース将軍の副官まで登りつめたんだもの。村を代表する出世頭(しゅっせがしら)だって」

「……」


 そんな風に言われているとは、意外なことだった。


「お母さん、知ってた?お父さんね、褒賞(ほうしょう)としてね、将軍に村の援助を願い出たんですって」

「え?」

「備蓄としての小麦と種籾(たねもみ)――だから、この村は、大凶作でも耐えられているって」

「……そんな話、知らないわ」

「兵職を引退したら妻子を連れて、故郷の村で静かに暮らしたいって、将軍に言ったらしいよ。で、せっせと村に貢献(こうけん)していたらしいの」

「…………」

「村長に援助の条件を出していたらしくてね?自分が戦死した時は、妻と娘の面倒をみること、だってさ。だからしつこく故郷の村に帰れって言ってたんだね。お父さんの口癖だったもの。お父さんが戻らなかったときは、お母さんを連れて故郷に行けって」

「……そんなこと言ってたの?」

「うん」


 ダナティエは少し泣き笑いの表情を浮かべた。


「お父さん、不器用だね……。でも、あたし、お父さん大好き」

「ダナティエ……」

「大丈夫、お父さんなら大丈夫」

「でも野蛮なエトゥールに行ったのよ?」

「お父さんなら、将軍と一緒にエトゥール王を倒してきそう。それでまた英雄になるの」

「……」

「お父さん、将軍に対する処遇に怒り狂っていたじゃない。最近、酒量も増えていたし」

「……そうね」


 マリエンもその点は気づいていた。


続きます

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