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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
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(52)変革㉗

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマークありがとうございます。

 イーレは肩をすくめて見せた。それから、よい具合に焼けたウールヴェの串焼きをクトリに差し出す。竹串を受け取り、クトリは一口味見をした。


「美味いっ!」

「でしょ?これのために滞在する価値は確実にあるわよ。その串焼き、香辛料(こうしんりょう)をちょっと工夫してみたの。保存食にも向いているわ」


 イーレは笑った。彼女のウールヴェ肉好きは相変わらずだった。


「なんか、変な気分です。僕が、西の地でイーレと一緒に肉の串焼きを食べているなんて」

「私もクトリが西の地に滞在するなんて、予想もしなかったわ」

「……イーレは本当に帰らないんですか?」

「帰らないわ」

「この後、地上は危険ですよ?」

「そうね」

「僕にはそういうところが理解できません」

「そうかもね」


 イーレは同意した。


「私は原体(オリジナル)が大嫌いだけど、この地を救おうとして、奔走(ほんそう)したことは、尊敬しているのよ。だから、その部分だけ汲み取ってあげようかと思ってね」

「……そういうものですか?」

「私が行動することで、助かる命が一つ増える――行動のきっかけなんてそんなものよ。問題は後悔のない選択ができるか、じゃないかしら?」

「名言だな」


 ナーヤが茶を飲みながら、()めた。


「なぜ占者(せんじゃ)のような職がもてはやされると思う?皆、人生の選択の岐路(きろ)に悩むからだ。自分で迷わぬ選択ができるなら、誰も占者(せんじゃ)など頼らない。だが、難しいことではない。お前だって過去にやっているだろう?」

「僕が?」


 言われたクトリは、きょとんとした。


「天上の賢者に頼まれて、地上に降りただろう。お前が恐怖にかられたり、無関心で降りない選択をしていれば、地上は違う運命を辿(たど)っていた」

「そんなことは――」

「ある。だからお前には自信をもって、己を(ほこ)れと言っている。お前は間違いなく賢者だ」

「……お婆様、照れます」

「おおいに照れろ」


 クトリは顔を赤くし、照れた。誰かに認めてもらえるのは、不思議と心が満たされることだった。イーレの視線に気づいたクトリは慌てて言い訳めいた言葉を告げた。


「研究都市で論文が()められるより、(うれ)しくなるってどういうことでしょうね?」

(うれ)しいの?」

「……まあ……それなりに……」

「貴方もやっぱり相当の研究馬鹿よね。仕事の成果より、個人の資質が()められた方が嬉しいのは当然のことじゃない?」

「だいたい研究都市は、個人を()めるなんて機会はありますか?」

「そういえば、そうね」

「お前さん達の世界は、人間の(えにし)が希薄だなぁ」


 二人の会話を聞いていたナーヤは呆れたように、感想を述べた。


「個人の自由を尊重する風潮だからかしらね?」

「いくら不老長寿でも味気(あじけ)()さすぎる。生きていて何が楽しいやら……」

「……楽しい……」

「それなりに生活は平和で安全で物質は満たされているけど、精神的充足(じゅうそく)はやや単調だったかもしれないわ」

「まあ、確かに単調でしたね。毎日、毎日、研究に明け暮れていましたから」


 クトリはウールヴェの串焼きを堪能(たんのう)しながら、同意した。


「今はどうじゃ?」

「日々、何かが起こり落ち着きません」

「新しい発見があるじゃろう」

「発見だらけですよ。この間も何の前兆もなく嵐が起こるし……もう少し大規模な観測機械があれば、と思いますよ」

「あるとどうなるの?」


 イーレが首をかしげた。


「そりゃあ、惑星全体を観測することができて――」


 クトリは口を閉ざした。


「クトリ?」

「……イーレ、カイルを呼び出すことはできますか?」

「カイルを?」

「あ、いや、たいしたことではないですし……僕の気のせいかもしれないし……」

「お前のウールヴェを呼び出せばいい」


 ナーヤが事もなげに言った。

 

「僕の?」

「まあ、呼んでみろ」


 クトリはカイルのように自由自在にウールヴェを操ることができなかったので、ナーヤの助言に困惑した。


「だいたい僕のウールヴェじゃなくて、サイラスのものです」

「お前さんは、人のウールヴェを嵐の中に突っ込ませたのかね?」

「なぜ、そのことを?!」

「ウールヴェ界では、お嬢についで、容赦(ようしゃ)ない使役主(しえきぬし)になっておる」

「なんで私よ?!」


 今度はイーレが抗議した。

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