(51)変革㉖
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アドリーにいるファーレンシアの護衛としてウールヴェのトゥーラを残してきてしまい、カイルとクトリがエトゥールに戻るには移動装置のある精霊の泉を経由する必要があった。
ナーヤは、本気でクトリの教育をするつもりなのか、宣言通り若長ハーレイに言いつけて、若者を一人、西の地の護衛としてつけた。左足を引きずっている西の民の青年は、ラオと言った。
「彼は足を痛めて、森での狩猟ができない。護衛の任にちょうどいい。口数も少ないし、秘密は守る。粗野でもない。賢者の護衛向きだ。」
ハーレイの言葉に、ラオは二人に向かって、黙って頭を下げた。
青年は嫌な顔もせずに、賢者二人を精霊の泉まで護衛をした。
翌日から、精霊の泉までクトリを迎えにくるのが彼の日課に加わった。クトリが先触れを出したわけでもないのに、クトリが移動装置を使うと、彼は必ず馬を引き連れて泉で待っていた。
クトリは、至れり尽くせりの待遇に戸惑いながらナーヤの家で過ごした。
「僕は何をすれば、いいんですか?」
「この家で好きなように過ごせばいい。たまに、来客がくるが気にするな。そいつらを観察してみろ」
ナーヤは、『たまに』と言ったが、大嘘だった。占者ナーヤの元には、引っ切りなしに訪問者がきた。
クトリが不意の来客に緊張しないでいられたのは、訪問者がくる15分前になると、老婆は唐突に囲炉裏で湯をわかしはじめ、クコの実を取り出し、茶器に落とす。それが来客がくる合図だった。
湯を注いで、いい感じに赤い色がでたクコ茶を、訪問者とクトリとナーヤを加えた人数分いれ終えた頃に、必ず来客があった。その先見の正確さに感心してしまったクトリは記録をとりだした。
来客に関する老女の先見は百発百中だった。
「ナーヤの来客に関する先見ははずれたことはないわね」
ナーヤの家に遊びにきたイーレもそう証言した。彼女は自分のために用意されたクコ茶をすすりながら、しみじみといった。
「ハーレイの氏族の一種の名物になっているわ」
言われた本人は、素知らぬ顔で同じく茶を飲んでいた。
「どうやって当てているのか、本当に不思議なのよ」
「たまにお茶以外も用意されているから、単なる人数当てではなさそうです」
クトリは記録を遡りながら、イーレに報告した。
「どんな風に?」
「今だったら、イーレが来るのを見越しているように、なぜか囲炉裏に焼き網がセッティングされています」
「…………かなわないわね」
イーレは手荷物から狩ったばかりのウールヴェの肉の包みを取り出した。
「それは?」
「ウールヴェの肉。美味しいわよ」
いつものことなのだろう。イーレは老婆に断ることもなく、焼き網の上に肉の刺さった竹串を並べはじめて、焼きだした。
「正直、クトリが西の地まで遊びにくるとは思わなかったわ」
「僕自身がそう思っていますよ」
「どういう風の吹き回し?」
「まあ、もうすぐ帰るし、地上を見てまわるのも悪くないかと……」
「お前は帰らんよ」
この話題になる度に、老婆は頑固に先見の言葉を繰り返した。
「ふふふ、ナーヤのお婆様、僕の願いごとを叶える準備をした方がいいですよ?」
クトリの軽口に、ナーヤはせせら笑った。
「あたしの願いごとの一つは、もう決まっている。覚悟しとけ」
「あの……貴方達、いったい何をやっているの?」
「「賭け」」
イーレは同席している若長の方を思わず、振り返った。
ハーレイは無言で首をふっている。
「……えっと、内容は?」
「お婆様は僕が観測ステーションに帰らない、と賭けているんです。報酬は願いごとを3つ叶えてもらえるそうです」
得意そうなクトリに対して、イーレは同情めいた視線を投げた。
「……私と同じ道を辿っているわね」
「同じ道?」
「いえ、何でもない。でも、クトリが遊びに来てくれて嬉しいわ。ちょっと寂しかったのよ。カイルとシルビアはあの通り、忙しいし、私もたまにアドリーの避難民居留地に行って、巡回するぐらいしか、仕事がないもの。ハーレイの支援追跡なしに、出歩くことは禁じられているからね」
「……意外です」
イーレが寂しいと言うのは、社交辞令でもなさそうな印象を持っていたクトリは、あっけに取られた。
「サイラスは来ないんですか?」
「リルと一緒に、エトゥール内の被災地を行商していて、なかなかこちらまで来れないわね」




