(41)変革⑯
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「土竜から戻ったら、会いに来いと伝言だ」
「土竜?」
「地下にもぐるのだから、土竜だろう」
「イーレは、ハーレイになんと説明したの?」
「そのうちエトゥール城の地下へ穴掘りに行く、と」
あってるようで、微妙に違う説明だった。
イーレが、ハーレイへの説明が面倒くさくなって、端折ったのは明白だった。
「説明が面倒だったのだろう」
ハーレイは正確に見抜いていた。
「時々不思議なんだが、イーレは本当にカイル達の指導者なのか?」
「僕も時々疑うことがあるよ」
痛い質問にカイルは視線をそらしつつ、同意した。
「エトゥール城の地下に何があるんだ?」
「……賢者の昔の住処」
「なぜイーレが必要なんだ?」
「そこを利用していた地上にいる初代達がアードゥルとエルネストとイーレしかいないから」
「よりによってその面子か……」
ハーレイは顔をしかめた。
「例のアードゥルに会って、イーレが不安定にならないか?」
「だからハーレイにも同行してもらいたいんだよ。どうなるかわからないから」
「やれやれ」
「ナーヤ婆が何も言わないなら、問題はないと思うけど……」
「ナーヤはたまにわかっていても、言わないことがあるぞ」
「え?!」
それは意外なことで、カイルは焦った。
「先見の結果を黙っていることがあるの?!」
「あるとも」
「どういう時に?」
ハーレイはやや、言い淀んだ。
「ハーレイ?」
「ナーヤ婆の元に、村の女が占いに押し寄せた時期があったんだ」
「うん?」
「俺の後添いになれるか、と」
「……………………モテ自慢?」
「阿保。最近、発覚したネタだ。ナーヤはなんと答えたと思う?」
「…………何?」
「『お前じゃない』」
「正しいのでは?」
「ナーヤは、『村の女じゃない』という先見を得ていたんだぞ?」
「――」
「ナーヤは占料を荒稼ぎするためにそう答えたんだ。『村の女じゃない』と言えば、結果は即座に村中に広まり、誰も占いに来ないじゃないか」
「――」
カイルはあっけにとられた。ナーヤ婆がそのネタでがっぽり稼いだ気がした。
「お婆様……頭、いいなあ」
「稀代の詐欺師だ」
「でも、ハーレイが後添いを取ることは認めているよ」
「そういえばそうだな」
「嘘は言ってないよね」
「こういうところはメレ・アイフェスそっくりだ」
「一緒にしないで?!」
「カイルは時々、嘘は言わないが、言葉を選んで語らないじゃないか」
「うっ……」
カイルは指摘に言葉を詰まらせた。
「僕たちの加護は、人の心を悟るモノが多いんだよ。だから下手な嘘はつけない」
「なるほど、わかるような気はする」
「シルビアは別の方法で嘘を見抜くけどね」
「ほう、どんな?」
「体温の微妙な上昇、血圧や脈拍の増加、発汗、目の動きやわずかな挙動で」
「面白い」
ハーレイは感心した。
「そういえば、奇妙な現象が起きているんだが」
「奇妙な現象?」
「いくつか井戸が枯れた」
「え?」
「イーレは地下水脈の経路が変わったんじゃないかと言ってる」
「…………もう一度飛んでみる必要があるかも」
「そうしてくれるとありがたい。だが姫も治癒師も忙しいだろう?」
「まあ、最強の助っ人を頼んでみるよ」
カイルはディム・トゥーラへの相談内容を頭の中でまとめ上げた。
『………………』
カイルへの予想に反して、ディム・トゥーラの反応は芳しくなかった。カイルの説明と依頼内容に長い沈黙が続いた。
『ディム?やっぱり忙しくて支援追跡は無理かな?』
『……そうじゃない。いろいろ質問がある』
『なんだろう?』
『地下水脈の地図とは?』
『西の地が水場で争いが起きそうだったから、井戸を掘るために調査したんだ』
『どうやって?』
『精霊鷹と同調して西の地の上空を飛んだら、水脈らしき情報を取得できたんだ。それを地図におとした』
『いつごろの話だ?』
『イーレが西の地に降下して、和議が成立した後ぐらいだったかなぁ』
長いため息の思念がきた。なぜだか操作卓に肘をつき両手で額を抑え込んで苦悩するディム・トゥーラの姿が浮かんだ。
『ディム?』
『あれだけ関係者に事情聴取していながら、なぜ未報告のネタがでてくるんだ……』
『あれ?これって、報告してなかった?』
カイルは首を傾げた。




