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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第5章 精霊の守護者
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(16)晩餐会⑨

 それはセオディア・メレ・エトゥールに向けられていた。


 カイルはとっさに床に膝をつくと同時に、衣嚢(ポケット)に持ち込んでいた金属球を取り出し起動させた。


 複数の弓音とともに、セオディア・メレ・エトゥールに向かって放たれた数十本の矢の半数は、カイルが張った障壁(シールド)で遮られた。

 激しい火花と、矢を弾く甲高い金属音が響いた。

 ファーレンシアとシルビアが悲鳴をあげる。


 残りを食い止めたのは、どこからか現れたカイルの白い獣(ウールヴェ)と、(かば)うように前に飛び込んできた近衛兵の振り払った剣だった。

 黒髪の近衛兵はよく知った顔だった。髪が短く切られているが間違いない。


「サイラス⁉︎」

「上出来だっ!もう一撃だけ耐えろっ!」


 カイルはサイラスの警告に次の障壁(シールド)を張った。

 そこへ第ニ撃がきた。

 さらに放たれた矢は増えたが、味方も増えた。思わぬ奇襲から立ち直った専属護衛達が、メレ・エトゥール達を護るように剣を構え、矢を薙ぎ払った。

 ファーレンシアとシルビアの無事を確認し、狙われたメレ・エトゥールの顔を下から見上げたとき、カイルは愕然とした。




 セオディア・メレ・エトゥールは(わら)っていた。




 その時、天井から光が走った。

 襲撃で混乱の舞踏会場に、大音響とともに金色に光り輝く柱が立ったのだ。


 剣を持ち、走りよろうとした襲撃者達は一瞬、鼓膜を破るような音と光に、その場に立ち尽くした。だが、カイルはその見慣れた現象をよく理解していた。


 移動装置(ポータル)の起動――!


 光の柱から現れた小柄な金髪の女性には見覚えがあった。


「イーレ!」


 まばゆい光の柱から出現した子供の容姿の女性は、自分の身長以上の長い2本の棒を持っていた。彼女はそのうちの1本をサイラスに軽々と投げた。

 サイラスは左手で受け取ると、剣を捨て、襲撃者に対して長棍を構えた。


 始まりはイーレだった。彼女は長棍を振り回して、無粋な襲撃者を薙ぎ倒した。演舞と言われれば大半がだまされるほど優雅な所作の棒術だった。

 次にまた一振り。

 敵の剣先を身体を柔らかくそらして避けると、次の瞬間には身体を回転させ、武器をはじき飛ばす。

 もう一回転で急所である喉に直撃させ、相手を失神させた。


 その美しさにカイルは一瞬見とれた。

 それはその場を目撃した全員もそうだったかもしれない。光の柱と、そこから現れた子供のような人物が、踊りのような軽やかさで、場を支配しているのだ。


 彼女は次に自分に向かって乱れ飛んできた矢をすべて叩き落した。曲芸の演目に等しい技だった。

 逃げようとしていた貴族も、主を守るべき専属護衛達も、舞に似た動きに目を奪われていた。

 サイラスもそれに続く。彼はイーレより荒々しい勢いでセオディア・メレ・エトゥールに近づく者を跳ね除けていく。



 セオディア・メレ・エトゥールは、号令も何も言葉を発さない。だが、狼狽えてもいなかった。目の前の演舞を楽しんでいるようにも見えた。



 サイラスの死角をイーレが補い、イーレの死角をサイラスが受け持った。二人の攻撃と防御に隙はなく、襲撃者達は一人、また一人と昏倒して数を減らしていく。有利な長剣を持つ者が、華麗な棒術に負けていくのだ。



 目の前で行われる防衛戦にカイルは呆然としながら、障壁を維持していた。

 なぜ、この舞踏会場に移動装置(ポータル)を定着できたのか。

 数日前のサイラスとの再会をカイルは思い出した。あの時、彼はこの部屋で天井画を見ていたのではない。観測ステーションへ確定座標を送信していたのだ!

 セオディア・メレ・エトゥールの不敵な笑みも、サイラスの近衛服も、イーレの降臨も全て繋がった。

 彼らはこの襲撃を知っていた。カイルは頭に血がのぼった。




――この腹黒領主は、妹の初社交(デビュタント)の舞台を利用して敵に罠をしかけやがったっっっ!




 カイルは、視線の片隅で近くにいたアドリー辺境伯がイーレの演舞を凝視し、何事かつぶやいているのをみた。「……アストライアー……」


 階上にいた射者たちがすべて捕らえられた頃には、階下も決着していた。血がほとんど流れずに、制圧されたのだった。


 子供姿の精霊の御使いは、エトゥールの王であるセオディア・メレ・エトゥールに優雅に一礼をした。メレ・エトゥールも頷いてみせる。知らない者が見れば、古くからの知己だと思うであろう。


 イーレは光の柱に向かい姿を消した。


 やがて光の柱は、徐々に輝きを失い、何事もなかったかのように、もとの舞踏会場に戻った。あたりは静寂につつまれた。

 静寂のあとに、大騒ぎになる。襲撃についてではなく、目の前で起こった奇跡について、である。



 セオディア・メレ・エトゥールの危機を救った精霊の守護者の存在を誰もが疑わなかった。


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