(38)変革⑬
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カイルは過去の行いに対する再びの断罪に蒼白になったが、話題の中心人物であるアードゥルの反応は意外にも静かなものだった。
彼はそっけなく言った。
「好きにしろ」
「いいの?」
「相手が承諾すれば、だ。殺されかけた相手と同行するとは思えん」
「……なぜ若長も?」
質問を投げてきたのはエルネストの方だった。
「イーレの支援追跡をしてもらっているから」
「……なるほど」
エルネストも支援追跡者として、イーレが不安定になる可能性に思い当たったようだった。
ため息交じりに、ディム・トゥーラがカイルに感想を述べた。
『お前は他人の本心を悟るくせに、時々大胆な道を選択するな』
「……ダメかな?」
『まあ、イーレ個人の問題だ。イーレが承諾したら問題はないが、こちらの二人は複雑だろう』
カイルはアードゥルをじっと見つめた。
「あのさ、アードゥル達は、原体がクローン承諾していなかった、そう言ったよね?」
「そうだ」
アードゥルは認めた。
「だけど、ジェニ・ロウは、ディム・トゥーラにイーレは違法クローンじゃないと言ったらしい。ここが矛盾しているんだ。そうなるとアードゥル達の知らないところで、承諾したんじゃないのかな?」
「アードゥルはエレン・アストライアーの夫だぞ?夫婦なら彼も承諾の対象者になる」
エルネストは首を振った。
「貴方達は中央に帰還しなかったじゃないか。死亡か、行方不明扱いになるんじゃないの?」
「ロニオス同様、行方不明扱いだろうな」
「その場合、クローンの承認権は誰に委譲されるの?」
「親、兄弟に準ずる親族だが、エレンに親族はいない」
『カイル、本人の記憶がないのならその点は確かめようがないだろう?』
「だからこそ、何か見つかるかもしれない。そうなると、イーレの精神状態を考慮してもハーレイも必須でしょ?」
『確かにそうだな。サイラスはどうする?』
「同行させない」
『なぜ?』
「イーレが不安定になったら、ブチ切れて、拠点を壊しかねないじゃないか」
『…………状況把握としてはとても正しい』
ディム・トゥーラもその点を認めた。
『本当は主治医であるシルビアにも同行してもらいたいところだが』
「シルビアには、しばらくアドリーにいてもらわないと困る。予想以上にカストの民の健康状態が悪すぎるんだ。栄養失調が大半で、災厄で火傷を負ったものも多数いる」
『栄養失調?そういや、お前に勇気ある進言をした老婦人も痩せこけていたな』
「大凶作にも関わらず、カスト王は増税し、農民の大半は食に困る有様だそうだよ。餓死者も出ているって」
『……冗談だろう?ただでさえ、これから気候不順が起きるんだぞ?』
「僕も冗談かと思っていたよ。カストはすでに未来のような惨状ってわけだ」
カイルの意見にウールヴェは問いかけた。
『これは、アードゥルの意見に賛同せざるえないな。お前は、いったいどこで線引きをするつもりだ?』
「………………」
『カイル』
「この惨状を見て見ぬふりをするのは難しいよ……」
『そうなるような気がした。お人好しめ……』
カイルはアードゥルの方に向き直った。
「僕がカストの民に手を貸すのは反対?」
「ああ、君の支援追跡者が指摘する通り、どこで線引きするか聞かせてもらおうか」
「正直、わからない」
「お前は馬鹿か」
アードゥルは感情のこもらない声で言った。
「初めて会った時から馬鹿だと思ったが、馬鹿すぎる」
「……おっしゃる通りで……」
「連中に骨の髄までしゃぶられるぞ」
「そうかもね」
「カストを滅ぼした方がエトゥールの利になる」
カイルは予想通りの言葉にため息をついた。
「確かに僕達の技術だと、生かすも殺すも自由自在だろうね。でも、僕は知ってしまったんだよ。カストの人々も生きることを渇望していると」
「情でも沸いたか?」
「情……情なのかなぁ?文化や歴史が生み出した民族対立は理解していたつもりだったけど、根本はエトゥールもカストも変わらないんだよ」
「変わらない?」
「皆、生まれ故郷に愛着があり、家族で暮らし、子供を育て、平穏に暮らしたいだけだ。道を間違えているのは指導者で、民は犠牲者に過ぎない。すごく未成熟な世界だ」
「だが、滅びる世界だ」
アードゥルは冷淡に言い切った。




