(37)変革⑫
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
更新時間は、さらに迷走中!(自信あり!)
ブックマークありがとうございました!
『カイル一人が探索したって、初代の誰かがいなければ生体認証で開放できないだろう』
「勘違いしていないか?私達が拠点開放につきあう義理はない」
『ロニオスが拠点開放を躊躇う鍵がそこにあっても?』
「――」
ディム・トゥーラは、餌を小出しにしてみたが、手ごたえは確かにあった。
エルネストがつぶやいた。
「そんなところにあるだろうか?ロニオスが失踪した時に、行方を探すために彼の個室は散々調べた。手がかりになるようなものは何もなかった」
アードゥルも同意した。
「むしろ今までの痕跡を消していた」
「そうだ。まるで退任するかのように見事にもぬけの殻だった。個室を移動したと思ったくらいだ」
「活動拠点を変えたと皆は考えた」
「だから失踪を確信するのが遅れた」
『彼の執筆中の論文は?』
「なんだって?」
『論文だ。研究成果を抹消する研究バカはいない』
「そういや、その類もなかった」
「考えなかったな」
『さらに聞きづらいことを聞く。エレン・アストライアーの遺品は?』
アードゥルとエルネストは顔を見合わせた。沈黙は怒りのためではなく、困惑から生まれているようだった。
「多分、拠点にそのままだ」
『多分?』
「あの事件のあとに、そんなことを気にする余裕はなかった……記憶も曖昧だ」
「あの時の君の精神状態は、まっとうではなかった。無理もない」
「ジェニ・ロウが気をきかせて、整理したとか?」
「だったら、君か私に一言打診するだろう」
「だが、ジェニなら親友の遺品を放置しない」
「確認する必要はあるな」
「乗せられた感は多々あるが、よし、付き合ってやる」
アードゥルは探索に同意した。
ディム・トゥーラは釣果に満足した。
「何がどうなって、どうなると、こうなるの?」
合流したカイルは、やや呆然としながら突っ込んだ。
『成り行きだ』
「てっきり僕に対する文句が山ほどくると思ったけど……」
「ご希望なら別途時間を用意しよう」
「いえ、結構です。お気になさらず」
エルネストの提案を即座にカイルは退けた。
だが、困惑は隠しきれない。
説教と怒声を覚悟して、アードゥル達が待機している部屋にファーレンシアと共に出頭したら、二人と一匹は議論に夢中になっており、ノックの音に気づいてくれたのは歌姫だった。
エトゥールの地下の探索という話になっており、これにはカイルも驚いた。
多忙すぎて、手がつけられず放置していた項目だった。
「探索のメンバーは?」
『俺は多分、途中で待機になる。ウールヴェが入れないことが確かなら、カイルとアードゥル、エルネスト――』
「ミオラスも」
カイルは驚いたようにアードゥルとミオラスを見つめた。
「歌姫を連れていくの?!」
「もちろんだ」
「危険かもしれないのに?!」
「仕方あるまい」
「仕方ない?」
「私達には信頼できる専属護衛がいるわけではない」
「――」
「それに、それがミオラスとの取り決めだ」
カイルは思わず歌姫の方を見た。
ミオラスはカイルに対して微笑んで見せた。
「アードゥルの信用は、失墜している」
「うるさいぞ、エルネスト」
「エルネスト様の信用も同様です」
続いたミオラスの言葉にエルネストは固まった。
「なんだって?」
「大事なことを語っていただけないのは、アードゥル様そっくりです」
「いや、ここまで酷くないだろう?」
「いえ、そっくりです」
「叱られてザマーミロだが、エルネストとそっくり認定はいただけないな」
アードゥルが複雑な心情を覗かせた。
カイルはファーレンシアの方を向き直った。
「ファーレンシアはどうしたい?」
「同行したいのは、山々ですが、今のアドリーを放置するわけにはいきませんでしょ?こちらで待っております。ただカイル様単独の行動は兄が許さないかと」
「ミナリオかアッシュが同行することが、条件?」
「多分、そうなります」
『カイルと専属護衛二人、初代二人と女性一人……』
「イーレとハーレイも」
全員がギョッとして提案したカイルを見つめた。
エルネストが愕然として言った。
「君も火薬庫にミサイルをぶち放つタイプか」
「そんなつもりはないけど」
「東国でアードゥルと殺し合ったそうじゃないか?」
「あれは、アードゥルがイーレの愛弟子を虐めるからだよ」
「虐めるってレベルか?」
「半殺し?」
「そっちの方がしっくりくるだろう」
「まあ、応急処置は確かに大変だったよ」
ファーレンシアが、パンと手をたたいて、二人の注意をひいた。
「お二人とも、物騒な会話は控えてくださいませ。思い出したら、私は腹が立ってまいりました」
ひっ、とカイルは怯えた。
『俺も腹が立ってきた』
ウールヴェが姫に同意した。




