(35)変革⑩
お待たせしました。本日の更新です。
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「そういえばそうだったな。東国で私に刺されて、世界の番人でさえ手玉にとっていた。思い出しても腹立たしい」
「ということは君も手玉に取られたわけだ」
微妙な表現にエルネストは笑いを含んで突っ込んだ。アードゥルは即座に、ぎろりとにらんだ。
「エルネスト、さっきからうるさいぞ」
「ロニオスの息子を殺さなくてよかったじゃないか。後から知れば、君は死ぬほど後悔していたに違いない」
「――」
「彼がここまで憤慨しているのは、カイル・リードが東国の時よりも己の安全を顧みないことだ」
エルネストはアードゥルを黙らせつつも、フォローのためか、アードゥルの心理を暴露した。
「エトゥールと敵対しているカストまで関わり救済するとは、いささか暴走すぎるだろう。カストはエトゥール王のウールヴェを殺したという噂が出回っている。そんな国に温情か、と民は当然不満に思う。救済の助言をしたカイル・リードが逆恨みされる可能性も高い。彼の自分の安全を軽視する悪癖が出ているのでは、ないかね?」
『それは俺の悩みと完全に一致する。定期的にデカイ釘を打ち付けているのだが、効果があるんだか、ないのだがわからない。今回に限っては、戦争の勃発よりも回避の方がはるかに危険が少ないと判断したから認めた』
支援追跡者の弁明の言に、アードゥルはうんざりしたように首を振った。
ここで、アードゥル達に手を引かれては困る。
ディム・トゥーラは内心焦った。
『ロニオスの息子への協力は、今後見込めないのか?』
カイルをわざとカイルのことを「ロニオスの息子」と表現してみた。
ディム・トゥーラの小細工にアードゥルは睨みつけた。
「支援追跡者の方も小賢しいな」
『正直、今更あんた達に撤退されても困るんだ。俺には地上の備えはできない。食料の備蓄や爆薬の精製は、あんた達が必要不可欠だ。カストとは戦争回避が前提だ。無駄にエトゥールの民に死者を出すわけにはいかない』
「虫のいい願いごとだとは思わないのか?」
『思っているが、カイルは死者が最小限になる道を望んでいる』
「だから、お人好しって言ってるんだ!!」
『それも認める。ヤツはお人好しで甘ちゃんだ』
ウールヴェは静かに語った。ここで、なぜかディム・トゥーラは部屋全体に遮蔽をはり、さらにそれを強化した。
『大災厄をとめる、と世界の番人に宣誓してしまった大馬鹿者だ。その世界の番人がロニオスと結託してようと、俺はかまわない』
「結託だと?」
『どんなに追及してもロニオスは口を割らないけどな。ロニオスはあの精神生命体と何らかの取引をしている。アレは、どんな時にでも直接的に人を害しないという誓約に縛られている。これは逆の意味にも取れる』
「逆の意味とは?」
『その誓約がなければ、アレは人を大量に殺せる。それぐらいのエネルギーを秘めている』
「――」
「――」
『カイルを衛星軌道上から転移させたエネルギー。シルビアの使った移動装置を破壊したエネルギー。カイルがあんたと対峙した時に、四つ目を一掃したというエネルギー。それらを足し合わせるとすさまじい桁数の熱量になるんだ。ああ、それに探索装置の破壊も加えていい』
「我々の時は、そもそもそんな妨害が存在しなかった」
『その点を鑑みても、絶対にあの古狐が一枚噛んでる。だが、エネルギー収支があわない。アレの源が精神エネルギーと仮定しても、足りない』
「ウールヴェもありうる」
『コレが?』
「世界の番人の手足と呼ばれている存在だ。どこからか現れて、どこかへ消えていく。形態もでたらめ。エネルギーを、世界の番人に提供している供給管の役目を果たしているのでは」
エルネストの推論にウールヴェは首を振った。
『むしろ逆だろう。こいつらの空間を跳躍できるエネルギーは、どこから得ているか謎だ』
アードゥルは黙り込み、考えこんでいた。
『ロニオスは世界の番人が人間に手を出せないから、悪意ある攻撃から守護するためにウールヴェが作られたとも言っていた』




