表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
758/1015

(29)変革④

お待たせしました。本日分の更新です。(奇跡!)

お楽しみください。


土、日の更新は多分……夜予定。(寝落ちしたら朝!)←結局更新時間不明(土下座)

 ウールヴェの幼体は、商人が流通しているもので、購買に制限をかけられるものではない。大陸に(いち)などで流通しているありふれたもので、(しん)に使いこなすができる人間が少数なだけだ。


 ガルースがウールヴェを入手することを止める手段と理由は、カイルにはなかった。

 カイルは頭がクラクラしてきた。カストの老軍人の順応力が異様に高すぎて、想像以上に限界突破していた。

 ウールヴェの件はどうしたらいいのだろうか。



『この件は保留にしておけ。とりあえず安全な場所に移動することを優先にしろ』



「と、とりあえず、皆で移動しましょう」


 ディム・トゥーラのアドバイスを受け、動揺(どうよう)を隠せないまま、カイルは西の民が作った巨大な天幕(テント)を指差した。


 中で休憩できるかと思ったマリエンとダナティエは、足を踏みいれて唖然(あぜん)とした。

 百人ぐらいは、楽に収容できそうな巨大天幕の中には、何もなかった。何本かの太い木材が天幕の支柱としてあるだけで、中は全くのがらんどうであり、床は土のままだった。


「え?こんなに大きいのに無人なの?水桶(みずおけ)一つないの?」

「エトゥールに避難(ひなん)した人達はどこに行ったのですか?」

「今からそこに行きます」

「そこってどこ?」


 ダナティエの質問に、賢者(メレ・アイフェス)は、にこりと笑っただけだった。


「シルビア、いい?」

「はい」


 シルビアが地面に手をつくと、地面は金色の光を帯びた。手をついた場所から同心円状にゆっくりと、波のように金色のさざ波が広がった。

 何が起こっているのか理解できずに、ディヴィの妻子は軽く口をあけて固まっていた。


「これは、我々の技術で、禁忌(きんき)とされる精霊とは無関係なので、ご安心を」


 マリエンは光の変化に(おび)え、夫にしがみつき、対照的に娘のダナティエは、しゃがんで、賢者と同じように地面に手を触れたりしていた。

 好奇心(こうきしん)旺盛(おうせい)な研究者向きのタイプだ、と移動装置(ポータル)を起動を見守りながら、カイルは副官(ディヴィ)の娘の性格診断をした。


 天幕(テント)内部が金色の光に完全に満たされた時、天幕(テント)の外からのざわめきが生まれていた。


「?」


 ガルースとディヴィに導かれるように、天幕(テント)の外にでたマリエンとダナティエは絶句した。


 先ほどまで、エトゥール内の国境そばの荒野にいたのに、光景はがらりと変わり、そこは見知らぬ城壁そばの駄々広い空き地だった。深い森のそばで、森の一部を切り開いた開拓地であることは明白だった。

 境界に高い城壁と城門がみえた。


 だが、そこは正確には空き地ではなかった。

 ところせましと多数の天幕がひしめき、多くの人がいた。大半はカスト人であり、警備している西の民とエトゥール人がちらほら見えた。


「ガルース将軍っ!!」

「将軍閣下っ!!」

「ディヴィ副官っ!」

 

 大歓声(だいかんせい)で一行は迎えられた。


「ご無事で何よりですっ!」

「お帰りなさいっ!」

 

 マリエンは混乱した。夫の部下達の家族の顔が見えたような気もした。唐突な多数の顔見知りの出現が信じられなかった。

 彼らはどこから現れたのだろうか?


「え?え?え?」


 彼女は思わず横にいる夫の腕をつかんだ。

 夢を見ていたというオチだけは、絶対に嫌だと彼女は思った。再会できたはずの目の前にいる夫が夢幻(ゆめまぼろし)だったらどうしたらいいのだろうか?

 ディヴィは妻の混乱を正確に察した。


「落ち着け、マリエン」

「夢?これは夢の世界なの?」

「大丈夫、現実だ」

「だって、荒野(こうや)にいたのよ?!さっきまで荒野(こうや)にいたわよね?!」


 ディヴィは困ったような表情を浮かべた。


「……そうだな」

「ここは、どこなの?!」

「カストよりかなり南下した位置にある、西の地とエトゥールの国境で、西の地側にいる」

「はあ?!」


 マリエンは顔を引きつらせて、思わず聞き返した。


「どういうこと?!なんで?!私達、狼に乗って国境を越えたのよね?魔獣の背に乗ったわけではなく、天幕に入っただけで、なんでこうなるの?!」


 パニックに(おちい)りかけているマリエンの背中をディヴィはさすった。


「大丈夫だ、大丈夫だから落ち着け。あ〜〜俺にもこの仕掛けはわからん。賢者にしか使えない技術らしい。俺達は、その……エトゥール内にいるわけにはいかんのだ」

「なんで?!」

「王が避難民を口実に、しかも犠牲にしても戦争をしかけてくるからだ」

「そりゃ――」


 あの王ならやりかねない――という発言は死罪(しざい)ものの不敬だったため、マリエンは口をつぐんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ