(29)変革④
お待たせしました。本日分の更新です。(奇跡!)
お楽しみください。
土、日の更新は多分……夜予定。(寝落ちしたら朝!)←結局更新時間不明(土下座)
ウールヴェの幼体は、商人が流通しているもので、購買に制限をかけられるものではない。大陸に市などで流通しているありふれたもので、真に使いこなすができる人間が少数なだけだ。
ガルースがウールヴェを入手することを止める手段と理由は、カイルにはなかった。
カイルは頭がクラクラしてきた。カストの老軍人の順応力が異様に高すぎて、想像以上に限界突破していた。
ウールヴェの件はどうしたらいいのだろうか。
『この件は保留にしておけ。とりあえず安全な場所に移動することを優先にしろ』
「と、とりあえず、皆で移動しましょう」
ディム・トゥーラのアドバイスを受け、動揺を隠せないまま、カイルは西の民が作った巨大な天幕を指差した。
中で休憩できるかと思ったマリエンとダナティエは、足を踏みいれて唖然とした。
百人ぐらいは、楽に収容できそうな巨大天幕の中には、何もなかった。何本かの太い木材が天幕の支柱としてあるだけで、中は全くのがらんどうであり、床は土のままだった。
「え?こんなに大きいのに無人なの?水桶一つないの?」
「エトゥールに避難した人達はどこに行ったのですか?」
「今からそこに行きます」
「そこってどこ?」
ダナティエの質問に、賢者は、にこりと笑っただけだった。
「シルビア、いい?」
「はい」
シルビアが地面に手をつくと、地面は金色の光を帯びた。手をついた場所から同心円状にゆっくりと、波のように金色のさざ波が広がった。
何が起こっているのか理解できずに、ディヴィの妻子は軽く口をあけて固まっていた。
「これは、我々の技術で、禁忌とされる精霊とは無関係なので、ご安心を」
マリエンは光の変化に怯え、夫にしがみつき、対照的に娘のダナティエは、しゃがんで、賢者と同じように地面に手を触れたりしていた。
好奇心旺盛な研究者向きのタイプだ、と移動装置を起動を見守りながら、カイルは副官の娘の性格診断をした。
天幕内部が金色の光に完全に満たされた時、天幕の外からのざわめきが生まれていた。
「?」
ガルースとディヴィに導かれるように、天幕の外にでたマリエンとダナティエは絶句した。
先ほどまで、エトゥール内の国境そばの荒野にいたのに、光景はがらりと変わり、そこは見知らぬ城壁そばの駄々広い空き地だった。深い森のそばで、森の一部を切り開いた開拓地であることは明白だった。
境界に高い城壁と城門がみえた。
だが、そこは正確には空き地ではなかった。
ところせましと多数の天幕がひしめき、多くの人がいた。大半はカスト人であり、警備している西の民とエトゥール人がちらほら見えた。
「ガルース将軍っ!!」
「将軍閣下っ!!」
「ディヴィ副官っ!」
大歓声で一行は迎えられた。
「ご無事で何よりですっ!」
「お帰りなさいっ!」
マリエンは混乱した。夫の部下達の家族の顔が見えたような気もした。唐突な多数の顔見知りの出現が信じられなかった。
彼らはどこから現れたのだろうか?
「え?え?え?」
彼女は思わず横にいる夫の腕をつかんだ。
夢を見ていたというオチだけは、絶対に嫌だと彼女は思った。再会できたはずの目の前にいる夫が夢幻だったらどうしたらいいのだろうか?
ディヴィは妻の混乱を正確に察した。
「落ち着け、マリエン」
「夢?これは夢の世界なの?」
「大丈夫、現実だ」
「だって、荒野にいたのよ?!さっきまで荒野にいたわよね?!」
ディヴィは困ったような表情を浮かべた。
「……そうだな」
「ここは、どこなの?!」
「カストよりかなり南下した位置にある、西の地とエトゥールの国境で、西の地側にいる」
「はあ?!」
マリエンは顔を引きつらせて、思わず聞き返した。
「どういうこと?!なんで?!私達、狼に乗って国境を越えたのよね?魔獣の背に乗ったわけではなく、天幕に入っただけで、なんでこうなるの?!」
パニックに陥りかけているマリエンの背中をディヴィはさすった。
「大丈夫だ、大丈夫だから落ち着け。あ〜〜俺にもこの仕掛けはわからん。賢者にしか使えない技術らしい。俺達は、その……エトゥール内にいるわけにはいかんのだ」
「なんで?!」
「王が避難民を口実に、しかも犠牲にしても戦争をしかけてくるからだ」
「そりゃ――」
あの王ならやりかねない――という発言は死罪ものの不敬だったため、マリエンは口をつぐんだ。




