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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
750/1015

(21)治療⑯

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマークありがとうございました!

「……だから、それを私にバラしていいのかね?」


 ガルースは呆れたように裏工作のできない賢者(メレ・アイフェス)を見つめた。彼はあまりにも正直すぎた。


「メレ・エトゥールの人選(じんせん)ミスだよ」


 賢者(カイル)は不服そうに言った。


「僕に貴方を口説(くど)けるとは、思えない」




『俺は口説(くど)ける方に()けるぞ』

『だから、茶々(ちゃちゃ)をいれないでっ!!』




 ガルースは考えこんだ。

 これは本当に人選ミスだろうか?だが、そもそも、狡猾(こうかつ)なメレ・エトゥールが初手(しょて)を誤ることがあるだろうか?

 人選ミスでなければ、なぜこの青年が敵国カストの将軍の説得役に抜擢(ばってき)されたのだろうか?

  

「私を臣下(しんか)に加えてどうするのだ?カスト王に一矢(いっし)(むく)いることを目的としているのか?」

一矢(いっし)(むく)いるだって?」


 カイルは驚いたように言った。

 見当違いか、とガルースは一瞬思った。


「メレ・エトゥールが一矢(いっし)程度のささやかな反撃で満足するとでも?カスト王を追い込んで、その先には落とし穴を作って、落ちたところに油と火矢(ひや)の多段攻撃を(くわ)えて、上から高笑(たかわら)いをしながら勝ち誇るに決まっているでしょう?」

「……………………」


 賢者の比喩(ひゆ)は的確すぎて、臨場感(りんじょうかん)()(あふ)れていた。ある意味、その反撃のレベルが見当違いだった。


「…………そこまでするか?」

「するのが、メレ・エトゥールだよ。ガルース将軍、貴方はエトゥール王を知らなさすぎる」

「カストでも冷酷無比(れいこくむひ)で有名だった」

「そうなんだ?」

「その王が私を欲する理由がわからない。その大いなる復讐劇(シナリオ)の私の役割は何だ?」

「貴方を切り捨てたカスト王の愚行(ぐこう)を世に知らしめるために決まっているじゃないか」

「なんだって?」

「民衆と、長年誠実に仕えた臣下(しんか)をこれだけ(ないがし)ろにしたんだ。彼に王たる資格はない。その臣下は、民衆のために立ち上がり、カストの王を捨て隣国の臣に下る。その後、その元臣下が、カストの民を救う英雄になれば、これほど、カスト王の(よこ)(つら)を張り倒して、()みつけて、(どろ)に沈める行為はないよね?メレ・エトゥールはそれがしたくて、うずうずしているんだ」

「待て、そんなことのために、私を支援するというわけでは――」

「まさに、その通りだよ。だから、メレ・エトゥールは腹黒(はらぐろ)策士(さくし)鬼畜(きちく)曲者(くせもの)狡猾(こうかつ)って言ってるじゃないか。しかも相手の最大級の()()を用意するのが得意なんだ」

「私に対する釣り餌はなんだ」

「もちろん、カストの民の保護だよ」

「――」


 まさに、それは最大級の()()かもしれなかった。

 今、一番、欲している内容であり、臣下になることでそれが叶うなら、確かに悪い取引では、なかった。

 いや、そう思わせることが筋書きなら、それはそれで狡猾(こうかつ)だった。しかもすでに術中にハマっているかもと、見事に疑心暗鬼(ぎしんあんき)を生み出している。


「……なるほど、確かに一筋縄(ひとすじなわ)ではいかない人物だ……な……」

「でしょ?だから、言ってるんだ」


 カイルは力強(ちからづよ)く主張した。

 こちらも主張する方向が違うだろう、と内心ガルースは突っ込んだ。メレ・エトゥールの手の内と心情を晒し、警戒を呼び掛けるなど、将来の義弟がしていい行為だろうか?


「カストの民を保護すると言っても、行動するのは、ガルース将軍、貴方達だ」

「貴方()?」

「貴方が行動すれば、追随(ついずい)する者はいるでしょ?」


 カイルは離宮の方を振り返った。離宮の露台(バルコニー)には、ディヴィ達がまだこちらを見ていた。


「彼らが貴方を残して、素直にカスト王の元に帰国するとは思えない」

「……そうかもしれない」

「ただし、カストの歴史的には、貴方は裏切り者としての名を(のこ)す可能性もある。非常に不名誉なことだ」

「……確かに、そうなるな」

「あとは貴方にどれだけの覚悟あるかだ。それをメレ・エトゥールは僕を通して、問いかけている」


 カイルはじっとカストの大将軍の目を見つめた。


「貴方は、カストの民のため行動を起こす覚悟はあるかな?」


 賢者が、ガルースの決意の(ほど)を問いかけた。


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