(21)治療⑯
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「……だから、それを私にバラしていいのかね?」
ガルースは呆れたように裏工作のできない賢者を見つめた。彼はあまりにも正直すぎた。
「メレ・エトゥールの人選ミスだよ」
賢者は不服そうに言った。
「僕に貴方を口説けるとは、思えない」
『俺は口説ける方に賭けるぞ』
『だから、茶々をいれないでっ!!』
ガルースは考えこんだ。
これは本当に人選ミスだろうか?だが、そもそも、狡猾なメレ・エトゥールが初手を誤ることがあるだろうか?
人選ミスでなければ、なぜこの青年が敵国カストの将軍の説得役に抜擢されたのだろうか?
「私を臣下に加えてどうするのだ?カスト王に一矢報いることを目的としているのか?」
「一矢報いるだって?」
カイルは驚いたように言った。
見当違いか、とガルースは一瞬思った。
「メレ・エトゥールが一矢程度のささやかな反撃で満足するとでも?カスト王を追い込んで、その先には落とし穴を作って、落ちたところに油と火矢の多段攻撃を加えて、上から高笑いをしながら勝ち誇るに決まっているでしょう?」
「……………………」
賢者の比喩は的確すぎて、臨場感に満ち溢れていた。ある意味、その反撃のレベルが見当違いだった。
「…………そこまでするか?」
「するのが、メレ・エトゥールだよ。ガルース将軍、貴方はエトゥール王を知らなさすぎる」
「カストでも冷酷無比で有名だった」
「そうなんだ?」
「その王が私を欲する理由がわからない。その大いなる復讐劇の私の役割は何だ?」
「貴方を切り捨てたカスト王の愚行を世に知らしめるために決まっているじゃないか」
「なんだって?」
「民衆と、長年誠実に仕えた臣下をこれだけ蔑ろにしたんだ。彼に王たる資格はない。その臣下は、民衆のために立ち上がり、カストの王を捨て隣国の臣に下る。その後、その元臣下が、カストの民を救う英雄になれば、これほど、カスト王の横っ面を張り倒して、踏みつけて、泥に沈める行為はないよね?メレ・エトゥールはそれがしたくて、うずうずしているんだ」
「待て、そんなことのために、私を支援するというわけでは――」
「まさに、その通りだよ。だから、メレ・エトゥールは腹黒で策士で鬼畜で曲者で狡猾って言ってるじゃないか。しかも相手の最大級の釣り餌を用意するのが得意なんだ」
「私に対する釣り餌はなんだ」
「もちろん、カストの民の保護だよ」
「――」
まさに、それは最大級の釣り餌かもしれなかった。
今、一番、欲している内容であり、臣下になることでそれが叶うなら、確かに悪い取引では、なかった。
いや、そう思わせることが筋書きなら、それはそれで狡猾だった。しかもすでに術中にハマっているかもと、見事に疑心暗鬼を生み出している。
「……なるほど、確かに一筋縄ではいかない人物だ……な……」
「でしょ?だから、言ってるんだ」
カイルは力強く主張した。
こちらも主張する方向が違うだろう、と内心ガルースは突っ込んだ。メレ・エトゥールの手の内と心情を晒し、警戒を呼び掛けるなど、将来の義弟がしていい行為だろうか?
「カストの民を保護すると言っても、行動するのは、ガルース将軍、貴方達だ」
「貴方達?」
「貴方が行動すれば、追随する者はいるでしょ?」
カイルは離宮の方を振り返った。離宮の露台には、ディヴィ達がまだこちらを見ていた。
「彼らが貴方を残して、素直にカスト王の元に帰国するとは思えない」
「……そうかもしれない」
「ただし、カストの歴史的には、貴方は裏切り者としての名を遺す可能性もある。非常に不名誉なことだ」
「……確かに、そうなるな」
「あとは貴方にどれだけの覚悟あるかだ。それをメレ・エトゥールは僕を通して、問いかけている」
カイルはじっとカストの大将軍の目を見つめた。
「貴方は、カストの民のため行動を起こす覚悟はあるかな?」
賢者が、ガルースの決意の程を問いかけた。




