(13)晩餐会⑥
「シルビア・メレ・アイフェス・エトゥール」
彼はシルビアにも丁寧な礼をした。
「お初にお目にかかります。アドリーのエルネスト・ルフテールと申します」
「アドリー辺境伯」
正規の礼をシルビアは返す。彼は二人に笑いかけた。
「メレ・エトゥールの隣の女性は、あなたの親族かという質問を今日は多数、受けました」
「まあ、申し訳ございません。お騒がせしました」
同じ銀の髪色でそういう影響があることは、想像の範囲外だったので、シルビアは頭を下げた。
「お二方の話の腰をおるのは、たいへん気がひけたのですが……周囲にどうしてもと頼まれまして、お伺いさせていただきます。カイル様の三曲目のお相手はシルビア様ですか?」
「え?」
「え?」
思いがけない質問だった。アドリー辺境伯は、ゆっくりと自分の背後に視線を巡らせた。
二人は、驚いた。壁際の自分達を中心に、やや遠巻きであるが、若い男女の半円が完成していたのだ。完璧な包囲網に二人はさっと血の気がひいた。
「わ、私は、メレ・エトゥールと先約がありまして」
シルビアは焦った。
「なるほど。カイル様は?」
「今から申し込みに行く予定です」
「そうですか。ファーレンシア・エル・エトゥールなら、左側の壁際で男性陣に囲まれていたようです」
「ありがとうございます。シルビア、またあとで」
「ああ、そんな正面突破を試みては――」
アドリー辺境伯の忠告は一瞬遅かった。
カイルの姿は、女性陣の波に、あっと言う間にのまれた。
――馬鹿だ。
シルビアは冷めた眼でカイルを見送った。
あれほど警告したのに、カイルは戦の殿気分を味わいたかったらしい。
「……彼は勇気がありますね」
「……いえ、単に馬鹿なだけかと」
辛辣なシルビアの言葉に、アドリー辺境伯は口元を拳で覆い隠し笑いをもらした。
「次のお相手が、メレ・エトゥールならば、彼の元までエスコートしますが」
「…お願いします」
半円状態の場には、女性の姿が消えたものの若い貴族男性が多数残ってこちらをみている。ここを単身突破する勇気をシルビアはな持たなかった。
救済を申し出たアドリー辺境伯は優雅に手をさしだし、シルビアはその手をとった。
エスコート役が決定したことに、周囲の男性達からは失望の吐息と、どよめきがもれた。
「お手数をおかけします」
「いえいえ、貴方を送り届けることで、私は、エトゥール王の覚えがめでたくなるわけです。こうやって若者たちを失望させるのも楽しみの一つです」
二人は歩き出した。
「私も一回り若ければ、貴方に三曲目を申し込みを試みたものですが残念です」
「奥様は?」
「昔に亡くなりました。彼女のことが忘れられないのです」
「……失礼いたしました」
「と、いうと、大抵の女性は引いてくれますので、こういう場では重宝しておりますよ」
「……」
シルビアが思わず顔をみると、彼はにっこりとほほ笑んだ。
――セオディア・メレ・エトゥールと同種の匂いがする。気をつけよう、とシルビアは心の中で思った。
一見、穏やかな紳士見えるが、女性に対しては百戦錬磨かもしれない。正直、セオディア・メレ・エトゥールがこちらに気づいたときはほっとした。
アドリー辺境伯はメレ・エトゥールに彼女を丁寧に引き渡した。
「アドリー辺境伯」
「貴方の大切な女性をお連れいたしました」
「お気遣い感謝する」
「シルビア嬢、では次回、機会がありましたら二曲目でもぜひ」
シルビアは微笑みを返し、返答を避けた。アドリー辺境伯はそんなシルビアの反応を面白がっているようだった。
彼は洗練された自然な動きで二人に礼をするとその場から去った。
「なぜ、アドリー辺境伯と?」
「うっかりカイルと話し込んだら、包囲網の中で、彼に助けていただきました」
「カイル殿はどうした?」
「……戦気分を味わいに行ってしまいました」
「……無謀な……」
「まったくです」
会場はカイルが作っている女性集団とファーレンシアが作っている男性集団にはっきりと二分されていた。はたして時間までにカイルはファーレンシアの元にたどりつけるのだろうか。
「……難易度が高すぎませんか?」
シルビアが心配そうに見つめる。
「精霊の与えた試練だな」
「……この状況を面白がっていますね?」
「当然だ。こんな面白い見物はなかなかない」
メレ・エトゥールは笑い、シルビアはカイルに深く同情した。




