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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
738/1015

(9)治療④

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。


ブックマーク、評価ありがとうございました!

「俺は、まだ夢の中なのか?!」


 ディヴィの狼狽(ろうばい)の叫びに反応したのはガルースだった。


「夢?」

「あ~~、手の指が治っている夢を見たんですよ……」

「まさか草原で?」

「なんでわかるんですかっ?!」

「私に文句を言った」


 ディヴィはその言葉に硬直した。


「……俺が?」

「お前が、だ」

「……俺……寝言でもいいました?」

「いや、夢の中で私に面と向かって、文句を言った」

「――」

「――」


 双方が黙り込んだ。


「あの……」


 恐る恐る挙手したのは、使節団で一番若いセドゥだった。まだ二十代の彼は、ためらいつつ申告した。


「俺も夢を見ました。副長が閣下を怒鳴ってました」

「――」

「馬鹿野郎、そ、そんな不敬を、俺が――」

「いつもしてるな」


 ガルースは、あらためて全員を見渡した。


「これから聞くことは、ここだけの話にする。異端としての告発も、不敬に関する体罰もなしとする。夢を見た者は?」


 全員が手をあげた。


「地平線まで広がる草原の夢を見たものは?」


 またもや、全員が手をあげた。


「ディヴィが私を(ののし)った夢の記憶がある者は?」

「副長が王を批判していました」

「いつまで愚王(ぐおう)に仕えるのか、と」

「あの馬鹿に忠義を果たす意味がわからない、と」

「言論の自由を主張していました」


 多数の証言の発生に、ディヴィは言い訳をしようとしたが、ガルースは片手をあげて押しとどめた。

 

「不敬は不問だと言っただろう……他には?」


 皆が黙り込んだ。


異端(いたん)としての告発はなしだと言っただろう」

「閣下が……その……死んだ白豹(しろひょう)と……会話を……かわして……」

「確かに私にもその記憶がある」


 ガルースの肯定(こうてい)に、またしても皆が黙り込んだ。


「いやいやいや、ありえないでしょう」


 ディヴィが引き()った笑いを漏らした。


「皆が同じ夢を見たと?ないないない、絶対にない」

「だが、これだけ証言が(そろ)っている」

「そ、そうだ、きっと集団幻覚だっ。薬を盛られたに違いない。あの魔女が何かしたに違いないっ!!絶対にそうだっ!!」

「魔女がどうかしましたか?」


 銀髪の魔女が、専属護衛と侍女達を引き連れて部屋に入ってきた。




 

 まさかの本人登場にディヴィは焦り、怒鳴った。


「ノ、ノックぐらいしろっ!!エトゥールには、そんな礼節もないのかっ?!」

「5回ほどしました。気づいてもらえないと判断しましたので、無許可で入室しました」


 長い銀髪の賢者が無表情で、ディヴィをやり込めた。それから彼女はガルースを見た。


「ガルース将軍閣下。左眼の視界は回復したばかりなので、遠近感が掴めないと思います。立ちくらみなどで、転倒しないよう、ご注意ください」

「左眼の犯人は君か?」

「犯人?」

「剣で(つぶ)された左眼が見える」

「見えなければ、困ります。苦労しました。「犯人」が「治療した」と同義語ならば、確かに犯人は私です」


 魔女はあっさり認めた。


「ディヴィの左手も?」

「はい」

「なぜ?」

「治療を宣言したはずですが?」


 賢者は、ガルースの質問の意図が読めず、首を(かし)げた。


「我々はカストの民だ」

「存じ上げております」

「エトゥールと敵対している」

「はい」

「なのに治療を?」

「エトゥールには治療をしてはいけないという法はありません」


 二人の会話は微妙(びみょう)()み合っていなかった。


「そうではなく」

「私はエトゥール人ではありません」

「だが、未来の王妃だ」

「それが治療と何か関係していますか?」

「なぜ関係ないと思うのだ」


 ガルースは辛抱(しんぼう)強く語った。

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