(9)治療④
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「俺は、まだ夢の中なのか?!」
ディヴィの狼狽の叫びに反応したのはガルースだった。
「夢?」
「あ~~、手の指が治っている夢を見たんですよ……」
「まさか草原で?」
「なんでわかるんですかっ?!」
「私に文句を言った」
ディヴィはその言葉に硬直した。
「……俺が?」
「お前が、だ」
「……俺……寝言でもいいました?」
「いや、夢の中で私に面と向かって、文句を言った」
「――」
「――」
双方が黙り込んだ。
「あの……」
恐る恐る挙手したのは、使節団で一番若いセドゥだった。まだ二十代の彼は、ためらいつつ申告した。
「俺も夢を見ました。副長が閣下を怒鳴ってました」
「――」
「馬鹿野郎、そ、そんな不敬を、俺が――」
「いつもしてるな」
ガルースは、あらためて全員を見渡した。
「これから聞くことは、ここだけの話にする。異端としての告発も、不敬に関する体罰もなしとする。夢を見た者は?」
全員が手をあげた。
「地平線まで広がる草原の夢を見たものは?」
またもや、全員が手をあげた。
「ディヴィが私を罵った夢の記憶がある者は?」
「副長が王を批判していました」
「いつまで愚王に仕えるのか、と」
「あの馬鹿に忠義を果たす意味がわからない、と」
「言論の自由を主張していました」
多数の証言の発生に、ディヴィは言い訳をしようとしたが、ガルースは片手をあげて押しとどめた。
「不敬は不問だと言っただろう……他には?」
皆が黙り込んだ。
「異端としての告発はなしだと言っただろう」
「閣下が……その……死んだ白豹と……会話を……かわして……」
「確かに私にもその記憶がある」
ガルースの肯定に、またしても皆が黙り込んだ。
「いやいやいや、ありえないでしょう」
ディヴィが引き攣った笑いを漏らした。
「皆が同じ夢を見たと?ないないない、絶対にない」
「だが、これだけ証言が揃っている」
「そ、そうだ、きっと集団幻覚だっ。薬を盛られたに違いない。あの魔女が何かしたに違いないっ!!絶対にそうだっ!!」
「魔女がどうかしましたか?」
銀髪の魔女が、専属護衛と侍女達を引き連れて部屋に入ってきた。
まさかの本人登場にディヴィは焦り、怒鳴った。
「ノ、ノックぐらいしろっ!!エトゥールには、そんな礼節もないのかっ?!」
「5回ほどしました。気づいてもらえないと判断しましたので、無許可で入室しました」
長い銀髪の賢者が無表情で、ディヴィをやり込めた。それから彼女はガルースを見た。
「ガルース将軍閣下。左眼の視界は回復したばかりなので、遠近感が掴めないと思います。立ちくらみなどで、転倒しないよう、ご注意ください」
「左眼の犯人は君か?」
「犯人?」
「剣で潰された左眼が見える」
「見えなければ、困ります。苦労しました。「犯人」が「治療した」と同義語ならば、確かに犯人は私です」
魔女はあっさり認めた。
「ディヴィの左手も?」
「はい」
「なぜ?」
「治療を宣言したはずですが?」
賢者は、ガルースの質問の意図が読めず、首を傾げた。
「我々はカストの民だ」
「存じ上げております」
「エトゥールと敵対している」
「はい」
「なのに治療を?」
「エトゥールには治療をしてはいけないという法はありません」
二人の会話は微妙に噛み合っていなかった。
「そうではなく」
「私はエトゥール人ではありません」
「だが、未来の王妃だ」
「それが治療と何か関係していますか?」
「なぜ関係ないと思うのだ」
ガルースは辛抱強く語った。




