(7)治療②
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「なぜ、礼を言うのだ?私達は殺した側だ」
ガルースは思わず声に出して、聞き直した。
死んだ白豹からの言葉をもらった恐怖心より好奇心がまさった。白豹は彼方で走ることをやめ、その場に立ち止まり、遠くからガルース達を見つめていた。
「礼を言われる立場などではない」
ガルースの問いに、声が再び頭の中に響いた。
――貴方達が殺したわけではない
思わずガルースは部下達を振り返った。ガルースの問いかけの視線に、蒼白になって頷いているのは、ディヴィだった。
「声が……聞こえる……」
冷静で大胆不敵な副官がパニックに陥りかけていた。それが夢にしては、リアルだった。
ガルースは他の部下に聞いた。
「お前達にも聞こえたか?」
「は、はい」
「頭の中にはっきりと」
「男性か女性かよくわかりませんが」
「これは夢……だよな?」
ガルースは思わず副官に確認してしまった。
「夢に決まってるでしょ?!殺された獣が走って、喋って――次は、こちらを食い殺しにくるのが、悪夢の定番ですって!」
「それは初耳だ」
再び会話をこころみようとするガルースは、ディヴィが慌てて止めた。
「やめましょうっ!話しを続けるとか、話しかけるとか、話題をふるとか、絶対にやめましょう!――呪われるっ!絶対に呪われるっ!」
「だが教団が禁じる悪魔との対話なんて、夢の中でしかできないぞ?」
「夢の中でも破門のレベルですって」
「破門か……それも悪くない」
「クソジジイっ!たまには人の忠告をきけっ!」
ディヴィが暴言を吐いたが、ガルースは無視して、遠くの獣に話しかけた。
「私達の王が殺した」
――そう、殺したのは王だ 貴方達ではない
「私達が仕えている王だ」
――だが貴方達は、その王に逆らい、メレ・エトゥールの警告を信じ、街に住むカストの民を救った
「――」
――その時、私の死は無駄ではなくなった
――4度目の試みで民を救うことができた
――貴方達の勇気と行動力は賞賛に値する
「……私達は敵国の民だぞ」
――世界に国境をひいたのは人間のなしたこと
――私達の中に国境は存在しない
――皆、同じ地上の民だ
ガルースは価値観の相違に絶句した。
「これ……本当に悪魔の使いかよ……」
ディヴィのつぶやきの言葉が、ガルースの気持ちを正確に代弁した。
夢の中の悪魔の使いである獣は、知的で寛容で慈悲深かった。こんなことがあっていいのだろうか?
崩れていく。今までガルースの中で信じていた世の中の教義が、崩れていくことをガルースは、はっきりと感じた。
いや、これは夢だ。自分の罪の意識が具象化しているに違いない。
――夢であり、夢ではない
エトゥールの使者は、ガルースの心を読み取ったように言った。
「夢ではない?」
――賢者に聞いてみるといい
――私も少し貴方と、話がしてみたかった
「……なぜ?」
――貴方達は、私の亡骸を谷底に捨てることもできたからだ
――命の危険を自覚しながらもエトゥールに送り届けてくれた
――そのことに深く感謝している
――それを伝えたかった
夢だというのに、ガルースは底知れない敗北感を覚えた。
悪魔の使者の方が、遥かに知的で礼節があり、高貴だった。カストの欲にまみれた司祭より、高潔ではないだろうか?
「聞きたいことがある。星はまだカストに落ちるのか?」
――賢者が知っている
――だが貴方の王は聞く耳を持たないだろう
そうだろう、とガルース自身が思った。
「……人がたくさん死ぬと?」
――カストでは、すでにどこよりも多く死んでいる
耳が痛かったが、事実だった。
「どうすればいいんだ?」
――貴方が守りたいのは王か?民か?
「……民だ」
――金髪の賢者に聞いてみるといい
「あの青年に?」
ガルースは戸惑いを見せた。




