表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第20章 大災厄(2)
735/1015

(6)治療①

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。

ブックマーク、ダウンロードありがとうございます!

新しい読者の方が増えて嬉しく思います。

 ガルースは夢を見た。

 明晰夢(めいせきむ)で、冷静に夢を見ていることを自覚した。地平線まで穏やかな草原が広がる長閑(のどか)な光景を見ていた。

 夢だと思ったのは、明るいのに太陽がどこにもないことと、自分は使者として現在エトゥールにいる記憶があったからだった。


綺麗(きれい)な夢っすね」


 声がして、振り向くとディヴィをはじめとする部下達が立っていた。皆、ガルースがエトゥールに旅立つため、同行を申し出た面々だった。

 夢の中で「夢」と部下に指摘される。それはなかなか面白かった。


「どうして夢だと思う?」

「だって、隻眼(せきがん)のガルース将軍に両目がありますもん」


 指摘に驚いたガルースは、ようやく気付いた。慌てて片目ずつの視野を確認する。確かに左目の視界が確保されていた。


「驚いたな。なるほど……これはいい夢だ」

「でしょ?」


 ディヴィは笑いながら、左手をひらひら振って見せた。ディヴィの欠損(けっそん)した左手の小指と薬指が元に戻っていた。


「……お前の指が生えている……」

「だから夢だと言ってるじゃないっすか。身体も軽いし、こいつはいいや。別に酒も飲みたくならないし――」

「思い出した。お前は言いつけを破り、飲酒したな」

「夢の中まで、説教は勘弁(かんべん)ですぜ?!」


 ディヴィは慌てたように、言った。


「説教ではない、私はお前の身体を心配しておる。私に残された家族と言えるべき存在は部下(おまえたち)だけだ」

「……(じじい)の殺し文句かよ……」


 ディヴィは不満そうな顔をした。


「じゃあ、この(さい)、言わせてもらえますがねっ!いつまであの愚王(ぐおう)に仕えているつもりですが!あの馬鹿は先王ではない。十分義理は果たしたでしょう?!あんたの今までの功績(こうせき)を無視して、あげくの果てに異国で死んでこいっ、ときた。俺達は、あの謁見(えっけん)の場で死んでいても不思議じゃなかった!そこまで、あの馬鹿に忠義を果たす意味がわかんねぇよ!」


 夢とはいえ、これはディヴィの本音だろう。激高(げきこう)ぶりがリアルだった。


「そうだな。忠義は十分果たしたと思う」

(たみ)は飢えているのに、あの馬鹿はそれを無視して贅沢三昧(ぜいたくざんまい)だ」

「ディヴィ、それぐらいでやめておけ」

「夢の中ぐらい、言論の自由があってもいいでしょうがっ!」


 不貞腐(ふてくさ)れたようにディヴィは、草原に寝ころんだ。現実世界では上官を前にして許されない規律違反だった。


「……俺はね、いや、俺達は、ガルース将軍、あんたに死んでもらいたくないんだ」

「――」

頑固(がんこ)だし、鬼教官だし、禁酒を強制するし、愛想もない厳しい糞爺(くそじじい)だし――」

「………………おい」

「でも、最高の上官で、俺達は他の誰にも(つか)える気はない。だから俺達はこの悪魔の国まで同行してきたんですよ。もう東国(イストレ)に亡命してくれてもいいじゃないっすか」

「だがお前達には家族がいる」

「俺達は全員、離縁(りえん)してきました。今頃、家族は田舎に帰っているはずです」

 

 ガルースは愕然(がくぜん)とした。夢とはいえ衝撃的だった。だが、ディヴィ達ならやりかねない。夢から覚めたら、確認してみる必要がある。


「これは夢だよな?」

「夢だから、俺は思いっきり不敬で斬首(ざんしゅ)になる文句を言ってますがね?」

「いつものことじゃないか」


 ディヴィは寝ころんだままだった。ほかの面々も草原に腰を下ろし始め、二人の会話を見守っている。


「だいたい――あっ!!」


 ディヴィは跳ね起きた。

 彼の異変に全員が緊張した。


「どうした?」

「あ、あれ――」


 蒼白になって、ディヴィは草原の彼方を指さす。

 光がきらきらと輝く中、一頭の獣が広い草原を横切って疾走していた。なぜだがわからないが、その姿は喜びに満ち溢れているように感じた。

 不幸に惨殺されたエトゥールの特使である白豹(しろひょう)に似ていた。いや、あの白豹(しろひょう)に違いない。


――ありがとう (かえ)ることができた


 そんな言葉が脳裏に響いた。

 (かえ)る?(かえ)る?まさかこちらに礼を言ってるのではあるまいな?

 ガルースは困惑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ