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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
726/1015

(58)閑話:マニュアルを読もう④

お待たせしました。本日分の更新です。

お楽しみください。

 ディム・トゥーラは試されていると感じた。

 アードゥルは変えられない過去の事実を淡々と語り、ディム・トゥーラの反応を見ている。


『あんたがイーレの原体(オリジナル)を大切にしていたのは理解できるし、その元凶になった氏族(しぞく)の子孫まで根絶やしにしたい感情もわかる。地上の民に関しての、あんたの行動を批評する権利は俺にはない。――まあ、カイルは、いろいろ言うだろうな』


「実際に言われた」


『情がないとか?』


 エルネストの方が、片眉(かたまゆ)をあげた。


『大丈夫だ、俺も言われている』


「私達は情なし軍団か」

「地上にどうやって情をもてと言うんだ?」

「アードゥル、そこはミオラス以外と正確に言うべきだ」

「うるさいぞ、エルネスト」


 ディム・トゥーラは、なんとなく察した。

 エレン・アストライアーの支援追跡者(バックアップ)であったエルネストは、彼女の死後、その伴侶であったアードゥルをさりげなくフォローし続けたのだ――相性は別にして。


『俺はどちらかというと、姫を最悪のケースで亡くした時、カイルがあんたと同じ憎しみの道を辿りそうな気がして、そちらの方が怖い。感情の行き場をなくして、地上はひどいことになる』


「例の地震のように?」


『そう』


 ディム・トゥーラはあっさりと認めた。


『あの時、カイルはコントロールを失った。俺の大失態の一つだ。俺は大災厄とともに、そちらの方をひそかに恐れている』


「だが、姫との寿命(じゅみょう)の差異は納得しているのだろう?」


『それと事故死は違うだろう?その心情はあんた達の方が、それこそ理解できると思うが?突然、心の支えを失うんだぞ?」


「確かにアードゥルは、底なしに不安定になった」

「エルネスト、うるさいぞ」

「事実は事実として認めるべきだ。カイル・リードの支援追跡者(バックアップ)を挑発している場合じゃないぞ」


 やはり挑発されていたのか――初代はやはり、曲者が多い、とディム・トゥーラはため息をつき、その事実を受け入れた。


「安定を取り戻し始めたのは、ミオラスと出会ってからだし、ロニオスとの再会がきっかけでもある」


『最近じゃないか』


「そうだとも。だから、彼が捻くれているのは、大目に見てやってくれ」

「本当にうるさいぞ、エルネスト」

「フォローしているんだ」

(おとし)めるの間違いだろう」


 ディムは笑いの思念を漏らしてしまった。


『いいコンビだな』


「「やめてくれ」」


 初代達は不本意だと言わんばかりに、ウールヴェに抗議をした。






 カイル・リードと姫の安全を最優先にする――とりあえず、そういう結論に達した。とりあえず、というのは、カイルが起こした地上の騒動が多すぎて、対応策の討論に終わりが見えなかったからだ。


「君は、よく彼の支援追跡(バックアップ)を引き受けたなあ」

「全くだ」


 初代の視線の同情の視線が痛かった。


『同情するなら協力してくれ』


 思わず飛び出たディム・トゥーラの本音に、初代達はあっさり承諾した。


「いいだろう、ロニオスの息子の地上での保護は引き受ける」


 アードゥルの方が先に言い出した。


「だが、暴走時は制御の保証はない。それだけは留意してくれ」


『野生のウールヴェの制御はできないと』


「野生のウールヴェの方が、まだ素直で可愛いレベルだ」


 アードゥルは、酷評した。


『……そうか……あのマンモス猪が可愛いレベルなのか……』


「君も、カイル・リードとの付き合いが長すぎて、感覚が鈍くなっているのではないか?」


『そうかもしれない』


「まちがいなく、ロニオス級の問題児だ」


『……そんな認定は嫌だ……俺はあの親子に振り回されるのか』


「同情を禁じえない」

「ところで、この書はどうする?」


『まだまだ読み解く必要がある。カイルにバレないように預かってほしい』


「それはいいが、読み解いてもカイル・リードの問題児レベルが上がる一方で、そのうちカンストするぞ?」


 絶望の先見をエルネストはした。

「カイル・リードの傾向と対策」製作委員会が設立された模様。

だが、彼等はカイル・リードの問題児レベルが、とっくの昔にカンストし、限界突破していることをまだ知らなかった。

(作者特別ナレーション)

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