(58)閑話:マニュアルを読もう④
お待たせしました。本日分の更新です。
お楽しみください。
ディム・トゥーラは試されていると感じた。
アードゥルは変えられない過去の事実を淡々と語り、ディム・トゥーラの反応を見ている。
『あんたがイーレの原体を大切にしていたのは理解できるし、その元凶になった氏族の子孫まで根絶やしにしたい感情もわかる。地上の民に関しての、あんたの行動を批評する権利は俺にはない。――まあ、カイルは、いろいろ言うだろうな』
「実際に言われた」
『情がないとか?』
エルネストの方が、片眉をあげた。
『大丈夫だ、俺も言われている』
「私達は情なし軍団か」
「地上にどうやって情をもてと言うんだ?」
「アードゥル、そこはミオラス以外と正確に言うべきだ」
「うるさいぞ、エルネスト」
ディム・トゥーラは、なんとなく察した。
エレン・アストライアーの支援追跡者であったエルネストは、彼女の死後、その伴侶であったアードゥルをさりげなくフォローし続けたのだ――相性は別にして。
『俺はどちらかというと、姫を最悪のケースで亡くした時、カイルがあんたと同じ憎しみの道を辿りそうな気がして、そちらの方が怖い。感情の行き場をなくして、地上はひどいことになる』
「例の地震のように?」
『そう』
ディム・トゥーラはあっさりと認めた。
『あの時、カイルはコントロールを失った。俺の大失態の一つだ。俺は大災厄とともに、そちらの方をひそかに恐れている』
「だが、姫との寿命の差異は納得しているのだろう?」
『それと事故死は違うだろう?その心情はあんた達の方が、それこそ理解できると思うが?突然、心の支えを失うんだぞ?」
「確かにアードゥルは、底なしに不安定になった」
「エルネスト、うるさいぞ」
「事実は事実として認めるべきだ。カイル・リードの支援追跡者を挑発している場合じゃないぞ」
やはり挑発されていたのか――初代はやはり、曲者が多い、とディム・トゥーラはため息をつき、その事実を受け入れた。
「安定を取り戻し始めたのは、ミオラスと出会ってからだし、ロニオスとの再会がきっかけでもある」
『最近じゃないか』
「そうだとも。だから、彼が捻くれているのは、大目に見てやってくれ」
「本当にうるさいぞ、エルネスト」
「フォローしているんだ」
「貶めるの間違いだろう」
ディムは笑いの思念を漏らしてしまった。
『いいコンビだな』
「「やめてくれ」」
初代達は不本意だと言わんばかりに、ウールヴェに抗議をした。
カイル・リードと姫の安全を最優先にする――とりあえず、そういう結論に達した。とりあえず、というのは、カイルが起こした地上の騒動が多すぎて、対応策の討論に終わりが見えなかったからだ。
「君は、よく彼の支援追跡を引き受けたなあ」
「全くだ」
初代の視線の同情の視線が痛かった。
『同情するなら協力してくれ』
思わず飛び出たディム・トゥーラの本音に、初代達はあっさり承諾した。
「いいだろう、ロニオスの息子の地上での保護は引き受ける」
アードゥルの方が先に言い出した。
「だが、暴走時は制御の保証はない。それだけは留意してくれ」
『野生のウールヴェの制御はできないと』
「野生のウールヴェの方が、まだ素直で可愛いレベルだ」
アードゥルは、酷評した。
『……そうか……あのマンモス猪が可愛いレベルなのか……』
「君も、カイル・リードとの付き合いが長すぎて、感覚が鈍くなっているのではないか?」
『そうかもしれない』
「まちがいなく、ロニオス級の問題児だ」
『……そんな認定は嫌だ……俺はあの親子に振り回されるのか』
「同情を禁じえない」
「ところで、この書はどうする?」
『まだまだ読み解く必要がある。カイルにバレないように預かってほしい』
「それはいいが、読み解いてもカイル・リードの問題児レベルが上がる一方で、そのうちカンストするぞ?」
絶望の先見をエルネストはした。
「カイル・リードの傾向と対策」製作委員会が設立された模様。
だが、彼等はカイル・リードの問題児レベルが、とっくの昔にカンストし、限界突破していることをまだ知らなかった。
(作者特別ナレーション)




