(57)閑話:マニュアルを読もう③
祝・連載3年目突入!
今後とも応援よろしくお願いします。
準備が間に合いませんでしたが、そのうち殴り書きキャラ設定を連載継続祝いで掲載したいと思います(あくまでも予定)
二人と一匹は、気を取り直して、さらにメレ・エトゥールの手記の検分を再開した。現地語の文章の翻訳は自動でなされたが、それでも表現的に理解できない箇所がいくつかあった。
『この記述がわからない。舞踏会でカイルが「敬服する殿の勇気を示した」とある。これの意味は?』
ディム・トゥーラは、貴族としての生活の経験があるエルネストに尋ねた。
「風習として、エトゥールの舞踏会では三曲目の相手は、婚約の承諾と見なされるので、貴族の令嬢が、金髪の賢者に対して包囲網をひいたのだ」
『――』
「彼は離れた場所にいる姫に申し込むために、その包囲網に特攻をかけた」
『…………馬鹿?』
「場を目撃した私も、当時は同じ感想を抱いた」
エルネストは頷いた。
「これ以上、目立つ行為はなかった。もしや、彼の作戦だったのだろうか?」
『そんなことは絶対に考えていない』
支援追跡者は、フォローもせずにばっさりと切った。
「そんな気はした……。だが、君もエル・エトゥールの初社交の騒動を鎮圧するのに、一枚噛んでいたのではないのか?君の支援追跡対象者は、貴族の令嬢に囲まれて四苦八苦していたぞ?」
『あの襲撃はメレ・エトゥールに予想され、俺達は第一兵団のフォローに回っていた。腹芸ができないカイルには襲撃について黙っていた』
「ロニオスの息子には気の毒だが、正しい判断だ」
『俺はあの時は襲撃者の数のカウントに忙しかった。離宮内は、イーレとサイラスに任せていたから、その騒動を見ていない』
「記録があるなら、探してみるといい。2曲目と3曲目の間の小休憩の出来事だ。笑えると思う」
『探してみよう』
イーレが西の地に飛ばされて、カイルが慌てる記述には、エルネストとアードゥルの方が反応した。
「エレン……いや、イーレの確定座標がずれたのは、本当だったのか」
エルネストの呟きとともに、アードゥルは完全に表情を消していた。
「なぜ、こんな事故が?」
『俺にはわからない。この時、俺は大災厄のために中央に向かっていた。ここからは俺もよく知らない話だ』
「イーレを保護したのが、若長ハーレイの氏族で幸いだったな」
『そこらへんは世界の番人の配慮があったはずだ。カイルは世界の番人との交渉において、協力する条件に仲間の安全をだした』
ウールヴェはアードゥルを見た。
『この時、精霊鷹を落としたのは、あんたか?』
「そうだ」
『西の地とエトゥールの間に不和をまくために?』
「――」
「私に解説させてくれ」
意外なことに、エルネストがアードゥルを庇うように挙手をした。
「ハーレイの氏族が、エトゥールと対立したのは、メレ・エトゥールの親族の企てであり、我々は直接的に関知していない。アードゥルが根絶やしにしようとしてたのは、南の氏族で、エレン・アストライアーを殺害した血族だ」
エレン・アストライアーの件では、エルネストは感情を押し殺し、淡々と語った。
「エレン・アストライアーの殺害に関与した氏族は、複数で二つは当時我々で壊滅した。生き残りは、二つの血脈に分かれた。西の地に残り精霊信仰を続けたものと、精霊信仰を捨てたものだ」
『精霊信仰を捨てた?』
「エトゥールの北北東に国境を接するカスト――精霊信仰を捨て、エトゥールへの侵略を試みる小国だ。この国は注意した方がいい。東国は文化的に治安が悪く野蛮だが、カストはもっと危険だ。宗教的観点から、精霊信仰の厚いエトゥールや先祖が一致する西の地を攻撃の対象にしている。独裁的な国家元首の狂信的な崇拝で成り立っている」
『それは、エトゥールと戦争をした国だよな?北に砦を持つ侵略国家で、カイルの書いた地図が防衛に生かされた――』
「……エトゥールの国力を削ぎつつ、カストを撃退するシナリオだったが、上手くいかないものだ」
「アードゥル」
アードゥルの呟きに、エルネストが嗜めた。
「ほぼ、エトゥールは無傷だったではないか」
「アードゥル、ディム・トゥーラを刺激するな。その件で、カイル・リードは巻き込まれている」
「私が、彼を地上に引きずり下ろしたわけでもないし、彼の存在を知っていたわけではない。むしろ、こちらの計画は、邪魔された」
続きます。
あれ?なんかシリアス路線になっちゃったぞ?




