(56)閑話:マニュアルを読もう②
2021年2月20日から連載開始、明日で3年目に突入します。
まる2年継続できたのは、読んでいただいた皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
(2022年2月19日は記念でTwitterを開始したけど、今年は何をしよう)
今後ともよろしくお願いします。面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします!
「自己肯定が低い?冗談だろう」
アードゥルが驚いていた。
『自己肯定、自己評価がとても低い。自分が注目に値する人物だと思っていない』
「西の地と東国で対立した時は、私と堂々と渡り合ったぞ?あれだけの能力をもちながら自己肯定が低いとはありえないだろう?」
『もちながら、だ。それに関しては、多分自覚はない。それに極端に人に拒絶されることを恐れる。おそらく幼少期からの体験からきている。心的外傷の一種だ。隔離して育てられたから、孤独を恐れている』
カイルは支援追跡者であるディム・トゥーラが去っていくことを極端に恐れていた。今までの生活の中で、同調能力と精神感応で周囲の人々の本音を悟っていたのだろう。
何度言っても、支援追跡の解消を危惧するカイルに、半ば腹をたてていたディム・トゥーラは、カイルの見えない傷の遠因とその深さに憂いた。
『心的外傷を癒し、自信と自覚を持たせる必要がある。癒しの方は、姫に担当してもらうとして、自信と自覚――どうやって持たせればいいんだ』
「自信とは、承認欲求を満たされることで、生まれる。褒めれば、いいじゃないか」
『何を?』
ウールヴェは切り返した。
『カイルは無自覚な人たらしで、お人好しで、自己犠牲が強くて、本能で突っ走る馬鹿だ。褒めて、人たらしとお人好しと自己犠牲を限界突破させたくない。人たらしの犠牲者とお人好しの利用者が増殖されるだけだ』
「あー、君の危惧は理解できる。そもそも支援追跡者は、対象者の精神的保護と、それを利用しようと企む者を排除することにある」
『初耳だ』
「初耳だって?500年たって、支援追跡者の定義が変わったのか?君をカイル・リードの支援追跡者に指名したのは誰だ」
『所長のエド・ロウ』
エルネストとアードゥルは絶望感に呻いた。
「エド・アシュルか……ジェニ・ロウとロニオスを加えれば、三大ラスボスじゃないか……」
「ディム・トゥーラの性格を読んで、説明を省いているな」
「ほっといても排除すると考えたのか。相変わらずの性格だ」
上司の古狸ぶりが、第三者認定を受けて、ディム・トゥーラは複雑な気分に陥った。カイルのことがなければ、絶対に転属希望を出していたことだろう。
「性格を褒めずに、能力を褒めるとか」
『規格外だと、いつも褒めている』
「「それは褒め言葉か?」」
初代から同時に突っ込みを受け、ウールヴェはむっとしたようだった。
『俺にとっては最高級の褒め言葉だ。じゃあ、あんた達はロニオスの能力をなんと言って褒めるんだ?』
初代の二人はその難解な課題に、しばし真剣に検討した。
「………………規格外……かもしれない」
ほら、見ろ、とウールヴェの視線が露骨に語っていた。
『本人にもちゃんと「規格外」が褒め言葉だと説明してある』
「いや、説明の必要な言葉を採用するのはどうかと思うが……もっと普通の褒め言葉もあるだろう」
『よくやった、とか?』
「そうそう、そういう類が――」
『カイルにとってできて当たり前のことだ。カイル以外には、ちゃんと言ってる』
「――」
「――」
「これは面倒くさい事例だな」
「ディム・トゥーラは、中央の教育を受けている。それを考えれば、無理もない」
「ディム・トゥーラ、君は重要なことを一つ見落としている」
エルネストが指摘をした。
「カイル・リードは、中央の教育を受けた幹部候補生ではない。その点で君の採点は厳しすぎないか?むしろ、よく君と渡り合っていると盛大に褒めるべきだ」
虎のウールヴェは固まったようだった。エルネスト達はその反応を正確に分析をした。
「どうやら、その事実を失念していたようだ」
「カイル・リードも気の毒に……」
「カイル・リードが幹部候補生にならなかったのは、よくわかる。それこそお人好しすぎる。情がありすぎるんだ。絶対に初回の性格判定試験で不合格だ」
「さて、ディム・トゥーラ。カイル・リードを褒めるための、言語辞書を作成しようか。言語事例は、いくつあってもいいだろう?」
『…………よろしく頼む……』
白虎がイカ耳になり、やや反省している姿は、なかなか可愛いものだ、とアードゥルは密やかに思った。
続きます。
カイル・リード取扱説明書、現在迷走中。(支援追跡者&初代2名)
『ディム・トゥーラは、褒め言葉スキル(対カイル)がレベル2になった!!』
ディム・トゥーラの褒め言葉スキルが低すぎるのは、仕様です。(作者談)




