(55)閑話:マニュアルを読もう①
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研究材料というものは埋没しているものだ。ディム・トゥーラはそう思っている。
超古代遺跡などは、探知機で発見、専用機械でひそやかに発掘調査ができる。
しかし、真に埋没しているものはそれ以外にある。
接触が禁じられている文明を解析するのは、それについて語っているご当地の古文書が必須だ。この資料は研究者に大人気だ。それがあれば、研究馬鹿達は目の色を変える。
だが法規制上、入手は困難を極める。この矛盾が、古文書を文明に埋没している聖遺物扱いの原因となっていた。
そもそも、接触が禁じられているのに、どうやって入手するのか。
カイルのように特異な事情で、大量の古書に接触し、記憶できるのは珍しいケースだった。
だからこそ、裏取引の材料になるほど価値があった。ディム・トゥーラは、いまだにそれを切り売りして、大災厄に対する協力を取り付けている。
こういうことに関する研究馬鹿の口の硬さと、結託ぶりは素晴らしいものがあった。
そして、今、ウールヴェ姿のディム・トゥーラと、地上の初代賢者の代表であるエルネストとアードゥルの3人は、一冊の真新しい書を前にしていた。
「エトゥール王、直筆の書とは、500年後の価値は計り知れない」
エルネストは素直に感想を述べる。研究者として目がキラキラしていた。
「臣下であった時期でも、目にできなかったレアな物だ」
『セオディア・メレ・エトゥールの覚書、兼日誌のようなものらしい。カイルに関することを抜粋してもらった』
「なるほど」
3人は興味津々にカイルの足跡をたどりはじめた。
3時間後、二人と一匹は精神的疲労でぐったりとしていた。
『なぜだろう、全力でセオディア・メレ・エトゥールに土下座して詫びたくなる』
「私は、この宿泊と3食昼寝付きを要求するふざけた行動にロニオスの遺伝子を深く感じる。実は息子ではなく、複製体というオチはないかね?」
「やめろ。カイル・リードがロニオスのコピーなら、私は即、逃亡の準備をする」
アードゥルの言葉にディムは突っ込んだ。
『ロニオスはあんたの支援追跡者だったのだろう?そこまで嫌悪するのか?』
「嫌悪ではない。ロニオスは私の元支援追跡者で、師であり、上司であり、愛すべき優秀なプロジェクトのリーダーで、尊敬していた」
『過去形なのは、気のせいか』
「彼が人格者とは一言も言っていない。むしろ言えない。人に迷惑をかけない、という条件について、ロニオスは大きく逸脱している」
『そこは親子で、そっくりだ』
「私がある意味、君に感心しているのは、ロニオスの支援追跡をしているようなものだからだ」
アードゥルはディム・トゥーラに、はっきり言った。
『俺はロニオスの支援追跡をしているわけでは――』
「ロニオスと息子の共通点が、この書に羅列されているのは気のせいか?」
『……例えば?』
「精霊鷹を受け入れようとしない頑固さ」
「ロニオスも頑固だった」
「牢屋に入っても、呑気に初見の西の民と交流を持っている」
「ロニオスも人たらしで、周囲を魅了していた」
「暗殺者に襲われた時の対処」
「修羅場で度胸があるのは遺伝子であることに一票だな」
「戦争の負傷者の治療に関しては、突っ込みどころが満載だ」
「自分の体内チップを使ったと推察するが、まさか使いつくしたわけではあるまい。いくらなんでも、そこまで馬鹿では――」
虎のウールヴェが、視線を彷徨わせたのを初代は見逃さなかった。
「………………」
「………………」
「馬鹿だったか……」
「馬鹿だったな……」
「君は苦労しているな」
「その問題児の支援追跡者をするとは、なんという献身だ」
エルネストは感動の涙を拭う振りをしているが、笑いを堪えているのは、肩が震えていたので明らかだった。
「それにしても自覚のなさが酷い」
「自分に関する情報収集能力が欠落している」
初代は容赦なく指摘した。
「この城下の初市のくだりは、特に酷い」
「ある意味、自覚を促したメレ・エトゥールの行動は正しい」
「定期的に自覚を促した方がいいな。絶対に3歩歩けば、自覚を忘れるタイプだ」
「鳥頭か」
「いや、鳥の方が賢いかもしれない。だが、記憶力はいいし、人の本質は見抜くのに、何故だろうな」
『…………自己肯定が低いからだ』
ぼそりとディム・トゥーラは、告げた。
続きます。
ちなみに今回の書にはシルビアに関する記述は、含まれておりません(シルビアに関する記述は、それはそれで面白い(メレ・エトゥール視点のシルビア観察日記)(完全に禁書)




