(49)講義⑤
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ディム・トゥーラは地上と自分たちの決定的な差を思い知った。
それは政治経済が安定していないために、生じるリスク管理と、その対策を施行する統率者としての才だった。
完璧に管理されている中央より、そのコントロールは遥かに難しかった。見下していた地上の方が、例えるなら盤上遊戯の超上級戦が展開され、より高度な技能を要求されていた。
複雑怪奇極まる。
これがロニオスを魅了した地上の特色の一つなのだろうか。
『後日、また講義をお願いしたい』
「こんな内容でよければ」
『この先の地上側の予想解析では、必要な分野になりそうだ』
「大災厄だけではなく、大災厄後の混乱をおさめることに手を貸してくれると?」
『大災厄後にカイルが姫と離縁してエトゥールを離れると思うか?』
「それこそ星が落ちてきてもないように思えるが」
『その通りだ』
虎のウールヴェは事実を認め、エトゥール王の前で愚痴った。
『そうなると俺の地上への協力も自動継続される仕組みだ。カイルはそれを見越している節もある。俺はすでに貧乏くじを引いているんだ』
メレ・エトゥールが笑いを漏らした。
「これは我が妹を褒める案件かな?よくぞカイル殿を口説き落とした、と」
『まあ、そうだが、実は最初から勝負はついてた』
「ほうほう」
『俺の世界ではこう言われている――惚れたら負け、と』
カイルは、過去に丸暗記したエトゥールの書物から該当する外国語の辞書を探しだし、シルビアが記録した動画を繰り返し視聴した。カイルの翻訳インプラントが新しい言語情報の記録をはじめた。
そのデータをクトリに渡す。
クトリは、撮影動画に自動翻訳されたエトゥール語の字幕がつくプログラムをすぐに作成した。
これには、ファーレンシアとメレ・エトゥールが驚いた。
メンバーの中で外国語を学んでいるのは、王族である二人だけだった。
「まあ、すごい。動く絵に、絵本のように文字がつきました」
「これは会話の内容ではないか」
「そう」
「驚くべき技術だ」
「翻訳の精度はどうだろう?」
カイルはメレ・エトゥールに意見を求めた。
「助詞や助動詞が拙いぐらいだ。未翻訳になっているのは、その国独特の表現や、貴族の婉曲な言い回しだな。だいたいの大筋は、あっている」
「学習が必要だなあ……」
「当面は十分だし、私達はわかるから補完できる」
カイルはミナリオを見た。
「外国の書は手に入る?」
「もちろんです」
「国境が隣接している国を優先でよい」
メレ・エトゥールは指示をかぶせた。
『イーレやサイラスも呼び出して、言語を学習させろ。異邦人が闊歩すれば目立つ西の地ではともかく、エトゥール内で間者を洗い出すには全員が言語修得しておいた方がいい』
ディム・トゥーラはカイルに指示した。その内容に絶望した表情でカイルは支援追跡者が同調しているウールヴェを見下ろした。
「その修得させる膨大な基本言語は誰がデータをまとめるの?」
『お前しかいないだろう』
「……そんな気はしたんだ」
『お前は優秀だ。お前ならできる』
カイルは少しだけ嬉しそうな顔をした。
「すぐにとりかかるよ」
カイルが離れたあと、シルビアが虎姿のディム・トゥーラの隣にそっと立って囁いた。
「ずいぶんと操縦方法がお上手になりましたね?」
『そうだな。木に登らせるぐらいはできるようになった』
「木どころか、大陸の最高峰の山脈まで踏破できそうです」
『そこまで単純じゃないだろう』
「そう思いますか?試してみたらいかがです?」
ディム・トゥーラは、シルビアの言葉にしばし考えこんだ。
『最高峰踏破後の下山途中で遭難したカイルを、探しに行く俺の姿が浮かんだから、試すのはやめておく』
想像結果が妙にリアルだった。
豚もおだてりゃ、木に登る――エベレストバージョン




