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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
716/1015

(48)講義④

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみください。

いつも最新話を読んでくださり、ありがとうございます!

『貴方はエトゥールでも同じことが起きたと言った』


「うむ」


『エトゥールの場合、どう、対処したんだ?』


「したではないか。協力してもらえて、非常に助かった」


『……………………』


 ディム・トゥーラは思い出した。


『……姫の初社交(デビュタント)の事件か……』


 セオディア・メレ・エトゥールは、女性を魅了(みりょう)するであろう穏やかな微笑でディム・トゥーラの言葉を認めた。


 あの事件のあと、カイルには襲撃の可能性を黙っていたことを散々(なじ)られた。あの襲撃撃退が鮮やかに成功したのは、出席の関係者が何も知らなかったことだと、ディム・トゥーラは密やかに思っている。


――晩餐会で襲撃があると予想される。狩ってもらいたいのはその襲撃者達だ


――……晩餐会が襲撃される、って誰に


――エトゥール国内の反乱分子、とでもしておこうか


 サイラスの依頼時の会話も、巧妙(こうみょう)に言葉が選ばれていたことに、ディムはようやく気付いた。


『確かに、サイラスへの依頼時に、言ってたな……』


「賢者の記憶力は素晴らしい。メレ・アイフェスは嘘を見抜くから、嘘は言わないように常日頃から心掛けている」


『なんと巧妙な……』


「それも権謀術数(けんぼうじゅっすう)の技術の一つだ」


 腹黒(はらぐろ)鬼畜(きちく)狡猾(こうかつ)――シルビアとカイルの酷評(こくひょう)は、ある意味正しいが、彼の策略に利用された負け犬の遠吠え的な要素も多大に含まれていた。


『……こりゃ、あいつらには勝てないな……』


 ディム・トゥーラの(つぶや)きの思念をメレ・エトゥールは聞き取った。


「あいつら、とは、メレ・アイフェス達のことか?外国勢か?」


『シルビア達のことだが、後者も含めても構わない』


「ありがたい評価だが、私でもメレ・アイフェスが予想の斜め上を突き進むことをどうにかしたい。何か助言は?」


『残念ながら、俺も常に模索(もさく)している課題だ』


「それは、『ない』の婉曲(えんきょく)的表現だな?」


『そうかもしれない』


「やれやれ」


 エトゥール王は、本当に残念そうに吐息をついた。


初社交(デビュタント)時のエトゥール内の反乱分子は、排除できたのか?』


「ある程度は。彼等はエトゥール王の暗殺を試みたから、処断の理由はつきることは、なかった」


『ある程度とは?』


 メレ・エトゥールは少し楽しそうだった。


「ディム殿は鋭いなあ。私の宰相(さいしょう)になっていただきたいぐらいだ」


『上司である初代達に嫌気がさしたら、転職口の一つとして、検討しよう』


「それは、私の寿命が尽きたあとかもしれない、というオチだな?」


『そうかもしれない』


 メレ・エトゥールは笑った。


「ある程度というのは、当然、蜥蜴(とかげ)尻尾切(しっぽき)りがあり、真の黒幕にはたどりつけない」


『初代もエトゥールの国力を()ぐために暗躍していた』


「知ってる。だが、こちらは外国勢に踊らされた私の親族の不始末に近い。私の父は凡庸だったから、つけ込む(すき)がありすぎて、その後始末を現在進行中で行っている状態だ。東国(イストレ)については、その初代達が黒幕の一人である老中を始末してくれたから、報酬金(ほうしょうきん)を渡したいくらいだ」


 ディム・トゥーラは複雑な気分に(おちい)った。問題のアードゥルは老中を始末したが、イーレとカイルを殺しかけているのだ。

 だが、ここで遭遇(そうぐう)してなければ、アードゥル達との縁はなかっただろう。


『だが、敵は東国(イストレ)のみではなかった』


「もちろん、そうだ。東国の老中は、五月蝿(うるさ)(ハエ)の類だ。何度か私の暗殺を試みてきた。叩き落としに行ったら、初代に先をこされたというのが事実だ。初代のアードゥルに、やはり礼を用意すべきだな」


 ディムは、アードゥルの敬称が略されていることに気づいた。初代メレ・アイフェスでも、犯罪者に近く、信用度の問題なのだろう。

 そういえば、カイルは、姫がエルネストの正体が判明しても、格下のエトゥール王の臣下として扱ったことを語っていた。


 地上は思ったより、複雑だ。

 それを理解するには、時間が必要だった。


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