(47)講義③
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみくださいませ。(腹黒メレ・エトゥールを)
「世界が退屈ならそれもいいかもしれないが、あいにくと私が考えているより広く謎に満ちているようだ。おまけに私はエトゥールの民で手がいっぱいだ。残念だ」
ディム・トゥーラは、セオディア・メレ・エトゥールを観察した。二十代半ばに見える年若いエトゥール王の本質が、底知れない野心家であったら大災厄後の方向も考慮するべきだった。
だが、そうは見えない。
いや、それすらもそう思わせる計算なのか。
ロニオスと同質の匂いがした。
『……なるほど、権謀術数か。貴方が専門家であることは、よく理解した。で、初級だとどういうレベルなのか?』
セオディアは面白そうな顔をした。
「続きがききたいと?」
『もちろんだ』
「綺麗な話じゃない」
『だと思う。カイルが嫌う類だろう。俺は平気だ。非常に興味がある』
「物好きな」
『学んでこいと言われている』
セオディアは小さな笑いを漏らした。
「では、初級編といこうか。エトゥールと敵対する国に対しての話だ。敵対国の基盤を揺るがすことを目的とする時、一番てっとり早いのはなんだと思う?これは、エトゥールでも、やられたことだが……」
メレ・エトゥールは近くのテーブルの椅子に腰をおろし、ウールヴェを見つめた。
「民衆を煽ることだ」
『――』
「この場合、煽動者が必要となるが、それは反組織である必要はなく、正義感あふれる貴族の若者とかがよい」
『……貴族の若者?』
「ある程度、財力があるが、地位を継ぐことができない貴族の三男坊などが狙い目だ。彼等は将来が不安定だ。国が変われば、地位が得られ、豊かな生活ができると勘違いしやすい。金を持っている貴族の方が貪欲だ。面白い傾向だろう?」
『人の本質ではないか?』
「私もそう思う」
メレ・エトゥールは同意した。
「彼等は自分の貪欲さを、大義名分の陰に隠し、封じる。その証拠に貧民には手を差し出さない。平民までは存在を認めても、その下の貧民はないものとする。大陸に蔓延する差別だ。西の民も差別されている。ちなみに、シルビア嬢のエトゥールでの施療院が成功したのは、貧民を救ったことにある」
シルビアの施療院がそんなところで、絡んでくるとは、ディム・トゥーラは思わなかった。
『貴方はシルビアを利用したのか?』
「それは心外だ。私はシルビア嬢とカイル殿の希望を叶えただけだし、シルビア嬢は聡明だがら、黙って利用されるタイプじゃないだろう」
『……まあ、そうだが……』
「彼女を口説き落とすための、外堀を埋める努力は相当なものだった。なかなか手強かった」
ちらりとセオディアはカイルと話しているシルビアに視線を投げた。
『シルビア達を守って、くれるならいい』
「精霊の聖名にかけて誓おう」
ディムは、内心ほっとした。
腹黒、狡猾とカイルもシルビアも酷評するメレ・エトゥールのシルビアに対する想いは真摯なものであることは、悟った。
『で、馬鹿な貴族をどうするんだ?』
ディムは講義の先を促した。
「自分を正義の味方だと陶酔させ、国内の不満分子を集め、自己判断をもてない流されやすい民衆を扇動し、混乱を生み出してもらう。本人達は、まさか敵対している外国が背景にいると思わないし、その真実を知っても認めないだろう。プライドが邪魔をする」
メレ・エトゥールは膝を組んだ。
「彼等は正義を振りかざし、民衆を煽り、暴動を引き起こすだろう。それは国力を削ぎ、混乱を招く。その混乱こそが敵対国の思う壺なのだが、誰も認めないだろう。認めたら、自分達の存在意義が揺らぐ。それをまた利用される。一種の永久機関の出来上がりだ」
『待ってくれ』
ディム・トゥーラは、講演者を止めた。




