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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第19章 大災厄(1)
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(47)講義③

お待たせしました。本日分の更新になります。

お楽しみくださいませ。(腹黒メレ・エトゥールを)

「世界が退屈ならそれもいいかもしれないが、あいにくと私が考えているより広く謎に満ちているようだ。おまけに私はエトゥールの(たみ)で手がいっぱいだ。残念だ」


 ディム・トゥーラは、セオディア・メレ・エトゥールを観察した。二十代半ばに見える年若いエトゥール王の本質が、底知れない野心家であったら大災厄後の方向も考慮するべきだった。

 だが、そうは見えない。

 いや、それすらもそう思わせる計算なのか。



 ロニオスと同質の(にお)いがした。



『……なるほど、権謀術数か。貴方が専門家であることは、よく理解した。で、初級だとどういうレベルなのか?』


 セオディアは面白そうな顔をした。


「続きがききたいと?」


『もちろんだ』


綺麗(きれい)な話じゃない」


『だと思う。カイルが嫌う類だろう。俺は平気だ。非常に興味がある』


「物好きな」


『学んでこいと言われている』


 セオディアは小さな笑いを()らした。


「では、初級編といこうか。エトゥールと敵対する国に対しての話だ。敵対国の基盤(きばん)を揺るがすことを目的とする時、一番てっとり早いのはなんだと思う?これは、エトゥールでも、やられたことだが……」


 メレ・エトゥールは近くのテーブルの椅子に腰をおろし、ウールヴェを見つめた。


「民衆を(あお)ることだ」


『――』


「この場合、煽動者(せんどうしゃ)が必要となるが、それは反組織である必要はなく、正義感あふれる貴族の若者とかがよい」


『……貴族の若者?』


「ある程度、財力があるが、地位を継ぐことができない貴族の三男坊などが狙い目だ。彼等は将来が不安定だ。国が変われば、地位が得られ、豊かな生活ができると勘違いしやすい。金を持っている貴族の方が貪欲(どんよく)だ。面白い傾向だろう?」


『人の本質ではないか?』


「私もそう思う」


 メレ・エトゥールは同意した。


「彼等は自分の貪欲(どんよく)さを、大義名分の(かげ)に隠し、封じる。その証拠に貧民(ひんみん)には手を差し出さない。平民までは存在を認めても、その下の貧民(ひんみん)はないものとする。大陸に蔓延(まんえん)する差別だ。西の民も差別されている。ちなみに、シルビア嬢のエトゥールでの施療院(せりょういん)が成功したのは、貧民(ひんみん)を救ったことにある」


 シルビアの施療院(せりょういん)がそんなところで、(から)んでくるとは、ディム・トゥーラは思わなかった。


『貴方はシルビアを利用したのか?』


「それは心外だ。私はシルビア嬢とカイル殿の希望を(かな)えただけだし、シルビア嬢は聡明(そうめい)だがら、黙って利用されるタイプじゃないだろう」


『……まあ、そうだが……』


「彼女を口説き落とすための、外堀を埋める努力は相当なものだった。なかなか手強(てごわ)かった」


 ちらりとセオディアはカイルと話しているシルビアに視線を投げた。


『シルビア達を守って、くれるならいい』


「精霊の聖名(みな)にかけて誓おう」


 ディムは、内心ほっとした。

 腹黒、狡猾とカイルもシルビアも酷評するメレ・エトゥールのシルビアに対する想いは真摯(しんし)なものであることは、悟った。


『で、馬鹿な貴族をどうするんだ?』


 ディムは講義の先を(うなが)した。


「自分を正義の味方だと陶酔(とうすい)させ、国内の不満分子を集め、自己判断をもてない流されやすい民衆を扇動(せんどう)し、混乱を生み出してもらう。本人達は、まさか敵対している外国が背景にいると思わないし、その真実を知っても認めないだろう。プライドが邪魔をする」


 メレ・エトゥールは(ひざ)を組んだ。


「彼等は正義を振りかざし、民衆を(あお)り、暴動を引き起こすだろう。それは国力を()ぎ、混乱を(まね)く。その混乱こそが敵対国の思う壺なのだが、誰も認めないだろう。認めたら、自分達の存在意義が()らぐ。それをまた利用される。一種の永久機関の出来上がりだ」


『待ってくれ』


 ディム・トゥーラは、講演者を止めた。

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