(46)講義②
開き直りの寝落ち朝投稿再びです。
お楽しみくださいませ。
メレ・エトゥールは静かに語った。
「私は世界の滅亡を救うという大義名分で、王都を差し出す代わりに、途方もない賢者の知恵という切り札を得た。では、エトゥールの王都が壊滅的な被害を受ける今、外国の侵略をどう食い止めるか?この場合いくつかの手法がある」
『どんな?』
「一つは、西の民のように友好関係を結ぶ」
『順当だな』
「もう一つは貿易分野で関係を築く。東国などがそれにあたる。戦争は貿易の停止を意味し、経済の衰退に繋がる。貿易大国である東国は、大陸の中心にあり貿易路の一部でもあるエトゥールと戦争を行うことはない。自らの首を絞めることになるからだ。せいぜい王の暗殺をたくらむ程度だ」
さらりと物騒なことを言われた。
だが移動装置を多用するディム達には、地上の道が『貿易路』という発想はなかった。
『……これは戦争学や軍事戦略学の一種だな……』
「その通り」
『理解はできる。それで?』
「あからさまに敵対している国とどちらに転ぶかわからない国が残る」
『そうだな』
「これをどうするか――以外に話は簡単だ」
『なんだって?』
「似たような国内の状況に追い込めばいい」
『――』
「国が混乱すれば、内政に集中せざる得ない。戦争なんてやっている場合じゃない。その国が基盤が揺らぐのだからな」
『……その、似たような状況とは――』
「お察しの通り」
あっさりとセオディア・メレ・エトゥールは認めた。
「同じように星が落ちればいいんだ」
一人と一匹の間にしばらく沈黙が流れた。まさかの恒星間天体の破片が、利用されているとは、さすがのディム・トゥーラは思わなかった。
『……実際に星の破片は落ちる』
「そう、私にとっては、渡りに船だった。エトゥールだけの被害ではない。均等に世界を救うために、負担を担うのだから」
メレ・エトゥールは嗤う。
「無論、他国の被害を全く無視をしてもいいが、カイル殿はそれを嫌うだろう。なのでこちらは救済措置を各国にだす。エトゥールの姫巫女が先見をしたという口実で、各国に警告の親書をだす」
どこかディム・トゥーラは、ほっとした。他国の被害予想を沈黙するほど、情がないわけでは、なさそうだ。
「とりあえず1回目は」
『とりあえず?』
「エトゥールは慈善事業をやっているわけではない。当然、等価交換だ。我々はこう言う――次回、精霊の警告があれば、伝えると」
『――』
「警告された方は、混乱するだろう。これはエトゥールの陰謀か?いや、精霊の警告か?どうすると思う?とりあえず、様子を見るしかない。最初の先見の日まで――そしてエトゥールの警告通り、星の破片が落ちる。そこからは疑心暗鬼の塊だ。精霊の姫巫女の先見に驚愕し、エトゥールの精霊の存在に畏怖し、次回の星の落下の有無に憂う。いい時間稼ぎになると思わないか」
ふっ、とエトゥール王は虎に笑って見せた。
ディム・トゥーラは、返す言葉が見つからなかった。
「以上が、エトゥール流権謀術数の入門編だ」
『入門編だって?!』
「もちろんだとも。権謀術数の中では、可愛いレベルだ。おそらく、メレ・アイフェスの中では、埋もれてしまった分野だろう。それにしても天上の初代のメレ・アイフェスと語り合ってみたいものだ。なかなか鋭くて、面白い人物だな。彼に君主論の意見を聞いてみたい」
『やめてくれ。二人が対話したら化学反応を起こして、変な方向に走りそうだ』
「変な方向とは?」
『世界征服とか……』
「初代がその気になれば、世界はとっくの昔に彼らのものだ」
『それは、そうだが……』




